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同じ未来を見つめる伴走者たちの素顔|vol.6

「新しい時代の新しい食堂をつくりたい!」

NCL湖南(滋賀県・湖南市)/市民食堂プロジェクト パートナー
長砂伸也さん

《PROFILE》
Shinya Nagasuna●1988年群馬県生まれ。京都の大学へと進学。在学中に経験した東日本大震災のボランティア活動をきっかけに、農業や地域コミュニティに興味を持つ。野菜の卸会社、NPO支援の公益財団法人、Webマーケティング会社を経て、フリーランスのWebライターとして独立。2018年1月からNCL湖南事務局のコーディネーターに着任。4月ごろからJR甲西駅前で毎週木曜日の夕方に無料の駄菓子屋をオープン。11月からは毎週木曜日の朝にコーヒーとお茶のポップアップスタンド「Good Morning Stand」をスタート。老若男女が交流できる場づくりを目指して、さまざまな試みに挑戦し続けている。

個人経営のお店こそが街の個性をつくる!

昔ながらの商店街や店主の顔が見える個人店が次々と姿を消し、気がつけば全国展開のチェーン店や大型商業施設にとって代わる時代。日本各地の街をいろいろ訪れてみると、「どこもかしこも似たような街だな…」と感じることはないでしょうか?どこにでもあるお店ばかりの街はたしかに便利かもしれませんが、地元民の街への愛着を育んだり、市外からわざわざ人が足を運んだりするほどの魅力は薄れていくような気がします。

そんな風潮に待ったをかけようとしているのが、NCL湖南が仕掛ける市民食堂プロジェクトです。このプロジェクトは、生産者と食べる人をつなぎ、さまざまな人たちが集う地域に根差したコミュニティ食堂を立ち上げようというもの。その主導者となるラボメンバー(起業家)を募集しており、新たなチャレンジャーの訪れを湖南市で今か今かと待っている状態です。

滋賀県湖南市は人口約5万5千人。京阪神の都市圏への通勤通学に便利な立地にあり、ベッドタウンとして住宅地開発が進んできたといいます。滋賀県が発信する「ほどほど田舎、ほどほど都会」という暮らしぶりがまさに当てはまる場所。湖南市も先に述べたことの例外ではなく、古くからある食堂や最近できたおしゃれなカフェなどももちろんありますが、大きな国道や県道沿いにはよく見かけるチェーン店の飲食店がたくさん立ち並んでいます。

「“個人経営のお店が街の個性をつくっている”という話を知り合いの人から聞いて、それはすごくわかるなと思ったんですよね。チェーン店しか増えなかったら、ぜんぶ同じような街になってしまうじゃないですか。もちろん、チェーン店の役割も重要で、僕も食事の時間があまりない時やサッと済ませたい時には行きますから。でも、知人から話を聞いた時に、そのチェーン店に負けないくらいに頑張っている地元のお店を応援しないといけないんじゃないかとハッと気づかされまして。それは飲食店に限らないんでしょうけど、まずは街にとって飲食店は重要なので。農業支援にもつながる地産地消に特化した食堂が湖南にあったらいいなと考えたんです」

そう語るのは、NCL湖南事務局のコーディネーターである長砂伸也さん。市民食堂プロジェクトの発案者でありパートナーも務めています。

「NCL湖南のコーディネーターに応募する前に一度、当時住んでいた京都から車で湖南を訪れました。その時は工場が多いなという印象と、意外と田んぼがいっぱいあるんだなと感じましたね。僕自身はお米がめっちゃ好きなので喜んでいましたけど」

大学時代に農業と地域コミュニティに興味をもったという長砂さん。そのきっかけは東日本大震災で駆けつけたボランティア活動を通じて知り合った地域の人たちとの出会いでした。

「はじめは1週間のつもりで被災地に入ったのですが、気づいたら3カ月くらい滞在していました。そのときに、田舎の人たちの生きる力がすごいなと思ったんですね。農業や漁業もそうですけど、自分で食べ物を獲れるし、作れるし。誰もが家を建てられそうなスキルを持っている。ちょっとした電気工事くらいなら自分でやっちゃうみたいなところがあるんですよ。そういう人たちの生きる術を間近に見て、震災直後の話とかも実際に聞いて。トイレも電気も水もない状況を生き抜いてきたというのを知って、僕だったら無理だっただろうなと思いました。それから、地域というかローカル、百姓といわれる人たちの持つスキルにすごく興味がわいていったんです」

危機的状況ではない湖南の地域活性とは

長砂さんがNCL湖南に着任したのは2018年の1月中旬。それから2カ月ほどは地図広げて、湖南のあちらこちらを歩いてまわったといいます。

「気になる名前の会社があったら、ピンポンを押して、お話を聞かせていただいて。湖南にも面白い人たちはいるんだと思いましたよ。そのなかで、農業をされている方と話す機会があったのですが、『担い手不足の問題などは実際にあるけれど、わざわざ外の人にやってもらうことはない!』と、はっきり言われたこともありました(笑)」

農業に興味があった長砂さんは、NCL湖南で何か農業支援につながるプロジェクトを立ち上げられたらいいなと思い、湖南市の農業についてもいろいろ調べたんだそうです。

「湖南で農業されている人の9割以上が兼業農家。農業に関わる人は、就労者数でいうと市民全体の1%しかいないんですよ。なので、農業の街かといわれるとまったくそんなこともない。湖南は耕作放棄地もほとんどないんですし…。プロジェクトとして考えるには新規就農的な文脈ではないなと思いました」

