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「観る」ことで「現実が変わる」?:二重スリット実験

 今回も前回の「遠隔ヒーリングの実現性(*1)」に続いて“量子物理学”の話題です。我々が“常識”として理解しているのが古典物理学(ニュートン力学)です。物には重さがあり、形があり、運動したり静止したりしています。例えば、「ある1個のリンゴがあれば、誰がどこから見ても等しく同じ形で同じ大きさの1個のリンゴである」ということは古典物理学的には「当たり前」ですし、誰も異論を唱える人はいないと思います。しかしながら、量子物理学の世界では「ある1個のリンゴが2個や3個に分裂したり、見る人によって形のないジュースになったり、また元の1個のリンゴに戻ったりする」という奇妙な現象が起こります。これを示したのがいわゆる“二重スリット実験(*2, *3, *4, *5)”と呼ばれるものです。これを基本的な部分から最新知見まで解説します。

実験編・光や電子は「粒子」か「波」か?二重スリット実験とは「二本のスリット(すき間)から光をスクリーンに投影するとどう映るか?」という実験です。もし「波」の性質を持つのであれば図1Aの水面上の2点に波を発生させた場合の様に互いに干渉し合い、図1Bのようにスクリーンに「縞模様」が映るはずです。一方で光が「直進する粒子」であるならば、図1C/DのコンピュータCGのようにスクリーンにはスリットと同じ様な形状の「二本の線」が映し出されるはずです。

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結果はどうなったかというと、図2Cのように「縞模様」が映し出されました。これは「光」に限らず「電子」という微粒子を用いた実験でも同じ様な現象が確認されています(*2)。光や電子が単純に「直進する粒子」ならばスリット投影部分よりも外側に広がる縞模様を説明することが難しくなります。これによって「少なくとも光や電子は波の様な性質を持つ」ということでこの現象は説明することができます。

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・光や電子は純粋な「波」なのか?
もしもこれらが純粋な「波(振動・エネルギー)」であるならば、その大きさは「ゼロ」から「無限大」まで連続的な値を示すはずです。一方でもしこれらが「粒子」としての性質を持つならば、「最小単位の1個の粒子」としての固有のエネルギー値を持つはずです。
この性質を求めたのが図3の実験です。音波のように純粋な振動のエネルギーであれば、小さくしていっても「限りなくゼロに近づいていく」性質を持ちます(図3左)。これを光のエネルギーで計測し、フィルターを重ねて最小に近づけていくと図3右下のようにどんなに光の量を下げても「これ以上下がらない最小のエネルギー量」が出てきます。これは光の最小単位の粒子として「光子(光量子: photon)」が存在することを示しています。これは光を純粋な「エネルギーの波」と定義するとどうしても説明のつかない現象になります。

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・光や電子は「粒子」?それとも「波」?
これまでの実験結果を見ての通り、光は普通に二重スリットに投影すると「波」のような性質を示し、極小単位まで求めようとすると「粒子」としての性質を示します。古典物理の考え方だと「どっちが真実なのか?」という話になります。あるいは「水分子も膨大な量によって液体の水や波を形成するように、光子も数が集まると波の性質を示すのでは?」など古典物理的な推論も成立しそうです。そこで次のような疑問が生じます。

・光や電子を1個ずつ二重スリットに投影したらどうなる?
先程のように「もしかしたらライトの光は膨大な数の光子が相互作用することによってマクロな波の性質を示すのかもしれない」という仮説を検証するには「じゃあ光子(電子)を1個ずつ二重スリットに当てたらどうなるのか」という考えに至ります。図3右のように光は光量子1個の単位まで分離することが可能です。この状態でスリットを通し、その背面には「1個の光子でも検出可能な検出器」を設置します。恐らく研究者の中には図1Dのように「スリットと同じ形状の二本線」が出現するのを予想した人も多いと思います。しかし結果は図4のようになりました。

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・「粒子」なのに干渉の「縞模様」が出現?
何と、1個ずつ光子を照射したのに通常のライトで二重スリットを投影した時と同じような「縞模様」が出現したのです。この現象を整理すると、「光子は1個ずつ照射された(同時に軌道上に2個存在することはない)」、「1個の光子に対して検出器にも1個の光子が検出された」、つまり「出発点も1個の粒子」で「終着点も1個の粒子」であることが確認されています。それなのに、2つのスリットから発生した波が干渉し合うような「縞模様」が出現したということです。
 この結果から分かることは光子はたとえ1個でも「粒子の性質」も「波の性質」も備えている、という可能性が示されます。(「粒子と波の性質を同時に持つ」という古典物理の概念では捉えられない状態になっています。)

