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懐かしの友

 街中で偶然旧友に会った。彼とは大学時代に友達になり共に楽しい時を過ごしたが、社会人になるとだんだん疎遠になっていった。それから彼とは全く会わなくなっていったが、こうして還暦を過ぎてからこうして会えるなんて嬉しくもあり切なくもある。今まで彼と離れていた時間に私は自分の人生を送っていたが、それを彼と分かち合えればどんなによかったか。今私の目の前で久しぶりの友人に声をかけられてキョトンとしている友人も私と同じように考えているのか。

「ヨォ、どうしたんだいそんなキョトンとした顔して。相変わらずはっぴいえんど聴いているのかい?お前はフォーク好きの俺をバカにしてそんなもの聴いてるならちゃんとしたもの聴いた方がいいよって自慢気に話していたよな。俺はそれから時たまお前から借りパクしたはっぴいえんど聴いてるんだけど、何十年聴いても全然ダメだな。こんなナンパなのフォークじゃないし、かといってロックでもない。中途半端なんだ。矢沢のじいちゃんがやってるキャロルならバカにしながらでも聴いていられるんだが」

「そのハッピーエンドってなんですか?」

「おいおいはっぴいえんど忘れちまったのかい?あんだけ好きだったのに。まさかボケちまったんじゃねえだろうな。お前はっぴいえんどのことあれだけ熱く語ってだじゃねえか。はっぴいえんどは日本最初のロックバンドなんだ。絶対にお前らが聴いてるフォークなんかじゃない。はっぴいえんどが正しいことはいずれ歴史が証明するって。はっぴいえんどは日本のロックの正しき道なんだって言ってだじゃないか」

 私は友人に向かって彼が昔はっぴいえんどについて語っていた事を聞かせてやった。だが、友人は納得するどころかなんか起こり出しているではないか。

「おいおい、どうしたんだよ。これでもまだはっぴいえんどのこと思い出せないのか?お前頭まではっぴいえんどになっちまったんじゃねえだろうな!」

 友人は私の話に耐えきれぬといった感じで急に立ち上がり大声で私を怒鳴りつけた。

「あのですね!いきなり肩叩いて名前も言わずに人をボケ老人扱いするってなんなんですか!さっきからわけのわからない事を言って!大体あなた誰なんですか!私はあなたなんかと一度も会ったことはありませんよ!何が頭がハッピーエンドだ!頭がハッピーエンドなのはお前だろうが!」

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