実は湖南市はもとより滋賀県全体は、過疎化や高齢化など深刻な状況でもなく、余裕がある県なのだとか。湖南市のここ10年の人口推移をみてもほとんど横ばいのようです。

「湖南市の高齢化率でいうと約21%。全国平均よりも低く、学生の街といわれている京都市で約27%だからそれよりも低くて、どちらかというと渋谷に近いという。若者もたくさんいるし、子どもも減っているとはいえ全国的にみればまだまだたくさんいるんですよ」

NCL湖南のコーディネーターとして、地域の活性や課題解決につながるプロジェクトを立ち上げるミッションを担っていた長砂さん。湖南市のさまざまな現状を目の当りにしながらも、わずかでもチャレンジしている農家を応援したいという気持ちを大切にし、ここにしかない、湖南ならではといった街の個性を生み出すような食堂というコミュニティづくりを思いつきます。

食べ物とお金の交換以上の価値がある食堂を

プロジェクト名になっている「市民食堂」。どんなことを意識して内容を考えられていったのでしょうか。

「はじめは、市民のために的な要素はあまりなくて、湖南でチャレンジする人、起業家のような人たちが安くて栄養のいいものを食べられる食堂があったらいいなと思ったんです。それから、湖南では労働者として定住している外国人と日本人とのコミュニティが分断されてしまっているという課題もあります。そういうところも分け隔てなく、働く人とか食べに来る人とかもごちゃまぜになるような感じで。誰もが来やすいお店になったらいいねと話をしていて。いつの間にか、「市民食堂」というネーミングになっていたんですけど(笑)。まずは地元の人に受け入れるものを作らないといけないなという思いが強いですね」

長砂さんは、食堂についてもいろいろ調べ、参考にできそうなアイデアを吸収していきました。群馬県桐生市にある「はっちゃんショップ」は、80代のおばあちゃんが一人で切り盛りするワンコインで家庭料理が食べ放題という食堂。奈良市にあるとんかつ店が生活困窮者のために始めた「まるかつ無料食堂」。困っている人を助けたり、頑張っている人を応援したり、食堂には食べ物とお金の交換以上の価値が求められているのではないかと考えていったといいます。なかでも、彼が興味を持ったのは、東京・神保町にある「未来食堂」のビジネスモデル。来店者が50分のお手伝いで1食無料になるという「まかない」や、そのまかないをした誰かが自分が食べる代わりに置いていったただめし券がある時には、困った人はそれを使って無料で食べられるという「ただめし」など、少し変わったシステムが用意されています。

「未来食堂は、店主がおひとりで切り盛りしているカウンター12席の小さな定食屋だけど、1日7枠くらいお手伝いができるんです。毎日7人がお手伝いをして食べていく仕組みって面白いじゃないですか。ボランティアというのとはちょっと違うのかもしれないんですけど、僕自身が考える市民食堂もそんな風にいろんな人が関わる食堂になったらいいなと思っていて。食堂にはまだまだアイデアと工夫の余地があるはず。新しい時代の新しい食堂をつくりたいんですよね」

心地よい風が湖南全体に吹きわたるまで

実際にラボメンバーが市民食堂を始めるにあたって、どんなことをしていくのでしょうか?

「ここでやってくださいという店舗は今のところ見つかっていないので、まずは場所探しからでしょうか。でも、NCL湖南が事務局として使っているコワーキングスペース『今プラス』で週1回から日替わりのランチ営業をさせていただけるので、まずはそこから始めてもらえればいいのかなと考えています」


地元プレイヤーの協力のもと、小さくでもスタートできる環境がすでに準備されているのは、なんともうれしいサポートです。では、求めているラボメンバーはどのようなイメージでしょうか?

「飲食店の経験者はもちろんですけど、未経験者でもいいなと思っています。湖南にいる生産者さんを巻き込んで進めていってくれる人がいいですね。湖南は何かを始めやすい場所だと思いますよ。人口も多いからお客さんになり得る人がたくさんいる。若い人も子どももたくさんいますし。スーパーもあるし、アウトレットも近いし、生活は便利です。IターンやUターンして何か自分で始めたいけれど、めちゃくちゃ田舎は嫌だという人にはすごくぴったりだと思います。生活の負荷が少なく、チャレンジできるのかなと。思った以上に生活のしやすさの安心感ってありますからね」

長砂さんは湖南に着任した当初、地域を歩いてまわるなかでアウェイ感を感じ、ちょっぴり疲れたこともあったといいます。湖南でホームといえる自分の居場所を持ちたいと思うようなり、4月ごろからJR甲西駅前で毎週木曜の夕方に無料の駄菓子屋を始めたんだそう。ふたを開けてみれば子どもたちの人気者になっていて、大人たちとももっと触れ合うために、11月からは週1でコーヒーとお茶を配るポップアップスタンド「Good Morning Stand」を新たにスタートしました。

「朝と夕方にコワーキングスペース・今プラスのある駅前にいると、いつも風が吹いていて気持ちいいなと感じるんですよ。普段みんな車に乗っているから知らないんだろうなとか思いつつ、風に吹かれています」

“湖南”はパッと見た字面から、神奈川県の“湘南”と間違えられることが多いんだとか。「いい波はないけれど、いい風は吹いていますよ(笑)」とおどける長砂さん。その心地よい風が湖南全体に吹きわたり、個性豊かな街になる未来を思い描きながら…彼は今週もまた駅前に立ち、湖南の人たちとの交流を楽しんでいることでしょう。

→募集中のプロジェクトはこちら
http://project.nextcommonslab.jp/project/civic-canteen/

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