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「意識」が物質を変えることを証明:二重スリット世界規模実験

前回は世界中の物理学者たちに大きな衝撃を与え、現在でもその議論が終結していない「二重スリット問題」について取り上げました(*1)。前回の記事で扱った内容をおさらいすると、図1のように光や電子は「他は同じ条件なのに観測するかしないかで“波”になったり”粒子”になったりする」という現象が以前から示されています(*2,*3,*4)。様々な解釈がありますが、最新の研究では「微粒子は波動関数による確率的位置座標を有している(分かりやすく言うと、1個の粒子がどちらのスリットを通ったかではなく、1つの粒子の70%が右側を30%が左側を同時に通過したという確率的な状態が成り立つ)」ことが示されました(*5)。これによって「波なのか粒子なのか?」という論争には「同時に波でもあり粒子でもある」という一つの答えに収束しつつあります。

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この事実により我々は図2の上の様に、今まで常識だと思っていた“古典物理学”の考え方が“量子物理学”においては根底から覆されるという現実をつきつけられました。その現象については解明が進み今では一般人でも「波と粒子の二重性」に異を唱える人はいないと思われます。しかし、微粒子の性質が変化するのは「我々が観測するかしないか」つまりは「我々の意識によって変化するのか?」という点では未だ議論の余地があります。物理学の世界でも「意識という実体のないもので物質が変化するはずがない(図2左下)」派と「もしかしたら我々の意識が物質に変化を引き起こしている可能性がある(図2右下)」派に分かれています。ただ、旧来の考え方や社会通念的には、「原子一個であろうと人の意思によって動かせたならば大事件になる」かもしれません。場合によっては“超能力や魔法”といった常識離れした話も無視できない話になってきます。

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このような疑問を研究した論文を今回紹介します。研究タイトルは「Psychophysical modulation of fringe visibility in a distant double-slit optical system.(遠隔二重スリットシステムにおけるフリンジ可視性への精神物理学的な変化)*6」というもので2016年に米国の物理研究者により発表されたものです。実験の骨子を要約すると「光の波の性質が、世界中の遠隔参加者からの意識集中によってリアルタイムで変化するかどうかを検証した」というものです。

方法1:まず「どのように光の性質の変化を測定するか」について説明すると、図3左のように実験本体の二重スリットシステムがあり、常に光が照射されていて通常は“波の干渉縞模様”がスクリーンに投影されています。通常は“波の性質”によってスクリーンに縞模様が映し出されますが、もし何らかの影響によって“波から粒子へ”と変化が起こった場合、「縞模様に変化が現れる」はずです。図の様に“フリンジ”と呼ばれる縞模様の波形を測定することでその変化を“数値化”したり“統計学的に比較”することが可能になります。

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方法2:次に「どのように光に“意識”の影響を与えるか」についてですが、概要を図4に示します。今回の実験は遠隔地からインターネットシステム経由で、装置と参加者がリンクされました。最初に参加応募した参加者は正式な手続きを経て事前登録されます(不真面目な参加者やネット上の自動プログラム/ボットは除外されました)。“二重スリットの干渉縞の映像”は研究用のサーバーに送られます。実験参加者は任意の時間に自分のパソコンからログインし、実験セッションが開始されると二重スリットの干渉縞の映像が現れます。セッション中の“集中”フェイズでは“二重スリット装置に意識を集中”し、30秒間継続します。次に“リラックス”フェイズでは“二重スリット装置を意識しない”状態で30-35秒間継続します。セッションはこれを交互に11分間繰り返し、最後に終了の合図を送信して参加者が最後までセッションを完了したことを確認して1セッション完了となります。

比較対照(コントロール)となるのはヒトではなく、自動化されたプログラムです。動作は「ログイン開始→集中とリラックスの繰り返しのガイダンスを受ける→11分間のセッション終了→合図を送信して1セッション完了」という人の場合と同様の一連の手順を自動で行います。人間とコントロールの何も同じ様にセッション中の“二重スリット縞模様”のデータは全てサーバーに保存されます。コントロール(自動プログラム)は人間ではなく“意識”を持たないため、人とのデータを比較することで“人間の意識”が光子に影響を及ぼすのかどうかを測定することが可能になります。

