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【夜宵★日記86】『私のことだま漂流記』(山田詠美)

2023/6/13

私は高校生の頃から山田詠美が好きだった。

大人の恋愛模様がおもしろく、文体に品というか洗練があって心惹かれた。

著書は大概読んでいるはずだ。

図書館の本が多いけど・・・(←詠美さん、すみません)。

最近これも図書館で見つけた、山田詠美著『私のことだま漂流記』。

小説だと思って読み始めたら、どうも自伝のようだ。

後の小説家・山田詠美に影響を及ぼすことになるエピソードが、幼い頃から時系列で綴られている。

これまでもエッセイや対談集などで私生活や事件を垣間見ることはあったが、これほど体系的に詳細にまとまっているものは初めてだろう。

自身も述べていることだが、記憶の鮮明さにまず驚く。

その高い記憶力、経験を稀有たらしめる感受性、深い洞察と考察、言語化の時期を見極める感覚、等等。

これらの要素が小説家・山田詠美にとって重要なのだと判明していく。

むろん、膨大な読書量を背景とした言語表現・センスはいわずもがな。

そして、山田詠美の小説は、山田詠美の人生を山田詠美という特別な個を通して精製したエッセンス、まさに「ことだま」だということに至るのである。

この本は「自伝」という体をとりながらも、「小説家・山田詠美論」にとどまらず、「山田詠美の小説家観」にまで筆が及ぶ点も興味深い。


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