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【壱ノ怪】星月ノ井、千年の刻待ち人(20)

20:かぐら、玉響に涙す


とうとう。


とうとうだ。


自分の冬休みは今日で別れを告げる。


自分の冬休みの計画といえば、とりあえず一日目はゲーム三昧。

それから翌日には新学期の準備を猛烈な勢いでして、

それからあとはもう・・・


家から一歩も出ずに新しいゲームをやりこんで、ブログにも書き込んで、

仲間内とチャットオフ会して、美味いもん鱈腹食べて・・・

満喫!!




するはずだった。


するはずだったんだ。





それが・・・ホラーに次ぐホラー。


悪鬼、魑魅魍魎、怨霊ときたもんだ!!


で、自分が鬼神が入っててこの世で最も嫌いな幽霊まがいの・・・
まあそれ以上なんだが・・・そいういうのをなんとかする役割な上に!!

華絵巻師とかいう謎の職業で神事っていうか神だから仕事しろって言われて、で、またそっちもホラーで・・・。

現実的にも仕事を辞めて、ほとんど話したことない女性と夫婦経営よろしく喫茶店をやれと言われて、

逃げようにも逃げたらホラーで大変なことになり、
もはや逃げ道なんてない。


信じたくなくても見聞きしているのもあるし、なによりあの


小舞千さんの真剣な表情や、進撃な態度、
それから命を懸けている志を見ていると・・・。


 

「俺には関係ありません。勝手にやってください。さようなら」


  


なんて、口が裂けても言えない。


狐少女や烏天狗、子龍までいつも自分を気にかけてくれて、
そしてやはり命がけで守ってくれている。

本気で心配もしてくれる。

そんなことが今まであっただろうか?


1人で解決してきたし、社会は敵ばかりで自分を蹴落とそうとするか、爪弾きにしようとしてくるか、馬鹿にしたり、利用したり・・・
そんなことばかりだった。


家族にはこのまま幸せになってもらいたい。


だが自分は家族を信じられないでいる。


まだどこか自分を見捨てると思っている。


その気持ちがいくら時間がたっても拭いきれない。
あの時、自分は誰からも守られなかった。
理解もされなかった。
貶められ、傷つけられ続けた。

それを、誰も理解してくれなかった。

だから、自分は今後一人で生きていき、誰も信じない。


そう・・・


思っていたんだ。





「いやぁめでたい!!神楽君が小舞千を・・・!小舞千を鬼神様になって護ってくれたなんて!!しかもカッコいい助け方じゃないか!!俺は・・・
俺は・・・やっぱりまだ引退したくなかった!!」


「あなたまだ言ってるんですか・・・?危ない所だったんですよ?」


「佐竹さん、体の呪詛は粗方取りましたがまだ体が痛むと思います。しばらく辛抱してください。お辛かったらまた言ってくださいね」


益興さん、藍子さん、小舞千さんが、朝食を囲みながらそう言ってくれる。少し前は調子の良いこと言う人だ・・・、客だから気遣ってくれてるんだろう・・・。ぐらいに思っていたことが、こんな2週間も良くしてくれて、いまや家族のように扱ってくれている。


「して益興。神楽は今日が最後の冬休みじゃぞ?明日は必ず職場にいかねばなるまい。どうするのじゃ?」


「そうだぜ。あの親子だってああして庭に突っ立ったままだ。可哀そうだし、神楽もそろそろ腹決めねぇと。どうなってんだ?」


「確かに景観も悪いな。あの子なんて毎日怖い顔しているし」


「いや、おい。怨霊の一歩手前だからなあの子供。景観とかそう言う問題じゃねぇよ」


益興さんと狐少女、烏天狗の会話に藍子さんと小舞千さんが呆れている。


「大丈夫だ!今日中に親が倒れたって言って、後日そのまま介護になったからもう出勤できないと言やぁ完璧だ!!明日から喫茶をはじめよう!!


「お主、前から思っておったが本当に阿呆じゃな・・・。ま、私はそれで良いが」


「人間としちゃ完璧な言い訳かもしんねぇな。それで行こうぜ。そしたら明日の事を気にしないで今日動けるってもんだ」


そう・・・家族のように親身になって、自分をここに留めようと・・・。


「おじいちゃん達!人の親を勝手に倒れさせないの!!」


「それにそんな直ぐに辞められないでしょう。急じゃ佐竹さんも仕事の引継ぎとかあるでしょうし、困ってしまうわ。勝手なこと言わないの」


神と眷属が同時にしゅんとした。まだ“名案なのにな”と呟いている。


「とにかく、今日が最後の冬休みなんでしょう?佐竹さん。あなたはどうしたいの?」


朝食の食卓に着く全員が自分を見た。

今、季節は正月で、自分は観光地に泊まっている。普通は観光を独りでしながら考えるのが良いのだろうが・・・。


危ないことからは離れて、考える時間が。


だが、やはり夕べの件も含めて今までの事を振り返ると・・・。
そう。今までもそう思っていたのだが・・・。これはもしかして・・・。


RPG…!そう。ロールプレイングゲームなのでは・・・?!


そうなると色々とつながってくる・・・。

自分が何をやるべきなのかが何となくわかってくる。

こんなことを現実につなげてしまっていいのか分からないが、

もうそう考える他ない。



むしろそう考えると頭が異常に冴え渡ってくる!!

今日一日、和風RPGをやっていると思って行動してみたい!!


そんな不純な気持ちが浮かんできた。


冬休み、
何っっっっっっっっにも・・・ッッ!!
楽しめなかった。


新発売のゲームも、予約したのに当日受け取り忘れて出遅れた上に、
未だに序盤のまだ謎が謎を呼んでいる序章で終わっている。


 

こんな屈辱があっていいのだろうか?


否!!

ならば、リアルのRPGを思いきりやってみようじゃないか。


何しろこれは、誰もまだエンディングを迎えていないゲームなのだから。 


「俺、今日一日・・・思いきりやってみたいと思います」


おお?!


全員が驚きと感嘆を表し、喜ぶが何人かが訝しんで自分を見てきた。


「神楽よ。思いきり、とは・・・どういう風の吹き回しじゃ?その心はなんじゃ」

「ちょっと待っててください」

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ご興味頂きましてありがとうございます。書き始めたきっかけは、自分のように海の底、深海のような場所で一筋の光も見えない方のために何かしたいと、一房の藁になりたいと書き始めたのがきっかけでした。これからもそんな一筋の光、一房の藁であり続けたいと思います。どうぞ宜しくお願い致します。