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黒い世界から学び生かすことは。

「本当だ。何もかもが真っ黒になってる…」

夫と二人、火事があったという家の前に立っていた。
そこは私達夫婦の家ではない。
全く知らない他人の家。
けれど、すごく胸が痛かった。すごく怖かった。
全く知らない他人の家が、黒く焼け落ちていた。
その目の前で、私達夫婦は茫然としていた。

数日前、家から少し離れた所から
もくもくと空に煙が上がっているのが見えた。
「火事じゃないか」夫が言う。
少し黒い煙が不気味な気配でもくもくと、
遠くまでその煙を運んでいく。
「なんだか怖いね…」と私が言う。
「とりあえずうちのすぐ近くではないね」
夫は私をなだめてくれた。

そして翌日になり、少しだけど詳細がわかった。

そこは一軒家だったらしい。
私の家から歩いてもそんなに遠くない、結構近くのお家だった。
散歩で何度も何度も通ったことのある場所だった。
まさかあそこが…

別に知り合いでもなく他人なのだが、やはり悲しい話は辛くなる。
亡くなった人がいないことがせめてもの救いだが、
今後の生活はどうなるのだろう…などと勝手に心配してしまう。
他人の心配している程自分に余裕があるわけでもないのにだ。
でも気になるのも本当の気持ち。

そして冒頭に戻る。
そう。とうとう見てしまったのだ。
火事の跡の現場を。

その日はいつものように夫と家の近くをお散歩していた。
いつもと変りないいつものお散歩。
時々歩くコースは変わるけれど、大体いつも決まっている。
そこでたどり着いてしまったのだ。
あの火事があった場所に…

そこにはたまたま通りかかった。
誰か人がいたので、ここ何か道路工事とかしてたっけ?
なんて、最初はのん気だった。
でも夫が気づいた。
「火事、ここだったんだ…」
そうなのだ。ここは工事なんかではなく、
あの火事があった家の場所だった。

「え…黒い…」
足がすくんだ。とにかく驚くしかなかった。

よく考えたら、私は今まで火事で焼けた跡なんか
見たことがなかった。
もちろん火事も直接見たことがない。
だから本当にびっくりした。

家の全体の形はなんとなく残ってはいるものの、
真っ黒に覆われ家の前には
真っ黒に焦げた沢山の焼けた物たちが放り出されていた。
そこには家具や小物なんかがなんとなく見えた。
「焼けたら全てがこうなるんだ…」
焼けたら全部こうなる。
跡形もなくなくなるものもあれば、
残ったとしてももう使えないものばかり。
思い出も大切なものも、そこからは消えてしまった。
「全部こうなるんだ」
その場でぽつりと言葉が漏れた。

火事はもう消火され、事は収まったあとなのだが
その現場に残る火事の怖ろしさと不気味さと喪失感は
この黒く焼け焦げた跡からも、痛いほど伝わってきた。

それを間近で見た後の衝撃は大きかった。
帰り道、歩きながら少し具合が悪くなった。

でもこのことは、私に色々なことを考えさせてくれた。
わかっていたことだが、全てのものはこうして
「なくなる」ということ。
自分の頭の中でうっすら考えていたことだが、
実際現実でこうして刺激を受けると
より自分の中に深く刻まれることになる。

しかし、その家に住んでいた人は助かった。
これはものすごく大きなことだと思う。
火事で亡くなる人というのは多い。
その中で、こうしてその人は無事だった。
生き残った。
すごい。

火事は本当に怖ろしいことをする怪物だ。
大切な人を守るためにも、
自分も日頃からちゃんと気を付けなくては…
あの黒い大きなものに呑み込まれないように
日々自分なりに考えたいと思う。

みなさんもどうか、お気をつけ下さい。


ではまた。


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