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惑星探索 後編

前編あらすじ
 2121年6月。人類で初めてスーパーアース惑星ボストンに着陸したスティーブン・ペリーは着陸場所で異星人に遭遇する。スティーブはこの異星人に殺されると死を覚悟したが、意外にも異星人は彼を大歓迎し自分たちの村に泊まるように誘ってきた。スティーブは本日中調査を完了させ惑星を離れねばならなかったので、異星人の誘いを断ろうとしたが、その時宇宙ステーションから異星人の元に泊まるよう指示が来た。それでスティーブは異星人に案内されて村へと向かったのだが、そこは地球より遥かに文明の進んだ別天地であった。

お泊り

 家に着くと異星人は玄関の前で、例のフューチャーフォンみたいなものを取り出して、画面をタップしはじめた。すると、家の方から発信音が聞こえたと同時に扉が消えて玄関が現れた。ペリーがその一連の動作に驚いていると、男は「ほれ、なにぼさっとすてるだ。早く家さ入れ」と背中を押してきた。彼は異星人の言われるがままに家の中に入っていったのだが、そこは典型的な地球の一人暮らしの男の部屋のように、掃除など全くされておらず、果物らしきものの皮などが床に散乱していた。その光景は几帳面であり、かつ潔癖症気味であるペリーには耐え難いものであった。すると彼の後ろから入ってきた男が「ほれ、早くそこのソファーさ座れ」と言ってきたので彼が座ろうとすると、男は「あっ」と叫んでペリーに「おめえ、それ着たままソファーに座るべか?そのゴワゴワすた服さ早く脱げ!」と注意してきた。
 しかし脱げと言われてもこの部屋の乱雑ぶりを見ては脱げるものではない。それにここは地球ではなく遠く離れた惑星なのだ。地球人にとって有害な菌が漂っているかも知れない。ペリーがどうやって断ろうかと思案していると、異星人は急に怒り出し彼に向かって怒鳴ってきた。
「なんだおめえ地球では礼儀作法を教えねえべか!下はフルチンでもあるめえし、そのゴワゴワ服さ脱がねえんだったらこっから出ていけ!この礼儀知らずが!」
 ペリーはこんな散らかった部屋に人を入れといてその言いぐさはなんだと憤ったが、しかし追い出されたら調査どころか、事によったらこの異星人によって宇宙船まで破壊されてしまうかもしれない。彼は冷静になり、この田舎の爺みたいにうるさい異星人の言う通り宇宙服を脱ぎはじめた。やっとの思いで宇宙服を脱いでユニフォーム一枚になったが、この時ペリーははじめてこの惑星ボストンの大気にふれたのだった。その大気は地球とまったく同じように思え、ずっと宇宙船にいた彼にとってはとても懐かしいものに感じたのだった。しばし感傷にひたったペリーは我に返って男の方を向いたのだが、男の機嫌はまだ直っていないようだった。男は彼の頭の方を指差してまた文句を言ってきた。
「おめえ、服だけ脱いでどうするだよ!そのヘルメットさ早く取れ!」
 たしかにヘルメットも脱がず服だけ脱ぐのはおかしい。しかし、このヘルメットを脱いだらこの惑星では何も見えなくなってしまう。ペリーは異星人にその事を正直に話した。この星と地球の光の成分は真逆に配置されていて、そのせいでポジネガのように互いに見えているものが見えなくなるのだと。するとこの異星人は急に馬鹿笑いを始め、彼に向かってこう言った。
「なに?おめえんとこの太陽ってのと、うちのエイジアの光の成分が違うから見えねえ?なんだおめえ!つんぼどころかめくらだったべか!あんれまかわいそうになあ~。耳もきこえねえ、目もみえねえ、おまけにあんまり口聞かねえ。まるで言わざる聞かざる見ざるみてえだべさ!仕方がねえ。ええだ、ええだよ、ヘルメットはそのまま被っててええだ!」
