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キャラ小説〜究極の選択

 人気小説『学ランムギュッ❤️‼️先輩大好きなんです!』はいよいよ終盤を迎えていた。ラストが近い事にヒートアップした読者たちはSNSなどで阿戸夢が萌見と鞠絵のどっちを選ぶのかで討論し、勝手に投票まで始める事態となった。主人公の高校二年生である阿戸夢は後輩である萌見と鞠絵と三角関係になっているが、彼は優柔不断な男でいつまで経っても二人のうちのどちらかを選べない。しかしいろいろあっていい加減どちらかを選ばねばならない時が来た。というのが今までのざっくりしすぎるほどのあらすじだ。

 読者は阿戸夢が萌見か鞠絵のどちらかを選ぶのか真剣に討論した。萌見派は萌見は可愛いけど意外にしっかりしているから彼女と付き合えば阿戸夢のバカも心を入れ替えてまじめになるだろう。やはり萌見だと力説し、対して鞠絵派は鞠絵は成績優秀な美人で一見阿戸夢のようなバカを寄せ付けない所があるが、実は非常に繊細で阿戸夢を本気で思っている。やはり鞠絵こそが阿戸夢に相応しいのだと反論した。

 そんな読者の騒ぎをよそに作者の黙示録ハルマゲドンは陰鬱な思いでマンションから出て自宅へと向かっていた。彼は肩を落としてため息をつく。ああ!選ばなければいけないのか。彼女と彼女のどちららかを選ばなければいけないのか。全くまさにこれがハルマゲドンって感じだぜ。自宅の玄関の前に立った黙示録はピンポンを押してドアが開くのを待った。間もなくして中から応答があってドアが開いた。開いたドアの向こうには陰鬱な顔の絵美が見えた。黙示録は一恵の目を避けて中に入ろうとしたが、しかし黙示録を一恵の放った言葉を聞いて立ち止まった。

「ねえ、あの女と別れてきたんでしょ?という事はどちらを選ぶのは決まったよね。萌見、よね。あの鞠絵じゃなくて、萌見、よね!」

「黙っててくれ!僕は今一人になりたいんだ!」

 黙示録はそう叫ぶなり駆け足で書斎へと逃げた。一恵はその黙示録の態度で既に二人が切れた事を悟った。ああ!これでやっと楽になれる。いくらベストセラーになったからってあんなのに付き纏われたらたまらないわ!

 黙示録は書斎に篭りながら先程編集者の理恵に別れ話をした事を思い出した。君とも三年続いたけどもう別れよう。君は僕を臆病者、そんなに妻が怖いのかなんて思うかもしれない。だけど、僕は妻も愛しているんだ。全く最低なことに僕は妻を愛しながらも君を愛してしまった。まさか小説を自で演じるとは思わなかったよ、君と一緒に小説を書いていた日々は永遠に忘れない。だけどサヨナラだ。君には僕なんかより素敵な人が絶対見つかるよなんて薄っぺらな事を言ったのだ。だけど理恵は怒ったり泣いたりはしなかった。ただ彼女は笑ってこう言ったのだ。

「じゃあこれからのストーリーはあなたが全部書いてね。私口は出さないから」

 ああ!君はなんて事を言うんだ!口は出さないからなんてそんな残酷な事を言うな!君はこの小説の副操縦士だったじゃないか。出版社から小説を依頼された時編集者として君を紹介された。僕は君を見て電撃を浴びたようなショックを受けたんだ。小説のアイデアと恋が同時に芽生えたんだ。妻もいるのに恋なんかするなんて。裏切りだ。酷い裏切りだと思いながら僕と君の中は小説が進むごとに深まってしまった。だ いってみればこの小説は君と妻なしにはありえないんだ。そんな小説を僕一人で完結させろだなんて!

 だが黙示録は小説を書かねばならなかった。彼は最初萌見と結ばせるために鞠絵をビッチにしようとした。だがこれではあまりにキャラが違いすぎるとすぐにやめた。それで次に彼は鞠絵に別れの台詞を言わせようとした。「あなた萌見が好きなんでしょ?だから別れてあげる」そう悲しいぐらい眩しく微笑んで言う鞠絵……ああ!ダメだ!やっぱり俺には理恵と別れるなんて出来ない!彼は家を出ることに決めた。やっぱり俺は理恵と一緒に暮らす!

 絵美の手を振り切ってきた黙示録を理恵は優しく出迎えた。彼女は奥さんのことは大丈夫?と聞いたが、黙示録が大丈夫だと答えたので喜んだ。黙示録は彼女に小説の続きを描くから部屋を貸してくれと頼んだ。理恵は勿論許可した。黙示録は礼を言うと早速小説に取り掛かった。

 やはり俺は鞠絵と暮らす。そう言った時萌見は泣いた。彼女はいやだよぉ〜と自分をぎゅっと抱いてきた。だけどサヨナラだ……なんて出来るわけないだろ!バカやろ!絵美は売れない頃からずっと俺の才能を信じてついてきてくれたんじゃないか!あんな可愛いのにこんな不細工な俺にあんなことやこんなことまでしてくれたじゃないか!やっぱり俺には絵美を捨てることはできない!彼はそう決意しやっぱり妻の元に戻ることにした。

 そうして黙示録ハルマゲドンは何回も妻と編集者のところを行ったり来たりしていたが、とうとう両方から三行半をくだされ、また小説の方も両手に花という最悪の最終回を書いてしまい彼の小説は誰も読まなくなった。


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