・光子は左右どちらのスリットを通ったのか?
光子を1個ずつ二重スリットに照射したら縞模様が現れました(図5A')。古典物理の考え方にこだわると、光子は常に1個ずつ照射されたのだから、「右側スリットだけ光子が通過した投影と左側スリットだけ光子が通過した投影を合成したら二重スリットの投影像になるはず」です(図5B/B'予想)。ところが実際に片方を塞いで「片側のスリットだけに光子を当てた」ところ図5C/C'のように「縞模様は消失し太い帯状の分布」が見られました
古典物理的に考えると「光子は1個ずつ必ずどちらかのスリットを通ってスクリーンに投影され、縞模様を作った」はずなのに「どちらか一方しか通れないようにしたら縞模様は消失した」のです。これからすると「干渉縞が形成されるには通過してないはずのもう一方のスリットも必要なのか?」という奇妙な疑問が生じてきます。

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・二重スリットで光子がどちらを通過したか観測すると?
前の実験より「何れかのスリットを塞ぐと縞模様は消失する」という結果から、「スリットを塞がずに光子がどちらを通ったか観測するとどうなるか?」という実験が行われました。その結果図6のようになりました。これまでの実験では図6(c)のように干渉による縞模様が見られたのに対して、二重スリットのまま「スリットを通過する電子を観測した」ところ、図6(d)のように「縞模様が消失した」のです。また更なる不可思議な現象が起こりました。ただ同じ工程を「観測しただけ」で「現実の結果が変化した」のです。

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解釈編・まずは「光は粒子なのか波なのか?」という点について解説していきます。
読者の皆さんも既に思考が柔軟かと思いますが、「光子は粒子でもあり、波でもある」という答えを聞いても異論を唱える人はいないと思います。言い換えると「量子の世界では1個の固形のリンゴは、形を持たないジュースの状態になったり、また1個のリンゴに戻ったり、同時に二つの状態であったりする」という、もう古典物理では説明できない状態を保持しています。

・次に「縞模様が出た時、光子はどのようにスリットを通過したか?」。
今のところ有力な説としては「1個の光子が一定の確率で右側と左側両方のスリットを通過した」と言えます。別の言葉では「スリットを通過するときの光子は、1つの座標に存在する1つの点ではなく、波の様な広がりを持ち確率分布で表される空間的な広がりを持っていた」、つまり「ある1個の光子は60%右側を通過し、40%左側を通過してきた」という現象も起こり得ます。そのため「1個の光子がスリットを通過する際に、空間的な広がりを持ち別なスリットから同時に出てきた自己の一部と干渉して、縞模様を形成した」と説明できます。このように「1個の光子がどちらを通ったか?」という古典物理学的視点では永久に解決しない現象と考えられます。

・では「スリットを通過する光子を観測したらなぜ縞模様が消失したのか?」。
これはシュレーディンガーの猫の喩えの様に、「物質は観測されるまでは複数の状態を一定の確率で保持している」が、「観測されることで一つの状態に収束する」と言えます。「スリットを通過する際の光子は観測される前までは波として通過していた」が、「観測によって光子は“粒子”の状態になった」。その結果、「1個の光子が1つのスリットを通過したのと同じ現象」になり、「波の性質は失われた結果、縞模様も消失した」という説明が大雑把ですが今のところ有力と考えられています。

但し、この「観測」という言葉の定義が非常に曖昧です。計測器を設置した時点なのか、計器のスイッチをONにした時点なのか、モニタを人が知覚した時点なのか、人が「観測しよう」と意図した時点なのか、「どの時点で光子が粒子に収束するのか」は正確なところは未解決と言えます。ただ少なくとも図6のように「光子がスリットを通る瞬間を観測したら生じた現象が変化した」というのは紛れもない事実です。

詳しい解説はここでは避けますが、量子力学においてある粒子の空間的広がりなどを波動関数等を用い観測により波動関数が収束するという解釈は「コペンハーゲン解釈(*7)や標準解釈」と呼ばれているようです。一方で波動関数の収束は起こらず異なる世界として分岐していくという「多世界解釈(*8)」、また、人間の意識が量子に影響を及ぼすという「意識解釈(*9)」、また「量子デコヒーレンス(*10)」という概念、その他いくつかの解釈が存在するので興味のある人は調べてみてください。

最新編
この二重スリット問題に対して、オーストリア・フランス・日本の広島大など共同研究チームによる最新の知見が2022年4月に発表されました(*11)。これには中性子が用いられていますが、「従来の観測という行為から生ずるあらゆるバイアスを最小にする」方法を実現するために図7のような非常に大掛かりな装置を使用しています。やはりこの検証の結果としては、「単純に1個の粒子が1つのスリットを通っているわけではなく、1個の粒子が一定の比率で2つのスリットを同時に通過している」と言えそうです(詳細は原著を参照してください*11, *12)。もちろんまだ未解明な部分もありますが、一つの解釈が裏付けられました。

