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ポンコツヒーロー

 月面神の地球侵略を前にして何故か世界中のヒーローが病死してしまった。今地球には百戦百敗のヒーロー太郎しかいなかった。地球人たちはもう藁どころかクズ糸にでも縋る気持ちでこの百戦百敗のヒーロー太郎に地球の未来を託した。

 太郎はこの突然の使命に押しつぶされそうになった。自分より強いヒーローたちの突然死。そのあまりにも立て続けの死に疑惑を持った人々のあまりに酷い誹謗中傷。ヒーロー候補生の妬み。それらが太郎の心を痛めつけもう修行どころではなくなってしまった。

 ああ!こんな僕に世界なんて救えるはずがない!太郎は自宅のヒーローマンションの屋上で泣いた。どうせ自分じゃ月面神に勝てない。このままみんな月面神に侵略されてみんな月みたいに丸顔になるしかないんだ。彼は目の前のフェンスを見ていっそ飛び降りてしまえと思った。

 だがその時だった。後ろから幼馴染の優子の声が聞こえてきたのである。

「逃げるな太郎!アンタヒーローでしょ?この地球にはヒーローになりたくてもなれない人がたくさんいるのよ。アンタはその人たちのためにも戦う義務があるの。みんなあなたを頼っている。みんなあなたが地球を救うことを信じているの。頑張って私たちを救って見せてよ」

 太郎はこの優子の言葉を聞いてヒーローとして立ちあがろうと決心した。彼は首を360回して優子に勝利を誓った。

「俺、優子に誓うよ絶対に月面神を倒す。地球から月の連中を叩き出してやるから。だから俺が勝ったら結婚してくれ」

 優子はこの突然の告白に驚いた。調子はいいけどいざって時にまるでダメなポンコツの太郎。その太郎が今天地が裂けてマグマが飛び出そうなぐらいあり得ないほどマジ顔で告白した。こんなことされたらもう想いに応えるしかない。優子は太郎をまっすぐ見つめて言った。

「いいわ。あなたが月面神に勝ったらプロポーズ受けてあげる」

 その七日後月面神は遅れてきたノストラダムスの予言そのままに地球に降りてきた。地球人の期待を一心に背負い、大地を踏み締めてひたすらを待っていた太郎は地上に降りた月面神に向かってこう言い放った。

「月面神よ。ここがお前の死に場所となるだろう。この地球の光に満ち溢れた記憶を胸に抱いて逝け!」

 そして太郎は間髪を入れずに月面神に突進した。もうポンコツヒーローだなんて言わせない!僕はこの地球でたった一人のヒーローなんだ!ありったけの力をこの拳にぶち込んでやる!


 その数時間、優子の家の前にぼろぼろの太郎が現れた。優子は太郎に勝ったの?と聞いたが、太郎はそれを聞いて泣きながら優子に抱きついた。

「俺、負けちまったよ。完敗中の完敗さ。情けないよ。せっかく君に結婚を誓ったのに」

 優子は自分の前で崩れ落ちている太郎とうじゃうじゃくる月星人の大群を交互に見て絶叫して太郎をボコボコにした。

「このポンコツヒーローめ!やっぱりダメだった!私今から金星に脱出するからお前はアイツらに食われとけ!」


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