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焼き味噌

 男は女を前にしてまたいつもの自慢話を始めた。
「僕は本物にしか興味がないんだ。幼い頃からずっと本物に囲まれてきたからね。一流の職人が作ったものしか受け付けないんだ。だけど世の中には本物のふりをした偽物が至るところにある。それを見分けるためには何が必要か。それはやっぱり金と、あとは文化教養だよ。まぁ、貧乏人がいきなり金持ちになったって、文化や教養は一夜漬け出来ないから、結局は生まれと育ちになるわけだよ。つまり僕はこう言いたいのさ。この僕のように生まれながらの上流国民じゃなきゃ本物と偽物の区別はつけられないんだってことだよ。ちなみに君が出してくれたこの焼き味噌、僕には一口食べただけで本物だって分かるよ。僕がセレクトした高級品のきゅうりにつけて食べるとこの焼き味噌の上質さが引きたってくるじゃないか!」
 女は毎回聞かされる男の自慢話にうんざりした。それで女はこう質問してみたのだ。
「ちょっと汚い話になるけどいいかな?あの……ウンコ味の本物のインドカレーとカレー味のウンコがあったらあなたどっち食べる?」
 男は女の質問を鼻で笑った。そんなの答えは決まっているじゃないか。男は女に向かってニヤリと笑いながら答えた。
「ウンコ味のインドカレーさ。やっぱり本物を知る人間は見てくれには騙されないよ!」
 女は男の答えを聞いていかにも呆れたといったいったふうに肩を落とした。それからしばらく沈黙が続いたが、やがて女が再び男に聞いた。
「あなたが今食べてるの、徳川家康の焼き味噌よ」
「そりゃ凄い!徳川家康に由来のある三河の焼き味噌なのか!このコクのある味、やはりただの味噌じゃないと思っていたよ!やっぱり僕のような本物を知る人間にはこの味噌の価値は一瞬でわかるんだな!」
 女は男が興奮して喋っているのを目を閉じながら聞いていた。そして男に向かって言った。

「お話中ところ申し訳ないけど、それ、ただのウンコよ」


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