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《連載小説》BE MY BEBY 第三話:照山の告白

第二話 目次 第四話

 その後照山は毎日美月玲奈と頻繁にLINEを交わしていたのだが、だんだんLINEのやりとりだけでは我慢できなくなってしまった。彼女ともう一度会いたい。そして今度はちゃんとした会話を交わしたい。しかし照山がどれほど会いたいと思っていても、この人気俳優にたやすく会えるはずもなく、また自分たちも近々サードアルバムとその先行シングルが発表されることもあって急に仕事が増えてきたため、会うどころかLINEでの会話でさえ途切れ途切れになってしまった。彼は美月の返信がない時は彼女の顔を思い浮かべながらただ悶々として過ごした。ある日部屋で孤独に過ごしていた照山は、美月に会えない寂しさをどうにか慰めようと、スマホのYouTubeで美月が出ている動画を探ししたのだが、トップにいきなり彼女のキスシーンや男とハグしているドラマや映画の類が出てきたためすぐさまスクロールして、下にようやく彼女しか出ていない動画を見つけたのでそれを観ることにした。それは某ガールズバンドの曲のPVであった。

 PVで美月玲奈が出演しているガールズバンドの曲は、アイドルソングをバンドでやったようなもので、正直に言って照山の好みに合うものではなかった。しかしPVの美月玲奈を姿を観ながら曲を聴いていると、そのアイドルソングみたいな曲がとんでもなくエモく聴こえてきた。曲に乗せて美月がときめいた表情でラブレターを書いたり、雨の中を泣きながら走ってるシーンを観ていると胸に熱いものがこみ上げた。PVを観終わった照山は思わずスマホを抱きしめて、ああ!会いたい!と思わず叫んで悶絶して床を転げまわった。

 それから照山は家にいる時は必ず美月のガールズバンドのPVを観るようになった。そんなわけで照山は今日も家に帰るなりスマホで美月出演のガールズバンドのPVを観ていたのである。彼はいつものようにPVの美月を惚けたように観ていたが、その時突然スマホが鳴ったので照山は我に返り、とうとう美月のLINEが返ってきたと喜んで、すぐさまスマホををガン見した。しかしそれはLINEではなかった。いや、たしかにLINEではあったがLINEではなく、なんとLINEの電話だったのだ。美月はLINEから電話をかけていたのである。

 スマホはまだ震えていた。スマホの震えに呼応したのか照山自身も震えてきた。照山は震える手でLINEを立ち上げ間違って切らないように何度もボタンを確認してから電話に出た。すると美月玲奈が電話の向こうから興奮した口調で喋り出してきた。

「照山君、私の番組観てくれた?番組で今日初めてRain dropsのニューシングルの『少年だった』かけたんだけど、私、聴いてたらあんまり良すぎて泣きそうになっちゃった。間違いなく名曲だよ!……ゴメン照山君、曲聴いたら興奮していても立ってもいられなくなっちゃって思わず電話かけちゃった。後でLINEするからね」

 照山は電話の間、美月玲奈の言葉にただ頷くことしか出来なかった。彼は美月の話を聞いてマネージャーが次の新曲のPVの初公開はYouTubeから美月の音楽番組に変更したと聞かされた事を思い出した。先日照山が収録スタジオで起こした騒動のお詫びでそうなったらしい。照山もそのことは聞かされていたが、美月に激しく恋していた彼は、美月がいつも番組で相手の男とにこやかに喋っていることに我慢がならず番組自体観なかった。だから美月の番組で『少年だった』が初公開されるということなどすっかり忘れていたのだ。

 電話が終わって胸元にスマホをおろした照山はLINEの美月の名前を見ながら先ほどの美月の興奮して話す声を思い出して胸が爆発しそうなぐらい高まってきた。彼はもう美月への狂おしい想いを抑えられなかった。照山は一瞬美月に折り返し電話しようと思ったが、しかし精神的に少年である自分には恋の電話なんてとても出来ないと手を止めて、普通にメッセージで自分の想いを伝えることにした。彼は勇気を振り絞って美月玲奈へのメッセージを書き始めた。彼は自分の気持ちのままに告白を書き、読み返してはその大胆さに顔を赤らめては消し、そうして何度も書き直したメッセージを美月玲奈に送った。

『美月さん、僕はあなたが好きです』

 これが、照山が考えに考えて送った美月玲奈への愛の告白だった。彼はこの簡潔極まりない告白に辿り着くために、なんと11万文字もの文字数を犠牲にしたのだ。美月への想いを長々と書いているうちに、いくら書いても相手に想いなんて伝わらないと彼は思い直し、結局自分の気持ちをダイレクトに伝えることにしたのだ。しかし照山は美月にメッセージを送った途端激しい後悔の念に苛まれた。ああ!なんて自分は愚かな事をしたのか。バカげている!たった一度会ったきりの人間に恋を告白をするなんて!彼はスマホを投げ出し自らの愚かさを悔やんだ。きっと彼女は僕のメッセージを読んで逃げ出してしまうだろう。あこがれのRain dropsのボーカリストがまさかこんなストーカーみたいなやつだったなんて知らなかったと激しく軽蔑するだろう。なんてことだ。せっかく築き上げてきた絆を自分の愚かな願望のために壊してしまった。もはや取り返しはつかない。もうダメだ!自殺するしかない!照山は絶望的になって激しく泣いた。と、その時またスマホが鳴った。照山はそれが美月から下される死刑宣告だと覚悟して慌ててスマホを手にとった。スマホはまだ震えている。照山はまさかと思いゆっくりとスマホの画面を見た。なんと美月がまたLINEで電話してきたのだ。彼は先程と同じように慎重にLINEを開いて電話に出た。電話口から美月の息がかすかに聞こえてきた。

「照山君、さっきのLINEありがとう。私……照山君の気持ちすっごく嬉しかった。私も照山君のこと好きだよ」

 照山は美月の言葉を聞いた途端たまらずその場で泣き伏してしまった。彼は美月に対して返事をしようとしたが嗚咽で言葉にならなかった。電話の向こうの美月もまた泣いていた。二人はそのまま泣きながら短い言葉を交わしまたLINEすると約束して電話を終えた。

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