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方法3:実験の規模については図5のように世界中77カ国から約1500人の参加者によって実験が行われました。年齢も平均43歳(12〜89歳)、男女比=1:1、参加者も数キロしか離れてない人から18000km離れた人まで幅広く集められました。セッションも8000以上記録され、この間の全ての“集中”フェイズと“リラックス”フェイズのデータが解析されました。但し、セッションは1人が参加している間は他の人や自動プログラムは参加できない様になっているため、“1回のセッションでは常に1人または1プログラムの影響のみ”という環境が終始維持されました。このため、8000以上のセッションデータを集積するのに2013年〜2014年の2年間が費やされました。

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方法4:二重スリットの信号変化の算出/比較方法(補足)
今回の実験で計測/比較された信号変化とはフリンジの波形変化を測定したものですが、具体的にどのように計算式が導かれたか詳細については図6補足に一部記載していますので、こちらを参照してください(数式が得意でない人は読み飛ばしても全く問題ありません)。「9秒のタイムラグ補正」というものが出てきますが、この現象と補正の根拠については次のグラフで説明しています。

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結果1:二重スリット信号の変化(図7)
セッション中の“リラックス”→“集中”フェイズの切り替わりにおける“フリンジ信号変化の統計量”が図7グラフの様になりました。コントロール(自動プログラム)では数値の変動がほとんど無いのに対し、参加者(人:黒丸)の方は切り替わりの前後で数値が一定の傾向で大きく動いていることが分かります。まずは、“リラックス”フェイズから“集中”フェイズに切り替わる際に、“人が意識を向けた場合は二重スリットの干渉縞が明らかに変化している”ということが示されています。一方で、“自動化プログラムに二重スリットをモニタさせても変化は見られない”ということも示されています。

グラフ(図7)のようにフェイズ切り替わりからこの数値がピークになるまでに約9秒かかっており、“ネット通信遅延”、“音声ガイダンスによる遅延”、“参加者が音声を聞いてから意識が切り替わるまでの遅延”、“その他の参加者環境による遅延”といったものが関与していると考えられます。この不完全なデータを除外するためにフェイズ切り替わりから9秒のタイムラグのデータを除外して統計解析が行われました。

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結果2:補正後の各フリンジの変化量(人 vs. CPU)
先程の様に“集中”フェイズのデータでも最初の9秒間はタイムラグによる“不完全なデータ”であるためそれらを除外して解析した結果が図8となりました。グラフを見ても明らかですが、人が意識を向けた時(●)と同じ手順を自動プログラムが行なった時(◯)ではっきりと差が現れました。人のセッションでは図3に示された20のフリンジのうち、多重検定でも17のフリンジで明らかな統計量の変化が見られています(図8、p<0.05)。反対にコントロール(CPU)の方では20のフリンジいずれにおいても有意な変化は見られませんでした
このグラフの結果は、“プログラムが観測するのではなく人が意識的に観測することで光子の性質が変化した”ということを証明しています。

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結果3:検証解析
これらの有意差の出た実験結果に対して、「外れ値のカットオフが極端だったのではないか?」「ごく一部の極端な値が全体に影響を与えたのではないか?」「装置の経年劣化や経時的な環境変化が差を生み出しているのではないか?」「セッション途中でやめる参加者が多かったのではないか?」というような実験バイアスの可能性に関しても著者らはグラフを示して「不自然な実験バイアスは無かった」ということを示しています(グラフ省略)。

まとめ
二重スリット実験の問題点として、「光子が“粒子”と“波”の二重性を持つ」ことに関しては共通認識となっていますが、「その性質を変えるのに“人が意識を向ける”ことが影響を及ぼすのか?」という「観測問題」は完全に解決しておらず、科学者たちの間でも様々な論争が起こりました。その疑問に対してこの実験は「人がその対象に能動的に意識を向けることで光子に変化が起こった(コンピュータの自動プログラムによるモニタリングでは変化が起こらなかった)」という一つの答えを示したと思われます。

