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死人と銀河の哲学

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オリジナルマスクに纏わるストーリーを届ける短編集
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#創作大賞2023

【ショート小説】あくびの稽古11号

【ショート小説】あくびの稽古11号

舞台袖より差し込んだ照明が肩口より斜めに師匠の身体を真っ二つに切り裂いておりました。
京都友禅のしっとりとした手拭いを袖にしまい
「それじゃあ、行ってくるからね。」
そう言うと、師匠は黙ったまま、自らを切り裂いている光をじっと覗き込み動かなくなりました。出囃子の太鼓がぽんぽんと小気味良いリズムを刻んで、そいつに乗っかって滑るように笛の音がピーピーヒャラヒャラと鳴り出します。言葉を訂正します。笛の音

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【ショート小説】揺り籠と墓場7号

【ショート小説】揺り籠と墓場7号

しんと静まり返った闇の中で、パチパチと沢山の拍手が鳴り響いた。辺りに人気は無く、パチパチとした音と微かに響く水面の揺らぎが空気の様に世界を包み込んでいた。かつて純白であったであろう船体は暗闇でも分かるほど黒ずんで、男を乗せたまま、その微かな命を右へ左へ振っては止まり、振っては止まりを繰り返している。船頭の縁から辺りを覗き込んでいた男は、僅かな陸地の向かいにちらりと目を向けた。船尻には、幼児程度の大

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【ショート小説】踊り子1号

【ショート小説】踊り子1号

薄灰色のライブハウスを無数の電飾が瞬いていた。
黄、赤、紫、いくつも不規則に点滅する光に頭はぐるぐると回る。玉虫色のステージでは、踊り子が一人アメリカ仕込みのステップを踏みながら、甲高い歌声を鳴り響かせていた。
光が彼女を照らす度に、白いドレスは色を変え、赤いバレエジュースはしなやかに曲がっている。
元来、暗闇であるはずの地下の空間は大勢の人々でごった返している。
ステージからは、ぼんやりと薄闇の

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