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秋(空き)時間さんの世界文学案内 第四十一回:退屈な話 アントン・パブロヴィッチ・チェーホフ作

 退屈な話というのは概してあくびの出るような話だが、中には果てしなく陰鬱な話もある。この小説は後者の方で、もはや老境に差し掛かった老人が人生への諦念を淡々と語っているものだ。この小説の最後で老人は彼に別れを告げてきた若い女性に対して「かけがえないひとよ」と哀切を込めた言葉をかけるが、それは彼女がこの老人の幸せとは到底いえない人生にとって唯一の希望であったためか。さてこの老人がそれからどうなったのかが気になるところだが、残念ながらこの小説はそこで終わっており、老人のその後は知ることはできない。1899年に書かれたこの小説は百ページ程の短い作品だが、そこで語られる内容は凡庸な作家の大長編よりも遥かに深いものだ。


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