 ペリーはこの男のあまりにもTPOを無視した差別的な発言に、この星にはマイノリティーはいないのかと憮然としたが、この異星人に地球の人権について説教するわけにもいかず、下手に反論して切れられたらとんでもないことになると思い、黙っていることにした。すると男がペリーを見ながら憐れみをかけるような表情で言った。
「光で思い出すたんだけどな、この間ニュースでやってただよ。目の新薬の治験でな、被験者におめえんとことよく似た恒星と同じ成分の光を浴びせ続ける実験てのをやってたらしいんだな。それで2時間ぐらい窓のねえ部屋に隔離してその光を浴びせてたんだけど、被験者はその間当然光の成分が違うから目の前がずっと真っ暗だったんだべさ。で実験が終わって被験者を外に出してみたんだが、被験者はまだ真っ暗でなにも見えねえって言ってただよ!結局被験者の視力は戻らなくて、被験者の家族は施設を訴えたんだな。ニュースの解説で被験者の脳が目をその恒星の光に適応させようとしたけどバグって機能不全になったみたいなこと言ってたべさ。おめえも気をつけたほうがええだ」
 男の話を聞いてペリーはぞっとした。もし今突然ヘルメットのバッテリーが今突然切れたら自分にも起こりうる事なのだ。ペリーはこの男の助言に感謝し礼を言った。すると男はニッコリしてペリーにあらためてソファーに座るように勧めてきた。ペリーが男の言う通りに席に座ると、男は急に改まったような態度になり口を開いた。
「あっ、そうだべさ!オラたちまだ自己紹介すてながったな。これからなかよくなるんだから自己紹介しないとダメだべさ!オラはトム・シュルツって言うだべさ。だけんどみんな田吾作って呼んでるだ。おめえも田吾作って呼んでいいべさ。オラはこのTOTO村一番の美丈夫だって言われてんだべさ。んでおめえはの名前は?もすかすて名無すか?ななすだったらオラが名前さつけてやるだ!ヘルメットマン。これがおめえの名前だべさ!」
「スティーブ・ペリー……」
「はぁ?ストロベリー?おめえ、イチゴが食べてえのか!いきなり食い物ねだるなんておめえは食いしん坊だなやぁ!」
「イチゴじゃなくて、スティーブ・ペリー!それが僕の名前です!」
「あんれま、いきなり大きな声だすてどうすたんだべか。冗談に決まってるべさ!」
 そう言って上機嫌に笑うこの男の存在に、ペリーは地球を出てから長らく味わったことのなかった人肌の温もりを感じた。そして男と出会ってからずっと不思議に思っていた事を聞いてみたのだった。
 あなたはどうして地球語を理解できるのか、理解できるどころかあなたはまったく問題なく会話できる。地球人同士だってコミュニケーションには苦労するのに。まさか、この星の言語は地球と同一なのか?
 ペリーは他にもいろいろこれからの地球の発展のためにも聞ねばならないことがありすぎたが、今は言葉に問題に限り質問した。田吾作は彼の質問をうんうんと、わかっているようないないような態度で聞いていたが、彼の質問がひとまず終わるとにこやかに歯をみせて答えた。
「いや、おめえの質問だけんど、実はオラたちおめえの言葉はわかんねえどころが聞こえてさえいねえだよ。恐らくおめえたちの声はオラたちの耳が感知できる周波数の限度を超えているんだべな。だけんど、なしてさっきあんなに話せたかとおめえは思ってるべな?それはこれだべ!」
 と田吾作は話を止めると耳からさっき花畑で一瞬見た貝殻みたいな電子機器を取り出してそれをペリーに見せたのだ。そしてすぐに耳につけ直してから話を続けた。
「でな、コイツはな自動通訳機って言うんだけんど、コイツを耳さつけたらあら不思議、聞こえた言葉を勝手に翻訳してくれて、それで耳さつけた人間の言おうとしてる事を、つけた人間のイントネーションはそのままに、話相手の言葉に翻訳して喋ってくれるんだべさ。オラが星のボストンの言葉は勿論、ボストンと同じ軌道を45度ほど先に走ってるスピードワゴンの言葉も、あと45度ほど後を走っているサヴァイヴァーの言葉も、反対側にいるカンサスの言葉も、それとこっから宇宙船で一週間はかかるとこにあるジェネシスの言葉だって、それからおめえの住んでる地球みていな原始人の星の言葉までも翻訳してくれるんだべさ!」
