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【詩人の読書記録日記】栞の代わりに 8月14日~8月28日

はじめに

こんにちは。長尾早苗です。みなさんお久しぶりです。わたしが発表していない間もたくさん読んでくださってありがとうございます。色々読む作業が増えましたので、夏休みの詩人の雑記としてお付き合いいただければと思います。

8月14日

ラジオ体操第一を昨日から始めました。スタンプも集められるのでハマりそう。アプリがあるので便利ですね。そうか、世間はお盆なのか……。エッセイの推敲とラジオ、献本作業など。喜多嶋隆さんにハマっています。よくわたしのエッセイに出てくると思いますが、本当におすすめしたい。

・喜多嶋隆『賞味期限のある恋だけど』KADOKAWA

タイムリミットのある恋の物語が2編。どちらも主人公はアメリカ在住の日本人女性。1人はマイアミのテニス・プレーヤー、もう1人はニューヨークのミュージカルピアニスト。どちらも事情があって恋に落ちるわけですが、喜多嶋さんの「読ませる力」はすごいと思ってしまいます。大人の恋愛を綴ってこんなに一気に読ませる作家はなかなかいません。喜多嶋さんの小説は舞台が日本の湘南ばかりだったので、アメリカに舞台を移すとこんなに変わるのか、とびっくりしました。期限付きの恋は通り雨。なんだかいいなあ。

・喜多嶋隆『7月7日の奇跡』KADOKAWA

心に深い傷を負った湘南の青年、雄次。彼がノブという不器用な少女と出会うことからこの物語が始まります。ノブも大きな過去の傷を抱えており、そして彼女は七夕生まれでした。人生の中の汽水域、海と川がまじりあう場所の少女たちは、体と心の成長に戸惑いながら大きく「女性」になっていきます。この作品の中では、精神科医の雅子が29歳のお姉さんとして描かれていますが、彼女もかなり奔放な性格。キーセンテンスになる彼女のセリフで、どんどん雄次も自分を受け入れ始め、またノブの人生にも大きな転換期がやってきます。恋は女性を強くしてくれる。そんなものを感じます。

・遠藤周作『怪奇小説集 蜘蛛』KADOKAWA

遠藤周作は個人的にものすごく縁がある作家で、彼の代表作は通し読みした記憶があります。わたしにおいては色々、複雑な思いの混じる稀有な作家です。しかし、そんな彼も江戸川乱歩に共鳴したのでしょうか、怪奇小説・恐怖小説を書いていたことにまず驚きました。手紙調の文体などは乱歩の『人間椅子』を彷彿させますし、最後の一行で背筋が凍ります。

・遠藤周作『怪奇小説集 共犯者』KADOKAWA

人間の中には様々な感情があります。しかし平気な顔をして淡々と生きているのですから、人間ほど仮面を被った生き物はいないのではないでしょうか。遠藤周作は自身の作品でそんな問題提起をいくつもしているように思いますし、ある種のストーリー・テラーとして人間が持つ本当の意味での「怖さ」というものに向き合って書いた小説がこの「怪奇小説」だと思っています。日常の中に潜むほんの少しの仄かな暗がりが口を開け、やがて大きな闇になっていく。そんな怖さを思いました。

8月15日

朝から手紙を書いていました。大雨。みなさん気をつけてくださいね。ずっと、何か永い一日を感じていました。歴史は繰り返すのかもしれないけれど、もうあの悲しみと憎しみは繰り返してほしくないです。

8月16日

締め切りが落ち着きました。よかった。献本作業も一通り終わりました。昨日の昼からいきなり冷えて、暖房をつける程度ではないので秋なのかなあ。気温差にからだがついていくといいけど。

8月17日

今日から少し本格的なオフを4日間ばかり取ります。どうぞみなさまお元気で!

8月20日

オフの日は連絡業務だけにしていました。色々ありましたが、なんとか原稿を送れてよかった。ラジオを聞きながら推敲など。ディーリア・オーエンズ 友廣純訳「ザリガニの鳴くところ」予約。

8月21日

新作を作るのに苦戦中。推敲作業など。

8月22日

選挙。厳粛な場所に行って、自分の意見を投票できた後の達成感が好き。投票用紙に名前を書くときの緊張感が好き。投票所の出口で伸びをしました。

8月23日

締め切りに追われてできなかった作業、作品群の推敲を一か月ぶりに。よく歩いた日でした。

8月24日

3週間ぶりの移動図書館に行ってきました。読書のスピードは運動神経と同じで読んでいないと鈍ってくるので、慣らしで5冊。瀬尾まいこ『おしまいのデート』回送中。読書のち、新作3編、新作エッセイ1本。推敲の余地あり。

