【エッセイ】旅動画を作ろう①─下越地域を一周しよう!─(『佐竹健のYouTube奮闘記(43)』)
忙しくなったきっかけは、5月の中ごろからだった。
3月に引っ越してからも変わらず、下手くそな歴史小説やエッセイなんかを書き、たまに動画を作ったり、写真を撮ったりしている。そんな日々が、引っ越してからも変わることなく続いていた。
だが、そんな日々に変化があったのが、ゴールデンウィークに、れいの配信と動画を見てからであろう。
彼の配信は面白かった。
アプリで配信しているスマホのカメラから
と同時に昔暮らしていた街が今どうなっているかわかったので、面白いものが見れたなと思う。
この配信はそこそこ盛り上がった。そして勢いづいた後輩は、毎日のように配信をするようになった。
配信の内容は、静かな夜の住宅街を散歩しながら、日々のよしなしごとを話すというものだった。休みの日は、車で隣町や少し遠くの街に行く道すがら話すということもあった。
その配信で私は、コメントで彼の話を聞いて何かしらの反応をしたり、今日あった日のことを話したりしていた。そんな他愛もないことが、毎日のちょっとした楽しみになっていた。
配信を始めて2、3週間が経った頃だろうか。後輩はこの辺りの配信で、
「旅がしたい」
と言い出したことがあった。
『どこへ行くのかな?』
行き先が気になった私はコメントした。
後輩は、
「まず、遠くに行くのは難しいから、最初に新潟県を一周しようかな!」
と自信満々げに答えた。
『正気か!?』
新潟一周と聞いて驚いた私は、思ったことをそのままコメントした。
「うん。お盆時を使って相方と一緒にやろうと思う。なぜ、新潟一周にしたかについては、好きなYoutuberが車で関東一周してたから、俺もやりたいなと思ったから。あと、佐竹さんが川越行ったって話を聞いたのもある」
『なるほど』
意外なところに私の影響力が働いているんだなと思った。同時に、後輩のプランについても考えた。
私は、彼の好きなYoutuberの作品を勧められて見たことがある。
内容は、車で関東を一周し、集めた食材で鍋を作るというものだった。行く場所のチョイスもなかなかセンスがあったし、車内トークも頭を使わずに見ていられて面白かった。
ここで、彼の好きなYoutuberの旅動画と、彼のプランを比較してみよう。
関東平野を車に乗って2泊3日で一周することに関しては、意外と簡単であると思う。山地が少ないので、ルートさえ選べば、東京、埼玉、群馬までは1日で行けるからだ。少し頑張れば、栃木、茨城も1日で行けるのではなかろうか。千葉に関しては、1日で行けるかは怪しい。2日目に千葉を走り、神奈川を渡っていけば、すぐに一周できるからだ。ただ、彼の好きなYoutuberは、群馬と栃木の県境を山間の道で越えたり、海路で館山から神奈川へと渡ったりするなど、かなり冒険的なことをいくつかしていたが。
対して、後輩の提案した越後国と佐渡国こと新潟県は、縦長で、三方を山に囲まれている。おまけに佐渡は海を挟んでいる。
「山と海」
この障害はかなり大きい。
山を越えるとなると、勾配とかがあるから、それを乗り越えるための乗り手の体力や車の燃費の良さが必要になる。そして何より、この山越えに割かれる時間が莫大なものになるだろう。
海はもちろん海上輸送がネックになってくる。越後から佐渡へ渡るためには、当然海を渡らなければいけないからだ。それに、北海道や淡路島、四国のように橋やトンネルで繋がっていない。また、館山から三浦半島のように、新潟から佐渡まではすぐに行ける距離ではない。なので、当然輸送費もかかってくる。
そして、行くのがお盆時という問題もある。
彼の好きなYoutuberが撮影を行ったのは、冬場の関東という気候も安定していた時期だった。もっと具体的に言えば、年末の少し忙しくなるくらいの時期に撮影していた。だからこそ、冒険的なことができるくらいの時間的余裕があった。また、寒さというのは、暑さとは違って厚着をするなど対策を立てやすい。
対して、後輩のお盆時という時期に関しては、まず、かなり無理がある。
お盆時は交通網がとてつもなく混んでいるので、移動に時間がかかる。テレビを見ていてもわかるように、高速道路はものすごく混んでいる。加えて、お盆時は物凄く暑い。毎年30℃以上は超えるので、車内が暑くなる。熱中症対策にエアコンもつけるので、ガソリン代もバカにならないだろう。
これらのことから、移動を要領よく進められたとしても、越後の半分ぐらいを一周するのが関の山だろうという予測が私の中に立った。
彼の弁に関しては、相方も、
「無理だ」
と突っ込みを入れていた。
これをうけて私は、
『さすがに新潟一周は無理だろうから、せめて下越(新潟市や阿賀野市などを含めた新潟県北部の地域)一周とかにしたら?』
と提案してみた。
さすがに新潟県一周は無理でも、多摩地域(東京西部)とか秩父地域みたいな県の中にある地域くらいなら、実現できそうと考えたからだ。ちなみに下越地方は、新潟県の3分の1サイズくらいの大きさだ。ところどころ山々してるところもあるが、2泊3日で新潟一周という途方もない企画よりも、実現可能性がある。
この提案をしたあと、後輩は、好きなYoutuberが車で関東一周してるんだからできないわけがない、とごねた。
距離や輸送の問題、時期や混雑の問題、暑さの問題。私はその話を聞いていたときに、先ほど考えていたことを全て話した。
しばらく考えたあと、後輩は納得してくれた。ただ、相方との予定がお盆時しか合わないということで、お盆時という条件だけは固辞していた。
のっぴきならぬ事情があることを知った私は、お盆時という条件を受け入れた。
最初からぶっ飛んだ意見が出た後輩の旅動画企画。ひとまず新潟という広すぎるくくりから、下越地方一周という感じで、何とか現実的な形となった。
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