“ハタケ”なのに、”タマリバ”でもある。二子玉川の「タマリバタケ」を訪れました!
皆さんは「エディブルシティ」という言葉を聞いたことがありますか? 直訳すれば、「食べられる街」。あまり農業が身近ではないのでは…? と思われるかもしれない都市部でも、様々な形で農業をしていこうという試みが進められています。一方、「2022年問題」といって、都市内の農地が減っていくかもしれないという課題もありましたが、国の新たな政策により急速な減少は回避されているようです。とはいえ、農地の減少は進んでいきつつあります。
そんな中、農業振興や農地保全という課題に対して、自治体とNPO法人が協働で取り組む事業があります。その名も「タマリバタケ」。この取り組みを始めた、NPO法人 neomuraの3人にインタビューしました🎤
1人ひとりの「やりたい!」をゼロから実現に
~生活×農~ アイデアで生まれる空間
武井さん 2〜3年くらい前に新井と私で”ファームトゥテーブル(Farm to table)”というコンセプトで「自分たちが作ったものを自分たちで調理して食べられるようなレストランを作りたいよね」と、けっこう本気で話していました。
その時に用賀近辺の農家さんを4, 5軒くらいまわり、話を聞きました。用賀の農家さんは困っていなくて、「食べるためにやっているよりは畑が好きだからやっている」「昔からやっていたから残している」という理由で土地を守って下さっている方がいるのですが、その方々が、ご高齢になってきているんですよね。大体70~80代。
私自身、それを聞いて「次の世代でこの土地ってどうなるのかな?」と深刻に感じたんです。その地主さんには、お子さんが2〜4人いて、大抵の方がサラリーマンになっていて。それで、この土地をどうするかというと、相続税を払えないから駐車場にしたりマンションにしたり収益物件にしたりしてしまう。多くの場合は住宅になってしまう。それって本当に地域にとって良いのか。そこで僕らが何を出来るのか考えたときに、小さくてもよいから、自分の生活圏内にビジネスとしての農業ではなくて生活としての農っていう空間を持てないか、と思って、区へ提案にいったんですよね。様々な方に相談をしていたところ「区が所有している土地を利活用する提案型協働事業があるから、その中で畑をやってみませんか」と逆提案をいただいたんです。
地域の方と協力し合い完成された”タマリバ”
武井さん 2021年(一昨年)からタマリバタケが開始されました。そこから名前や場所を決め始めました。私たちは用賀のコミュニティなので、最初は用賀でやりたかったのですが、成城や三宿、上野毛、二子玉川など様々な場所の提案をもらいました。この場所が比較的用賀から近かったのと、サイズ的にも70坪くらい200数十㎡くらいと、そんなに大きすぎずいいかな、ってことで始めました。コンセプトは名前の通りです。収穫する量や収益を目的とするのではなく、借りている人同士のコミュニケーションを活性化したいと考えているため、いわゆるレンタル農園みたいに区画は設けていません。関わる人たちみんなで、この場所をどうやって運営していくか。何を育てていくのか。収穫してどうするのか、など考えて、みんなで作る畑かつ”タマリバ”になるとよいね、ということです。
集う人々も育つ植物も多種多様、各々の活動が光る場に
武井さん “タマリバ”としては、農に関心のある方が集まって農業に関する勉強会を開催したり、子どもと大人が混ざって遊んだり学んだりしています。”ハタケ”としては、世田谷区の職員さんも一緒になってスコップで掘ったり、そこで収穫した野菜を調理してみんなで食べたりしています。珍しい植物も多いんですよ。例えば、菊芋やゴマ、ゴーヤ、お化けみたいなオクラ、万願寺唐辛子、とうもろこしが採れます。最近では、収穫できるものも増えてきていて、いちご、かぼちゃ、バジルを採りピザを作りました。お米も育てていますし、コンポストも作りました。
5月には手作りの紙芝居を使って上映会をして下さった方がいて、6月くらいには砂場を作り、夏には地域の方々と竹林に竹を取りに行き流しそうめんを、10月には藍染ワークショップをしました。上野毛の農家さんが苗を下さり、タマリバタケで育てた後、収穫したブルーベリーを農家さんに届けに行ったこともあって、「他の農家さんとの関わりもいいな」と思いました。
さらに、こんな都会のど真ん中とはいえ、虫がすごくて、多様な生き物がいます。ドクダミで虫よけスプレーを作ったりもしています。
新井さん あと、オーガニックコットンを育てる経験って、なかなか得られないと思うのですが、オーガニックコットンのブランドの会社をやっている方がコットンの種を持ってきて下さって、みんなで蒔いたこともあります。
武井さん 行政職員の方や地域の方がごちゃまぜになって関われるのも楽しいですよね。
新井さん 最初は「荒れ地をどうするのか」というところから始まりました。もともとは草がボーボーの単なる空き地で、半年くらい草をひたすら刈る日々だったんですよね。農に詳しい方が協生農法を参考に、基本的には自然農で農薬も肥料も使わずに育てられる方法を教えて下さいました。
武井さん 自然農は、いわゆる”ほったらかし”農法です。木を1本立てて、その周りに相性の良い多種多様な植物を植えていくので、助け合いのシナジーで育っていく。
新井さん あと城田さんが、呼吸をしているかのように(笑)絵を描ける人でして、私たちの取り組みを毎回絵にして下さいます。
城田さん 農業は初めてで、まだ分からないけど第一次産業には元から興味があって、タマリバタケを訪れて日々勉強しています。絵は自分の記録・勉強として書き始めました。最近は、記録をつけたファイルをタマリバタケに置いて、みんなに進捗の共有をしています。写真や言葉、絵を使ってアプローチを行っています。試行錯誤しながら農×アートを現場で試しています。
Facebookでより広くつながるコミュニティ
武井さん タマリバタケの進捗は、主にFacebookグループで共有し、地域のつながりとなっています。幅広い年齢層の方が入っているのですが、ご高齢の方もネットリテラシーがとても高いです。
新井さん 場所を開いていると様々な方が集まって下さいましたよね。
武井さん 現在、Facebook グループには約400名いて、半数が世田谷区在住ですが、「自分で住んでいる場所でもこういうことをやりたいです!」と、遠方から見学にいらっしゃる方も増えています。そういった方には、ホウレン草の種を取る作業をひたすらやっていただいたりしています。
とにかくコミュニケーションが活発で、ものすごい量のやりとりをしています。例えば、この場所の今後について話し合う場や、「プランターが欲しいんだけど持っている人いないかな」など情報共有の場、新たなアイデアが生まれる場にもなっています。Facebookグループはそれぞれの個人アカウントから投稿できるので、みんなで作っていっている実感があるのが良いですね。
もちろん、他のSNSやチラシ、回覧板でも発信しています。最近では、取材も来たりしているんですよ。本にタマリバタケを取り上げていただく予定もあります。
読売新聞
社会福祉協議会 上野毛地区事務局
Hanakoママ
ねつせた!メンバーからの質問・感想
さや 世田谷区が保有する土地を利用されているとのことでしたが、その土地は借りられているのでしょうか?
