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全員カフカ

「なんだお前らそのカッコは!お前ら社内人だろうが!なんで会社にぬいぐるみなんか着てくるんだ!さっさと脱いでスーツに着替えてこんか!」

 課長の離島不作は部下のしょうもなさに呆れ果てて怒鳴りつけた。しかし部下たちは離島のいうことなど全く聞かず、というか椅子にすら座っておらず、なんと地面を這いずり回っていた。

「お前らその昆虫のぬいぐるみを脱げと言ってるのがわからんのか!」

 だが部下たちは相変わらず離島を無視して互いの触覚を合わせてコミュニケーションをとりはじめた。まさか何故虫が部下のフリして会社に来ているんだ。彼は慌ててオフィスの備品置き場から殺虫剤を持ってきた。この虫野郎今すぐ殺してやるわ!

 彼はここで気づくべきであった。せめて殺虫剤を振りかける前に。

 離島は夢の中で部下に殺虫剤をかけながら、現実ではみんなからゴキブリと陰で呼ばれている社長の頭にくたばれこのゴキブリ野郎!と叫びながら殺虫剤を振りかけていた。

 やがて夢から覚めた離島はそこに自分を喰らおうとしているゴキブリの大群を見たのである。ゴキブリの親玉はよくも人をゴキブリと罵ってくれたなと何故かゴキブリのくせして怒りをあらわにしていた。そしてゴキブリとなってしまった部下もさっさとコイツ食べちゃいましょうよと社長に勧める。

 ああ!と叫んで離島はベッドから跳ね起きて周りを見たのだが、そこはいつもと変わらぬ自分の部屋である。だが、彼は床を見て恐怖のあまり絶叫した。なんと床をゴキブリが埋め尽くしているではないか。その時部屋の外から誰かがノックした。「大丈夫?」と妻が声をかけてきた。彼は今大変なことになってるから入ってくるなと言ったが、妻は何が大変なのよとドアを開けて入ってきた。その妻を見た瞬間離島は絶望の叫びを上げた。なんと妻もゴキブリだったのである。



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