・アレックス・ロビラ 田内志文訳『セブンパワーズ』ポプラ社

十代の学生さんにおすすめしたいファンタジー。若き騎士が国王の命で宝の剣を取り戻しに行くという結構ありがちなファンタジーですが、その中で生きていくうえで本当に大切な7つのことばが出てきます。物語自体も楽しめるのですが、十代だったらこのことばを知っていると生きていくうえで一生懸命に生きることができる(それは追い詰めないで生きるというレッスンにもなります)大切に心にしまってほしいセリフばかりの一冊です。

・唯川恵『バッグをザックに持ち替えて』光文社

唯川さんはわたしが大学生時代に「恋愛エッセイの神さま」とまで信じていたエッセイストでした。彼女の恋愛ものを読んで初めてのカレシに憧れた、そんな時期もありました。そんな彼女も齢を重ねて、直木賞受賞ののち、登山にハマるようになったそうです。これはそんな彼女の登山エッセイ。登山のきっかけがセントバーナードの涙(ルイ)のペットロスだったということからもう泣きそう。登山好きのリーダー(唯川さんの夫)をはじめ、愉快な仲間でエベレストへ。登山をすることで生活に必要なものがわかったりするんですね。からだを動かしたくなるエッセイでした。

・柳広司『ラスト・ワルツ』角川書店

神出鬼没の「魔王」結城中佐は世界各国で暗躍する異能の諜報機関、「D機間」を作り、第二次世界大戦中にスパイ組織として暗躍します。さまざまな思いが男女も交錯する戦時下。そんな中の3つのストーリーで、彼ら彼女たちの戦略がやっと見えてくるような……結末はびっくりするのですが、戦時中とはいえ、このようなダークな組織が人の心を弄んでいく様子がどきどきします。

8月25日

歩いていたら新作ができました。やっぱり読まないと書けないのかもしれません。

・オテッサ・モシュフェグ 岩瀬徳子訳『アイリーンはもういない』早川書房

強烈な物語でした……この物語のジャンルを言ってしまうとネタバレになってしまうので言いませんが、五十年後のアイリーンが故郷での最後の一週間を思い出して語る物語です。アイリーンは24歳。アルコール依存症の父と暮らし、少年矯正所で働く、孤独で何もかもに憎しみと怒りを覚えている女性です。彼女の抑圧された半生は、読んでいてこちらも理不尽に思えてくることばかり。そんな彼女に魅力的なレベッカという女性の同僚が最高の友人としてやってきますが、彼女との出会いが全ての終わりで全てのはじまりでした。結末まで一気に読んでしまう、途方もなくラストにスピード感のある小説です。

・いしいしんじ『みずうみ』河出書房新社

いやあ、すごい小説です!! 水というものは不思議なもので、人の原始を呼び起こすものなのでしょうか。この三篇のなかでは時間と場所が交錯しますが、すべて「みずうみ」と「うた」がカギを握っています。みずうみとコミュニケーションが取れる少年たちの村、タクシー運転手の夜、そして妊婦の園子。すべての物語がつながるとき、彼らは神話の一部を知ることになります。すべて生きていくうえでの不思議は人が生まれる前にあったすべてのもの、そして生まれる根源となった「水」にあるのかもしれません。

8月26日

新作1編。最近散文詩に頼っています。

・ほしおさなえ『紙屋ふじさき記念館 故郷の色 海の色』KADOKAWA

ふじさき記念館、活版印刷三日月堂と夢のようなリンク!そうかあ、弓子さんと百花ちゃんがしゃべるのか……。ほしおさなえ先生はもともと大学でわたしたち(わたしたちは卒業しましたが)のような学生を教えられているので、ものすごく大学生の今の気持ちがわかる作家さんだと思っています。先生本人が大学生になって書いているようなリアルさがありました。就活の危機・サークルの大事さ、など。弓子さんは職人として結婚後も仕事を淡々と続けていて、わたしも物語の中で彼女が働いている姿を見届けられたのがすごくうれしい。ふじさき記念館の危機なんかも、百花のがんばりや「好き」に対する情熱が救っていく、というのはなんだか元気が出ます。

8月27日

新作1編。吉田篤弘『月とコーヒー』回送中。

8月28日

野村喜和夫『哲学の骨、詩の肉』予約。

・瀬尾まいこ『おしまいのデート』集英社

瀬尾さんの文章は心にしみてくるというか……健康になれる気がします。少し弱っているとき、暑さや寒さにばてそうなとき、そんな時に読むと優しく心に迫ってくるというか。今回は「デート」に関する短編5編。デートといっても恋人同士だけではなく、認知症のおじいちゃんと孫のような家族の物語、つい親しくなってしまった年上の男性と年下の男性のランチ、のようなもの。でも、読んでいくうちに必ずほっとする結末が待っています。本当は主人公たちを取り巻く環境は必ずしも幸せではないのですが、読んでいくうちにハッピーなことになりそうな気配がするところで終わるところがいいです。

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