武井さん 無料で借りていて、土地の所有者は世田谷区です。しかし、”暫定利用”の状態。提案型協働事業なので、世田谷区から年間50万円の実費補助金を出していただいています。必要な物品はなるべく自分たちで持ち寄ったり調達したりすることが多いですが、やっぱり初期の頃はいろんなものがないとできないことが多いので、物品の購入については補助金に助けられています。
さや 最初何もなかった土地から土壌を作っていく工程など、知識が必要な場面が多かったと思うのですが、これまでどのように進めて来られたのでしょうか?
武井さん 面白いことに、タマリバタケってオープンな場なので、「こういうのはありませんか?」と聞くと集まってきたり、専門家を紹介してくれたりします。とはいえ、逆に集まらなかったりすると、なかなか進まないこともありますが「それもしょうがないよね」という選択肢もとっています。オーガナイズ(体系化)することやキーパーソンとなる人も確かに大切なのですが、計画通りに進めることが目的になり過ぎると負担が大きいので、緩くやることもコミュニティを続けていく上で重要なのかな、と思いますね。種や苗は、家にあるものを持ち寄って植えています。
さや 農業を”やろう”ではなく”やらなきゃ”だとなかなか始めるのに抵抗があると思うので、フットワーク軽く始められる工夫が素敵だなと思いました。
新井さん 農もそうなんですけど、楽しいところに人が集まるのかな、と思っているので、いつでもねつせた!の皆さん来て下さい!
ゆー 近くでこのような畑があることを知らなかったので先日行ってみたんですが、お話を伺い、土地の中にいろんなことが詰まっていると知って、とても素敵だと思いました。
農に関する専門知識を持った方々の他に、どのような方がいらっしゃるのでしょうか?
新井さん いろんな方がいらっしゃいますよ。必ずしも農業をしなければならない、専門的な何かを持っていないと来られない場所というわけではなくて、公園のように、みんなが居場所感覚のように使い、ブランコで過ごしたり、本を読んだり、ここにいるだけでも自由に過ごせる場にしていきたいです。
城田さん がっつり畑をやる場所というより、様々な交流によりチャンスが生まれ、次につながる場所のようにも感じています。
ゆー 良い意味でみんなを巻き込んでいて、すごく楽しそうだと思いました。
自然と人とのつながりで癒される、都会のオアシスのような場所ですね。区にとってもメリットが多く、地域の方々を幸せにするタマリバタケは地域の魅力をさらに高めていくと思いました!
りお 実は、私は何度か来させていただいていまして、空き地だった頃のことを思うと、ここまで来ていて素晴らしいと感じました。タマリバタケはいろんな人とゆっくりお話できる場であることが良いところだと思います。
さとぽん 城田さんの素敵な絵からタマリバタケという場所の温かさを感じました。実際にタマリバタケは1人で初めて来ても自然と輪の中に入り、周りの方と話せるような雰囲気を感じました。自分の家の近くにもこんな場所があれば地域の方と関わる良い機会になりそう。
様々な立場・職業の方々が自分たちのアイデアを出し合って作り上げていく、とても素敵な場所でした!
さや 世田谷は農地が多く残っていて、私は今も世田谷で見ることができる田園風景が大好きなのですが、大学で都市農業について研究した際に、都市農地は相続税などの要因で減少の一途を辿っている現状も同時に知り、私自身どうにかならないかと危機感を抱いてきたところでした。そんな中、「タマリバタケ」の取り組みを知り、「何と素晴らしい考え方なんだ!」と感銘をうけました。インタビューでお話されていた「ビジネスとしての農ではなく、生活としての農をつくりたい」というお言葉が特に強く印象に残っています。私は世田谷区在住ではないのですが、こういった畑×公園のような、地域の人たちが気軽に集まれて何か一緒に作業できて自然と会話が生まれる空間が自分の地元にも欲しいです。
地域の人たちがつながれる「コミュニティづくりの場」として、また畑が減っていて都市農業の課題が多い現状のなかで、タマリバタケの取り組みは画期的で素晴らしいものだと感じています。これから先、タマリバタケのような取り組みがもっといろんな場所で行われて広がっていくと良いなと思いました。社会人になっても、またタマリバタケに遊びに行きたいです!
この度は貴重なお話ありがとうございました。
タマリバタケ 公式HP
タマリバタケ Facebookグループ
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