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文学の授業『人間失格』

 今、国語教師史岳守は現代文の授業で太宰治の『人間失格』について語っていた。史岳は元々文学青年でしかも今授業で扱っている太宰治の愛読者であった。俺は太宰なしじゃ生きていけないとは彼から聞かない日は一日もないだろう。実際に彼は付き合った女たちにも太宰治を読むことを強制していた。彼は女たちが太宰を呼んでいるか試すために抜き打ちテストまでした。そこで90点以上なら合格で交際を続行。90点以下なら即刻別れた。そんな男だから当然生徒たちにも朝礼と終礼には抜き打ちで太宰テストを行った。これも女たちと同じであった。90点以上なら内申書に優をつける。それ以下なら赤点だった。太宰なくして自分はなく、そして太宰に興味のない女や生徒は人間でさえなかった。彼は授業の最中に生徒が太宰の自殺を周りに迷惑をかける人は尊敬できないと真っ当な批判をしたのにブチ切れてその生徒に大きな赤点をつけた。太宰を理解しないこの子は人間的に問題がある。こんな子を卒業されてはいけない。そんな彼の太宰講義は回を経るごとに授業を超えて演説会をなっていた。

「太宰は故郷の津軽に戻ってようやく安らぎを得たんだよ!小説のモデルになった乳母にもあってもしかしたら俺って幸せになれるかもって思ったんだよ!だけどそれは出来なかったんだ!何故なら彼は太宰治だったからだ!」

 こう絶叫してから史岳は教壇を烈しく叩いた。彼は泣いた。太宰を思って泣いた。

「何故死んだんだよ太宰!お前の文学は『斜陽』や、あの『人間失格』で終わったって言うのかい?何がグッドバイだ。そんな笑えない冗談でさよならされたら俺たちはどうやって生きていけばいいんだよ!俺たちはアンタの文学がなきゃ生きていけないんだぜ!俺はアンタの『人間失格』を読んでまるで俺みたいだって思ったよ!俺はアンタが『人間失格』に込めたメッセージを読んで不思議だけど生きようって思ったんだ。アンタだって実は行きたかったんだろ?どうしてなんだよ太宰!アンタはどうして死んだんだ!」

 史岳はもう生徒そっちのけで天国の太宰に向かって叫びまくっていた。生徒はもう呆れてこのバカ教師に突っ込んだ。

「先生、もう太宰はアンタが生まれるとっくの前に死んでるんですよ。いつまでも死んだ人間のことをぐだぐだいうのやめてください」


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