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《連載小説》BE MY BABY 第四話:感動の卒業回!

第三話 目次 第五話

 それから照山と美月玲奈の関係は一層親密になった。以前はどこか遠慮のあった二人だが、告白を境にそんなものは吹き飛んでしまった。美月は照山に今何をしているの?と聞き、照山がいつものように君が一人で出ているガールズバンドのPVを観ていると答えると美月は大量のハートを送りつけてきた。二人は互いにもう一度逢いたいと語り合い。しかし互いの仕事の都合で会えない事がわかると二人してガックリと落ち込んだ。しかし二人の願いが天に通じたのか彼らは思ったより早く再会することになった。

 美月玲奈は今季限りで彼女がMCとして出演している深夜の音楽番組を卒業することになっていた。彼女が音楽番組を卒業することになったのは、美月の人気が急上昇してゴールデンのドラマの主演が決定して深夜の音楽番組などやっている暇がなくなったからである。照山も美月が番組を卒業するということは、美月本人からLINEで聞いて知っていた。美月は照山に宛ててデビューからずっとやってきた音楽番組をやめたくないと本音をぶちまけた。しかし照山はこの件を聞いて、これで美月があの胸糞悪い相手の男と肩を並べることはないと安心して思わず喜んでしまった。しかし誠実であり心優しい人間である彼はすぐにそんな自分を責め、心から美月に同情したのだった。その番組の最終回のゲストに我らがRain dropsが急遽出演することが決まったのである。

 本来ゲストなしで行なわれるはずだった美月玲奈の卒業回に急遽Rain dropsの出演か決まったのは、番組で彼らのシングル『少年だった』のPVを初公開して異様なぐらいの反響があったからである。初公開するなりRain dropsとシングル『少年だった』はTwitterのトレンドに入り、番組には彼らの出演を求める電話やメールが殺到した。この時を境に我らがRain dropsは一気に大ブレイクするのだが、照山と美月の恋もこの時激しく燃え盛っていた。

 照山はマネージャーから番組への出演が決まったと聞かされた時、すぐさま美月玲奈にLINEで君の番組の卒業回に出演する事になったと伝えた。それからしばらくして美月から照山君が私の卒業を見守ってくれるなんて嬉しいと返信がきた。それから照山は君にLINEしたいんだけどいつがいい?と聞き、美月が空いてる時間を言うと、照山はわかったと言って、その時間になると照山はすぐさま美月にLINEをしたのだった。LINEの中で互いにまた逢えるなんて嬉しいとか、もう逢う日が待ちきれないとか、たった一度しか会ってないのに完全に恋人のようになっていた。

 そして番組収録の当日に照山と美月玲奈は再会したのだが、照山の挙動は明らかにおかしかった。美月は収録の前に自分のマネージャーを連れだってわざわざRain dropsの楽屋に挨拶に来てくれたのだが、Rain dropsのマネージャーや他のメンバーは挨拶に来てくれたこの人気俳優に対して過剰にへりくだってお礼を言う中、照山だけは目をガン開きにして無言のまま美月を見つめていた。美月はその照山にも挨拶したが、しかし照山は目をガン開きにしたままうなずくだけで何も言わなかった。美月は一通り挨拶を済ませてRain dropsの楽屋を出たが、その時隣にいたマネージャーが彼女にこう囁いた。

「あの子大丈夫なの?あんなに目をガン開きにして。彼、前に暴れたことあったわよね。やっぱりシャブ打ってるんだわ!」

 照山は日本の由緒正しきロックアーチストとして当然麻薬を軽蔑し、麻薬なんかやってる奴は人間じゃないとさえ思っていたが、しかし彼はLove is Drug。つまり恋という麻薬にどっぷりとハマってしまっていた。それは美月も同じであった。彼女は楽屋で目をガン開きにして自分を見つめる照山の熱い眼差しに感激して思わず彼を抱きしめようと思ったが、どうにか抑えてその場を取り繕った。

 それからしばらくして番組の収録に入っだが、その収録の間でさえ照山の目は飛びまくり、収録の待ち時間はずっと美月を見つめていた。しかし流石にトークになると若干我を取り戻し、相方の胸糞悪い男の質問こそガン無視したものの、美月の質問にだけはまともに答えられた。美月は収録中出来るだけ表情を変えないように努めていたが、照山の自分を見つめる視線に心が熱くなるのを抑えるのが耐えられなくなってきた。彼女はとうとう耐えきれずに照山に向かって台本に書いていない事を言い出してしまった。

「あの、照山さん。私、ニューシングルの『少年だった』について一つ聞きたい事があるんですけど、……歌の中の少年はその後希望を見つけられたんですか?」

 照山は美月の質問に激しく動揺した。美月は明らかに歌の主人公を照山自身と見ていた。膝を抱えて蹲っていた少年だった照山。美月はその彼に対して希望は見つかったのかと問うているのだ。照山は熱い目で美月を見てこう言った。

「彼はたしかに希望を見つけたよ。たった一つの小さな……だけど決して壊れない希望を」

 その後収録はRain dropsの演奏に移ったが、その演奏は全く凄まじいものだった。Rain dropsのスタジオライブの演奏動画は今ではほとんどYouTubeなどで簡単に観ることが出来るが、その数々の動画の中でもこの番組の収録で行われた演奏はずば抜けている。特に照山のこんなにハイテンションなプレイは本物のライブでさえ滅多に見られないものだ。演奏したのはデビュー曲の『セブンティーン』と最新シングルの『少年だった』だが、特に『少年だった』の演奏が凄まじく、メンバーが叩き出す怒涛のようなサウンドをバックに、照山はまるでクスリを決めたかのようにギターを掻き鳴らし、そして甲高い透き通るような声で少年のように歌い出だした。そして必殺のサビのフレーズ「少年だった、少年だったぁ!」と絶叫するところはまるで少年の純粋さと痛みが入り混じった轟音のカオスだった。スタジオにいた者たちは皆このカオスに圧倒されていた。美月など涙を堪えるだけで精一杯だった。

 バンドの演奏が終わると収録は再びトークに移り、演奏の感想などを話した後、Rain dropsのメンバーが『少年だった』の発売日と待望のニューアルバム『少年B』が出ることを告知した。そして最後に美月の卒業の挨拶が行われたが、その卒業の挨拶で美月は番組での思い出とスタッフへの感謝を涙ながらに語り、それから今日出演してくれたRain dropsにも礼を言ったが、その途端彼女は感極まって号泣してしまった。美月はその時思わず照山に抱きつこうとしたが、その寸前で思いとどまった。照山はその間ずっとガン開きで美月を見つめていた。彼も号泣している美月を抱きしめてやりたかった。彼に勇気があったらまっすぐ美月を抱きしめていただろう。だが今の彼には危険なほど目を剥いて彼女を見つめることしか出来なかった。

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