世にも奇妙な物語「自殺者の声」
俺の名前は佐野健司、霊媒師をやっている。
おもに事故物件のお祓いや、霊に憑かれた人の除霊をする特殊な仕事だ。
生まれた時には、すでに強い霊感を持っていた。
普通の人には見えないモノが見える体質で、両親も霊に携わる仕事をしており、私自身自然と霊媒師をやることになっていった。
今日の仕事は、とある団地に住み着く地縛霊を除霊することだ。
かれこれ数年前から、この団地では自殺者が何人も出ているという。
今回の依頼は何やら不吉な予感がしたが、知り合いから頼まれたので渋々引き受けることにした。
団地に到着すると、何人もの人影が屋上から飛び降りを繰り返していた。
普通の人間にはもちろん見えない、私だけがこの異様な光景を目にすることができる。
自殺をする理由は人それぞれ異なるが、多くは辛い現実から死んで逃げ出したいと思う気持ちが強くなり、何かの拍子で自分の命を絶ってしまうケースが多い。
かといって自殺をしたものは辛い現実から抜け出すことはできない。自殺をすると、あの世の決まりで途方もない時間、自殺をするという行為を繰り返す罰を与えられる。これが地縛霊が発生する原因だ。
これの一番マズイところは、この地縛霊が1回でも発生してしまうと、怨念の度合いによっては異なるが、その場に近寄る生きている人間をも道ずれにしようとしてくることがある。守護霊が弱い人間、精神的に弱っている人間は、この地縛霊に引きずり込まれ、同じように自殺を実行し、死んだ後も魂のまま自殺を繰り返すようになる。
私の除霊方法は、この自殺を繰り返している魂達に特殊な妖力を使い、霊たちの動きを止め、生前の無念を聞いて魂を解放させるといったやり方だ。
今回も団地に纏わりつく霊たちを止めて、霊たちの無念を聞いた。
「私を止めたのはアナタ?」
「はい」
「私は霊媒師です、安心してください」
「あなたの魂をこの土地から解放するためにここへ来ました」
「そう、ようやくこの地獄のような時間から解放されるのね」
「あなたの生前について、お話してください」
「あなたは何故自殺をしてしまったのですか?」
「私が自ら命を絶ったのは、職場でのパワハラが原因よ」
「毎日のように同期達の前で怒鳴られ、上司の失敗も私のせいにされて、何度も苦しい思いをしたの」
「そんな毎日から解放されたい、逃げ出したいと思って自ら命を絶ったわ」
「・・・。」
「職場を辞めるという選択肢は取らなかったのですか?」
「最初はそう思った。でも親からの期待、仕事を辞めたら世間に冷たい目で見られる、駄目な人間というレッテルを貼られてしまう。そう考えたときには、もう自ら命を絶つしか考えが思いつかなかったの」
「そこまで追い詰められていたんですね・・・」
「もう大丈夫ですよ。私があなたをこの世の苦しみから解放させます。」
「ƌĂ??悤?ɂȂ肻?ꂪ??̑㖼」
「安らかに清らかに、天へ上りなさい」
「ありがとう。ありがとう・・・。ありがとう・・・・・・」
地縛霊本体が天へと昇って行った。
「終わった・・・。」
そうつぶやいた次の瞬間、異常なまでの悪寒が背中に走る。
「オイ・・・。オイ・・・!!!」
「オイ!!!!」
振り向くと、10人ほどの黒い人影と宙に浮く血だらけの顔がこちらをじっと見つめていた。
その光景はとてもおぞましく、いままでここで自殺していった無念の魂達が私に何かを訴えかけているようだった。
これらの霊は、さきほど除霊した地縛霊の彼女が道ずれに引き連れてきた人たちの魂だった。
私は1人1人の魂に向かってお祓いを行い、全員を成仏させ終わったのは、除霊開始後から半日経ったときだった。
「ようやく終わった・・・」
「今回の除霊はいつもよりハードだった。これは報酬を追加で請求しないとな」
そうつぶやきながら依頼主の元へ帰った。
その後、団地からは自殺者が出なくなり、元の平穏な土地へと戻っていった・・・。
※この物語はフィクションです。実在の人物や団体などとは一切関係ありません。
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