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「 おもひでや 」
煌々と並ぶ提灯のその先に、知らない誰かが立っていた。
夏の生暖かい風が、私の肌を撫でていく。
森の木々は、ゆっくりと身体を揺らすと同時に、私の心をざわつかせた。
朱色を纏った金魚たちは当たり前かのように空中を漂い、立派な尾ひれを使って悠々と泳いでいく。
私は、目が離せなかった。
異質だと、絶対に行ってはいけないと、頭ではわかっていた。
しかし、私の身体は、自分の意志と反してふらりふらりと立ち上がり、彼らの進む先へ、連れだって歩き始める。
紅く灯る道のその先へ、誘われるように足を踏み入れる。
もう少し、もう少しで届きそうだった。
あと一歩の距離だったのに、その人は、私を置いて闇夜に消えてしまった。
少しの笑みをこちらへ向けて。
ぷつん
「 あ 」
不意に身体が空へ投げ出され、私は反射的に両の目をぎゅっとつむった。
しかし、予想していた衝撃は無く、その代わりに、私は深い闇へと落ちていった。
はっきりとしない意識の中、私は、知らないあの人を思い出そうとした。
けれど、きっとそれは叶わないだろう。
なぜなら、あの人には、
顔が無かったのだから。
…続く…
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