そして、この結果は「インターネットという通信環境でも」「年齢・性別・人種や国籍を超えて」「距離が1万キロ以上離れていても」成立することが1500人以上の大規模実験で立証されました。この結果から「人の意識が影響を及ぼすのに物理的な距離は関係ない」と言えそうです。これは過去の記事「“遠隔ヒーリング”は科学的に証明できるか?*7」を支持する結果であると言えます。

またこの結果は“人間の意識”という現状では抽象的/非科学的/形而上学的なものが、光子という自然科学的/物質的なものに直接影響を与える(変化を引き起こす)ということを示した革新的な研究でもあります。もしかしたら「何かを念じる」「強く集中する」「何かに祈る」「意識を向ける」ということはただの「神頼み」や「運頼み」ではなく、「その対象物に何らかの現実的な変化をもたらす」効果があるのかもしれません。また「祈りや願ったこと」が現実となった時、それはただの「幸運や偶然」ではなく、「知らずに自分の意識がもたらした変化」という可能性も考えられますね。

最後にこの研究著者らは考察の部分で「このような実験には安定した注意を維持する能力を持つ人の参加が勧められる。一般に経験豊富な瞑想熟練者は、トレーニングを受けていない一般人に比べると高いパフォーマンスを示した。実験を始める際にはこの様な領域に才能を持つ参加者を見つけることを勧める。」と締めくくっています。これは研究著者の経験からのコメントと思われますが、やはり瞑想熟練者は集中力や意識が影響を与える力が強いことを示唆しています。瞑想は「幸せホルモン放出」「体内環境の変化」だけではなく「外界の物質変化」の能力も鍛えられるのかもしれませんね。

(著者:野宮琢磨)

野宮琢磨 医学博士, 瞑想・形而上学ガイド
Takuma Nomiya, MD, PhD, Meditation/Metaphysics Guide
臨床医として20年以上様々な疾患と患者に接し、身体的問題と同時に精神的問題にも取り組む。基礎研究と臨床研究で数々の英文研究論文を執筆。業績は海外でも評価され、自身が学術論文を執筆するだけではなく、海外の医学学術雑誌から研究論文の査読の依頼も引き受けている。エビデンス偏重主義にならないよう、未開拓の研究分野にも注目。医療の未来を探り続けている。

引用文献/参考文献

*1.「観る」ことで「現実が変わる」?:二重スリット実験
https://note.com/newlifemagazine/n/nf11ac38b370a
*2. 谷村省吾:干渉と識別の相補性--不確定性関係との関わりを巡る論争小史. 数理科学(サイエンス社)2009 年 2 月号 (Vol.47-2, No.548) pp.14-21
*3. 二重スリット実験:Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/二重スリット実験
*4. 単一フォトンによるヤングの干渉実験(浜松ホトニクス/1982年)(Youtube)
https://www.youtube.com/watch?v=ImknFucHS_c
*5. Lemmel H, et al. Quantifying the presence of a neutron in the paths of an interferometer. PHYSICAL REVIEW RESEARCH 4, 023075 (2022), https://doi.org/10.1103/PhysRevResearch.4.023075
*6. Radin, D. Michel, L., Delorme, A. (2016). Psychophysical modulation of fringe visibility in a distant double-slit optical system. Physics Essays. 29 (1), 14-22. https://doi.org/10.4006/0836-1398-29.1.014
*7. “遠隔ヒーリング”は科学的に証明できるか?
https://note.com/newlifemagazine/n/n349ffafbd715

画像引用
*いらすとや https://www.irasutoya.com
*Image by rawpixel.com on Freepik. https://www.freepik.com/free-vector/worldwide-connection-blue-background-illustration_3525476.htm 
* https://wiki.anton-paar.com/jp-jp/double-slit-experiment/

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