マガジンのカバー画像

フィクション

7
運営しているクリエイター

#純文学

『大麻記念日』--走れ田口Ⅰ--

『大麻記念日』--走れ田口Ⅰ--

【友情】

 最初に言っておく--。これは友情の話だ。いびつであれ、どんなかたちであれ、友情は記憶の中に生き続ける。

 たとえ縁が切れたとしても。別々の道を歩んだとしても。

           ***
 色鮮やかに映った。

 公園での遊びが、こんなにも刺激的なもので、ここが異世界なのか疑った--。これは、今目の前で目にするものは一体なぜいつもと色彩がちがうのだろう、錯覚なのか?いや、これは

もっとみる
『いつか王子様が』

『いつか王子様が』

【焦げる怒り】 「チクショウ今日も収穫がねえな」

 かれは怒りに満ちたひとり言を放つ。真夏の陽の下を歩きながら、怒りに奮えていた。

 怒りの正体――。かれは直面するのが嫌だった。過去の苦い記憶を掘り起こすことになるから。自分を責めることになるから。

 渋谷の高架下に置き捨てられた、ペットボトルや食品の余りを探す。

 前ではなく、下を向く日々。今日をしのげるものは一向にみつかりそうにない。

もっとみる
『手記の記憶』

『手記の記憶』

 2040年現在。

 とある男が書き記したノートをぼくは手にした。ノートには、借用書が挟まっている。できれば忠実に書き写したい。脚色もなしに。

 書き手の住所と名前は書いてあるがそこは伏せる。

 これからぼくはその男を探しにいくのだから。

       【とある男の手記】

メッセージが届いた。高校時代にお世話になった教師から。

 彼は国語の先生で、授業らしい授業はしなかった。授業中に訊

もっとみる