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若木神の真 28(小説)(エッセイ・とんぼ)

< エッセイ・とんぼ >

 自宅周りを散歩していると、さむざむとした木立が静かに冬越しする気配と冬めく三次元がダウンジャンパーでは隠しきれない顔の表面にピッタリと吸いついてきます。
桜の枝には蕾みが芽生え、今よりもっと寒くなるのを待っていますね。
私は夏生まれだからなのか、とにかく寒さに弱いので、既に冬篭中であります。

例えばおでんの大根。
想像するだけでも少し暖かくなりませんか。
煮込んでいる間、鍋から漏れる湯気とアゴと昆布の香りが台所をぬくめてくれます。お皿の中でだし汁に漬かった大根の煮込み具合を探りながらすっと箸を入れ、一口サイズに割り、はふはふ頬張ると、期待通りだし汁をいっぱいに含んだ大根が芯から体を温めてくれます。
ほろ苦さと甘み。日本のおご馳走ですね。
葉はスズシロ、春の七草であり、大根のありがた味をしみじみと感じています。そして今日も我が家の鍋では地元農家さん直売の大根を炊いています。
目をやれば自然や食など至る所で身近に四季を感じることができる日本。
混沌とした世の中で、ふとした瞬間、季節に触れ、心が休まることがあるかもしれません。
そんな日本や日本人は世界の人達の目にどの様に映っているのでしょうか。
慎ましくも優れた美的世界に侘び寂びを感じとってあるのではないでしょうか。日本人が世界中に伝えられることが、もしかするとまだまだ沢山あるのかもしれません。

♢「われらは黄泉の国の希望であるのか...」
海を渡って秋津洲(あきつしま)にやってくる避難民に、大いなる憂いを持つ八潮男之神。
帰るべき故郷を奪われた大陸の者たち。

🌿秋津先生の著書で、難しい漢字や言葉、興味を持った事などは
 辞書やネットなどで調べながらゆっくり読んでみて下さい。
 きっと新しい気づきがあり、より面白く読み進められると思います。

原作 秋津 廣行
  「 倭人王 」より

阿津耳(あつみみ)は、肩を落とした。

 「もちろん、我々も、大陸での戦いが、秋津洲(あきつしま)に及ぶとは考えておりませんでした。
何しろ、華夏(かか)の民にしてみれば、われらは、東海の彼方に浮かぶ
黄泉(よみ)の国の住人ぐらいにしか思われていないのですから。
だが、大陸を追われた戦争難民は、命を懸けて、黄泉の国に希望を抱いて逃れて参るのであります。」

 「なるほど、われらは、黄泉の国の希望であるのか。」

 「おかげで、八潮男之神(やしおおのかみ)は大陸の情勢にも詳しくなり、海を渡って秋津洲(あきつしま)にやってくる避難民については、大いなる憂いを持たれているのであります。」

 阿津耳(あつみみ)は、さもありなんと大きく頷いて、さらに昆迩(こんじ)の話に耳を傾けた。

「先般より、沖の神島に渡られまして、禊(みそぎ)と祈りの日々をお送りで御座います。豊浦宮は、大陸と秋津洲の最前線なれば、ここは、皆々様のお力を合わせて、お守りいたさねばなりますまい。
豊浦宮(とようらみや)を守ることは、高天原と秋津洲八部族を守ることと同じであります。
今まさに高天原より、若木神の依り代が届けられ、天にまで届かんと皆々の御前(おんまえ)にて、繁り栄えたところであります。
まさしく、蜻蛉(あきつ)の止まり木のごとく、民草の支えとなりましょう。」

 昆迩(こんじ)の言葉は、今回の豊浦宮への襲撃が、これで終わることがないことを暗示し、切々と、阿津耳に訴えたのであった。
だが、昆迩(こんじ)は、肝心なことを、阿津耳(あつみみ)に伝えることは出来なかった。

                            つづく 29

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