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まとめ
ここで重要なポイントは、「我々がそれを観測しようとする」と「粒子はそれまでの不確定な状態から確定的な状態へと変化を起こす」ことが明らかになりました。逆に言うと「我々が粒子に対して観測しようとした時のあらゆる干渉を排除するためには図7ほど大掛かりな装置が必要になる」と言えます。
おそらく、「我々の周辺に普遍的に存在するあらゆる粒子」も「我々が意識せずにいる間は“あらゆる可能性を内包した不確定な状態”として存在している」、しかし「我々がそれらに意識を向けたときに、それらの粒子は不確定な状態から一つの確定的な状態へと形を変える」ということが、“光子でも電子でも中性子でも成り立つ現象”と言えます。
そして上に挙げた素粒子のみならず炭素原子60個でできたサッカーボールのようなフラーレンという大きな分子でも“二重スリット現象”は観測されています(*13, *14)。これは単体の素粒子のみならず「大きな構造を持つ分子の状態でも、その構造を保ったまま量子力学的な状態変化を起こす」ことが示唆されます。

この「瞑想」をテーマとした記事で「二重スリット問題」を扱った理由は「量子力学と意識の関係」にあります。「意識すること」と「現実世界の変化」との関連性は古典物理学的には「関係ない、起こり得ない」と思われてきたかもしれません。ただし、今回のように量子力学ではそれは“十分に起こり得る”と考えられます。前回の記事でも「“細胞の写真”に量子エネルギーを送っただけで数千キロ離れた培養細胞が活性化する(*15, *1)」という古典物理で説明できない現象が量子テクノロジーで実証されたように、量子力学に我々の一般常識は通用しません

このようなことから我々が普段意識を向けていない部分に意識を向けることで現実に変化を起こすことが可能なのかもしれません。“科学”と“人の意識”はなかなか結びつきにくい領域ですが、“量子力学”ではこれらの相互作用も認めざるを得ないことが分かりつつあります。「内観によって外界が変化するか?」というのは瞑想の一つのテーマですが、瞑想による“まだ未解明の現実化のメカニズム”においては“量子力学”が何らかの鍵を握っているしれません。

(著者:野宮琢磨)

著者プロフィール

野宮 琢磨 Takuma Nomiya 医師・医学博士
臨床医として20年以上様々な疾患と患者に接し、身体的問題と同時に精神的問題にも取り組む。基礎研究と臨床研究で数々の英文研究論文を執筆。業績は海外でも評価され、自身が学術論文を執筆するだけではなく、海外の医学学術雑誌から研究論文の査読の依頼も引き受けている。エビデンス偏重主義にならないよう、未開拓の研究分野にも注目。医療の未来を探り続けている。

引用文献/参考文献
*1. “遠隔ヒーリング”は科学的に証明できるか?
https://note.com/newlifemagazine/n/n349ffafbd715
*2. Jönsson C (1974). Electron diffraction at multiple slits. American Journal of Physics, 4:4-11.
*3. 二重スリット実験:Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/二重スリット実験
*4. 二重スリット実験(Youtube)
https://www.youtube.com/watch?v=vnJre6NzlOQ
*5. 単一フォトンによるヤングの干渉実験(浜松ホトニクス/1982年)(Youtube)
https://www.youtube.com/watch?v=ImknFucHS_c
*6. 谷村省吾:干渉と識別の相補性--不確定性関係との関わりを巡る論争小史. 数理科学(サイエンス社)2009 年 2 月号 (Vol.47-2, No.548) pp.14-21
*7. コペンハーゲン解釈:Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/コペンハーゲン解釈
*8. 多世界解釈:Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/多世界解釈
*9. 量子力学の観測問題について
https://tmcosmos.org/taka/think/kansoku.html
*10. 量子でコヒーレンス:Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/量子デコヒーレンス
*11. Lemmel H, et al. Quantifying the presence of a neutron in the paths of an interferometer. PHYSICAL REVIEW RESEARCH 4, 023075 (2022), DOI: 10.1103/PhysRevResearch.4.023075
*12. "二重スリット実験では1つの粒子が2つの経路に分割されている、広島大が確認"https://news.biglobe.ne.jp/it/0506/mnn_220506_4874634060.html
*13. Arndt, Markus, et al. "Wave-Particle Duality of C60 molecules." Nature, v. 401, 1999, pp. 680-682.
*14. フラーレン:Wikipedia, https://ja.wikipedia.org/wiki/フラーレン
*15. Peter C Dartsch, Effect of 90.10. Quantum Entanglement on Regeneration of Cultured Connective Tissue Fibroblasts. Biomedical Journal of Scientific & Technical Research. September, 2021, Volume 38, 5, pp 30841-30844. DOI: 10.26717/BJSTR.2021.38.006227

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