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朗読屋さん

 人間とは悲しい生き物だ。こう文字に表してもいまいち伝わらないかもしれない。意地の悪い人はありきたりなペシミズムだと鼻で笑うかもしれない。だけどそんな人だって私のように毎日人の内面と向き合っていれば嫌でも人間の悲しさを身にしみて感じるようになるだろう。

 現在私は朗読屋さんをやっている。最初はちょっとした遊びのつもりで本の朗読をYou Tubeに挙げてみたのだが、それがちょっとした評判になってリスナーから私の書いた手紙を読んで欲しい、とか自分の書いた小説を読んでほしいとか、そんなリクエストが殺到していつの間にか朗読で生計が成り立つようになってしまった。私は主にWEBで朗読の依頼を受けるのだが、その契約が成立すると依頼者から早速朗読用の文章ファイルが送られてくる。その中身は様々だ。妻への手紙、夫への愚痴、ラブレター、夫への憎悪を書き連ねた文章、恋人への未練を書いた文章、自作の小説等。私はそれらの文章ファイルをじっくり読み内容を掴んて依頼者が満足するように読み上げる。最初は依頼者から自分の想像していたものと違うといったお叱りを受けたことがあった。それで契約がいくつか破断になったこともある。しかし私は自分の観察眼を鍛え上げ朗読屋としてようやく自立することができた。今の私は文章をパッと見ただけで依頼者の要望がわかるようになった。手書きでなくても文章というものには人の個性が現れている。その人の内面というものが赤裸々に現れているのだ。だから私は自分の見たものをそのまま読めばいいのだ。時々朗読をしながら人間そのものが嫌になるときがある。ネガティブな感情の文章を読むときはもちろんだが、最近とみに増えてる依頼の文章を読むときなどもう強烈に人間というものの悲しさと醜悪さを感じでしまうのだ。その以来とは主に男性からの依頼で私の声がセクシーだと言っていて、もっとセクシーな文章を読ませるのだ。私はそんな馬鹿な依頼なんか受けないと何度か断ったが、男性たちはお金はいくらでも出すから僕のために読んでとか言ってやたらせっついてくる。その文章はだいたい決まってこんな内容だ。

『○○○さん、もうダメ!蜜が溢れてはちみつみたいにネバネバしちゃってる!早くそのそそり立ったソーセージを私のニつの口に入れて!入れないとソーセージ噛み切っちゃうから!』


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