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正常は一種の発狂 村田沙耶香「生命式」

村田沙耶香さんの自選短編集「生命式」
帯にある「文学史上最も危険な短編集!」
その通りでした!!!!


亡くなった人の人肉を食べ、その後性行為をして新たな命を授かる生命式が一般化した社会を描く「生命式」

人の身体が、服や家具、食器などあらゆる材料として使われるようになった
世界「素敵な食材」

魔界都市の料理に、次世代の食事に、虫料理。あらゆる趣味嗜好の料理が入り混じる「素晴らしい食卓」
などなど……。

とにかく、今の世界の規範を揺るがし、何が「正常」なのかをガンガンと揺さぶってくる、危険すぎる短編集でした!!
食事シーン、食べ物の表現の気持ち悪さもピカイチです(笑)


まずは、表題作で私もお気に入りの「生命式」について。

「私、前に中尾さんくらいの体型の男の人食べたことあるけど、けっこう美味しかったよ。少し筋張っているけど、舌触りはまろやかっていうか」

「生命式」p.11

人肉を食べるようになった世界。
まだ人肉が一般ではなかった幼少期、人を食べる、という発言をして、周囲から気味悪がられた主人公は、現在の規範に憤りを感じています。

最初は、突拍子も無い設定に、奇妙さや笑いを感じるのですが、徐々に今自分がいる世界も、こうなるかも…?今が正しいなんて、ありえないな、と、考えさせられました。

ただ気持ち悪い設定というのではなくて、そこで感じた気持ち悪さこそが、現在の価値観や規範の脆さを暴いているようで、引き込まれました。(何十年後には、こんな世界になっているかも……)

そして、そうした食事シーンの気持ち悪さとは反対に、ラストはとてつもなく美しい描写で!!そのミスマッチというか、むしろベストマッチ?に、最後は打ちのめされました。


あともう一つ好きだった短編が「街を食べる」

緑色の塊を口に入れた瞬間、さっきまでいた灰色の噴水公園の風景が浮かんだ。自分が食べているのがあの公園の一部だと思うと、口から出してしまいそうになった。

「街を食べる」p.227

都会に暮らす主人公が、幼少期に祖母の田舎の家で道端に生えていた植物や動物たちを食べたことを思い出し、都会でも実践しようとする話です。

口に入れる=取り込む=一体化していく、というところが、なんともグロテスクで。どんな食べ物であれ、人が触れている。
その触れた人やものを食べ物を通じて、一緒に取り込んでいるような気がして、読んでいて口の中に嫌な味が広がりました(笑)

ラスト、ぐいぐいと(今の私からすれば)狂気の世界に引き摺り込まれていく感じが、よかったです。
同じく村田さんの「タダイマトビラ」を思い出しながら読みました。好きです。


最後に、解説でも引用されていて、強烈な印象を残したこの言葉!

「正常は発狂の一種でしょう? この世で唯一、許される発狂を正常と呼ぶんだって、僕は思います」

「生命式」p.50

正常って何?異常って?

短編集ながら、体内から何か込み上げてくるくらい、一つ一つの物語が濃ゆいです。「最も危険な短編集!!!」ぜひ、読んでみてください。


ここまで、お読みいただきありがとうございました!




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