 ペリーは田吾作が最後に言ったあからさまな地球蔑視の言葉にカチンときたが、それ以上に彼の話の中に出てきた新たな地球型惑星の存在の方がずっと衝撃的だった。田吾作の話によればそれらの星すべてに知的生命体がいるらしい。しかも男の口ぶりだと、その星々は我々地球人などより遥かに文明が進んでるようだ。なにしろこの星の連中はここから宇宙船で移動して半年はかかるであろう遠く離れた地球の言葉まで把握しているのだ。ペリーは急に自分たちが井戸の中の蛙みたいに思えてきて惨めになったが、それ以上にこの惑星について深く知り、彼ら技術を地球に持って帰ろうという義務感を強く感じたのだった。
 宇宙ステーションの面々は、ペリーの転送装置から送られてくる異星人の話す事を聞きながら、自分たちがあまりにも宇宙知らずであり、この地球以外に文明など存在しないと驕り高ぶっていた事を深く反省した。そして彼らから学ぶべきところは学ばねばならぬと思ったのである。それは地球の人々も同じであった。彼らは仕事なんかより宇宙の勉強だと反省し、また学校より宇宙の勉強だと反省し、また争い事より宇宙の勉強だと反省し、また泥棒より宇宙の勉強だと反省し、自殺志願者は自殺より宇宙の勉強だと反省し、死にかけの病人の魂はあの世より宇宙の勉強だと反省し、彼ら一同これから一生宇宙の勉強に捧げますと誓ったのだった。
 ペリーはなんとなく、窓の外を見たが、先ほどまで出ていた恒星は完全に地面に落ち、外は静かな闇に覆われていた。虫らしき鳴き声がかすかに聞こえてきたので、ペリーはやはりこの星にも虫がいるのかと思った。目の前の田吾作はひたすら野菜やら果物を、何かの電子機器にぶち込んでいた。そして電子機器にタップしはじめたのだが、すぐに音が鳴り、それと同時に電子機器から色鮮やかな料理が出てきた。田吾作はさっそく出来た料理をペリーに勧めてきたが、彼はその色鮮やかでよだれの出そうな匂いのする料理に心惹かれたものの、やはり危険なものは食べられぬと、田吾作の勧めるのを頑なに断り、ヘルメットの耐久ガラスををわずかに開けて宇宙船から持ってきた無味乾燥そのままの乾パンを食べはじめた。それを見た田吾作が「おかしな食べ方だなや、ヘルメットが口みたいだべさ」とからかいはじめ、さらにペリーが持ってる乾パンを指差して、「地球人はそんな不味そうなもの食べるべか?」と小バカにしたように言ってきたので、ペリーはこれは宇宙食だときっぱり言った。すると男は「あんれま、地球人はせっかくの宇宙旅行なのにそんな貧しい食べ物しか食べられないべか!可愛そうだなや!」とペリーを憐れんだ。ペリーはそのやり取りが、田吾作と乗り物に乗せてもらうときに交わした会話と同じような内容だったので思わず苦笑いした。

惑星ボストンの歴史

 それからペリーと田吾作は長い時間会話をかわした。ペリーがそれとなく話を振ってみると、この男は実に上機嫌にペラペラと話してくれたのだ。まず話してくれたのが、この惑星ボストンの人間がすでに地球に住んでいて、そのうちの一人がYou Tubeみたいなもので『地球~原始人たちの生態』という地球をバカにしまくった番組を放送しているということ。そして次に話してくれたのが、この惑星ボストンと、そして同じ軌道を廻っている惑星の話で、こちらは非常に興味深い話だった。恒星エイジアを廻っている惑星ボストンと同じ軌道には他に3つの惑星が廻っているが、最初に文明が発展したのはこの惑星ボストンであったそうだ。