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それぞれの答え #シロクマ文芸部
秋が好きな理由を述べよ。
これが最後の問題だった。
始めは何かの間違いかとも思ったが、あのマジメガネ先生が
テスト作成でミスをするはずがない。
これは僕たち生徒が何かを試されているのか…?
キーンコーンカーンコーン。
「はい、終了。テスト用紙、後ろから回して」
淡々と回収されていく中、誰かが質問をした。
「先生。あの最後の問題は何ですか?」
しーんと静まり返り、みんながマジメガネ先生を見る。
「秘密です。明日テストを返却する時に言います」
それだけ言って先生はさっさと教室から出て行ってしまった。
下校時間になると、みんなテストの話題で騒いでいた。
もちろん僕もあの問題の意味がずっと気になっていた。
四季の中で僕は、秋に一番興味がないと思う。
なんというか秋って…少し地味で影が薄い気がするのだ。
春は色んなイベントがある。そんで夏は暑いし、冬は寒い。
自分で言いながら考えが貧弱だなとは思うけれど
やっぱりそんなこんなで春夏冬は忙しいのだ。
だがこの問題にどんな意図があるのかわからないので
とりあえずその時は、今までになく真剣に「秋」について考えた。
そういえば今回は出題数の割にテスト時間長かったな。
もしやここにたっぷり時間を使うために?いやまさか…
相変わらずマジメガネ先生の考えていることはよくわからない。
まぁ明日にはテストも返ってくるわけだし
そうなればこの問題の意味もすぐにわかることだ。
*
「昨日のテストを返します」
今日こそ質問の答えが聞けると思った僕たちは
どこかみんなソワソワしていた。
「昨日のテスト問題についての質問ですが」ーーごくり。
「あれはただ、みんなのことを知りたかっただけです」ーーえ?
「みんなは何か意図があると思ったかもしれませんが」ーーこくこく。
「私のただ純粋な興味です」ーーへ?
これにはみんなも拍子抜け。
へぇ。マジメガネ先生もそんなことするんだ。
先生はさらに続ける。
みんなの答えを見せてもらいました。沢山書かれてあるものもあれば、やっとの思いで絞り出したんだろうなというものも。秋が好きな人は理由が自然と出てきますが、そこまで好きではない人は答えを一つ出すのもやっとのことだったでしょう。しかも『秋が好き』と断定されてしまっている以上、いいと思う部分をどこか見つけなければ!と必死に考えるわけです。しかしテスト問題とはいえ、好きではないものや興味のないことに「好きな理由」を見つけようというのは中々難しいもの。でも今回ここが空欄の人は誰もいませんでした。先生はそれが嬉しかった。みんな、この問いに答えてくれてありがとう。
「先生もそんなこと思うんだね」
「最後の問題、何かの間違いかと思ったよ」
「先生だってみんなに伝えたいことはいっぱいあるんです」
「先生ってほんとわかりにくーい」
それから先生は「苦手・嫌いな対象」については
決して「無理してでも好きになれ」ということではない、と言った。
ただそういうものに対し最初から全否定するのではなく
まずは自分の中にある思い込みをなくし、そこからもう一度
考えてみることをしてほしい、そう話していた。
マジメガネ先生と僕たち生徒がこんなに話したのは
実は今日が初めてだった。
先生の話を聞きいて僕は自分のテスト用紙を見つめる。
そこに僕はこう書いていた。
【問題】秋が好きな理由を述べよ。
【答え】秋は涼しくて心地いいです。
だから何でも楽しめるような気がします。
そうか。何でも楽しめる、か。
僕は秋をそんな風に感じていたんだなぁ…
問いへの僕の答えはとても単純なものだったけれど
それが自分で見つけた答えなら、たとえ単純であろうと
僕にとって大切にすべきものなんだと思う。
最近はてんでやる気が起きなかった僕だけど
そろそろ何かを始めてみるのもいいかもしれない。
初めて感じる心地いい秋が、不思議と僕をそんな気にさせる。
マジメガネ先生
どうやら僕は
秋が好きみたいです。
【おしまい】
***
今週のシロクマ文芸部でした🐨
ちなみにねじりは四季の中で秋が一番好きです🍂
ではまた。
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