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水槽の中。③



実際のところ


父が
どんな仕事をしていたかは謎である。



私の言う、実際、とは
表向きではない、
もっともっと
コアな部分の、仕事のことだ。



知らないほうが良い気もする。



とにかく
とても人の出入りが
多い家だった。



年齢層は幅広く、
職業も千差万別。



それは時々、

世にいう悪人と分類される人であったり、
真逆の警察官であったりと
化学反応もおこっていた。



そして、

きっと、

家のバロメーターを
表していたであろう、

その、
魚が大量に泳いでいる水槽は、


人がいる時、
和柄の
大きな風呂敷が
さっとかけられていた。

桐のタンスに和柄の風呂敷。
やはり
粋ではないか。


たちまち
一軒家が建つほどの額か。
一瞬にして
人を狂わすほどの額か。

そんな魚達であふれている。

それに対して
和柄の風呂敷を
さっと羽織らせるとは


あまりにも無防備であり、
この家の
防犯意識・価値観の表現であり、
いや、
もはやインテリアだったのか。


そして、
不思議なことに
誰もその水槽に触れるおろか者はいなかった。


父と、私、以外は。



そう。

私は、
誰も、誰一人触れない水槽に
触れてしまったのである。











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