しかし惑星内でボストンの先進国同士が戦争を始め、やがてそれが世界中を巻き込む大戦となってしまった。そして戦争で負けた国の首脳連中がボストンから脱出してそれぞれ別の惑星に移住したのだが、惑星に移住した連中はその文明力でたちまちのうちに現地人を束ね。遂には惑星そのものを一つの国にまとめ上げてしまったのだ。それから4惑星入り乱れての戦争、それぞれの惑星内での大規模な内乱とクーデターと革命を経て、絶え間ない争いに疲れ果てたそれぞれの惑星の首脳は首脳会談を行い、惑星をまとめて新しく恒星エイジアの名のもとに惑星連合国家を興すことを決定した。こうして出来たエイジア惑星連合は、その後争いもなくなり、それまでとは比較にならないほどの発展を遂げて今に至っている。というのがこの異星人の田吾作の話の内容である。ペリーはそれを聞いてこんな遠い、そして平和そうな惑星にも地球と同じような醜い争いが起こっていたのかと、やはり知的生命体の考えることはどこも一緒だと深いため息をついた。
「だけんどな、いくら平和になったからといってもよ、人が減っちゃしょうがねえべ。この惑星は昔は50億人近くいたらしいが、戦争が終わって惑星同士自由に出入りできるようになって、色んなものが発展するとよ。こっから他の惑星に移住するやつがではじめてよ。いつのまにか他の惑星のほうが遥かに発展しちまってよ。今じゃこの惑星の人工はたったの7億人になっちまったんだ。切ねえ話だべさ。昔はこの星が一番都会だったのに、今じゃ一番田舎もんになっちまった。他の星の連中に会う度によく言われるだ。『やーい、この田舎もんのボストン子め!』ってな。それが嫌で若い連中はみんな他の惑星に移住しちまうだよ。おめえも村を見たべ、すっかり寂れちまってもうどうしようもねえだ。星中あんな感じだべさ。街はもうちょっと栄えてるけど、他の星に比べたら全然だべさ。多分もうじきこの星ごと自然公園にでもなるんだろうなぁ」
 田吾作はこう話を終えると寂しそうな顔をしてペリーを見た。そして深いため息とともにこう言った。
「ああ、どこの惑星の連中でもいいからこの星に来てくれればなあ〜!」
「それだったら僕たち地球人がいるじゃないですか!僕たちを10億人でもこの惑星に移住させれば、この惑星だって昔の栄光をすぐにでも取り戻せるかもしれません!」
 ペリーは田吾作の話す惑星ボストンの現状に深く同情して思わず口に出したのだが、言い終えた瞬間、相手の怪訝な顔を見てうかつにも余計な事を口にしたと顔が青くなった。もしかしたら今の言葉で下手に怪しまれるかもしれない。ペリーははやる鼓動を抑えながら男の反応を待った。
 宇宙ステーションの面々も、ペリーうかつな事をと慨嘆し、相手に侵略の意志があると思われたらどうするのだと憤慨し、そしてペリーの命どころか地球自体が危険に晒されるかもと大騒ぎになった。一方地球の人々はまったくそんな危機感は抱いておらず、ペリーナイス!そんなに人が少ないんじゃ土地は膨大に余ってるはず、早速惑星ボストンに移住して土地をありがたく頂戴しようと喚くものが多数現れた。人々は仕事よりも惑星ボストンへ移住と心に決め、学校よりも惑星ボストンに移住と心に決め、争い事よりも惑星ボストンに移住と心に決め、泥棒よりも惑星ボストンに移住と心に決め、自殺志願者はは自殺するなら惑星ボストンに移住と心に決め、死にかけの病人の魂はせめて転生したら惑星ボストンにと心に決め、皆ペリーの提案に拍手喝采したのであった。
 田吾作は相変わらず怪訝な顔をしてペリーを見ていたが、やがてニッコリと笑顔で優しくこう言った。
「ええだよ、ええだよ。そんなに心配しなくても。オラたちだけでなんとか乗り越えてみせるだべ!今までずっとそうやってきたんだからな!」
 田吾作の言葉に安心したペリーは一応余計な事を言ってすみませんと謝ったが、男はええだ、ええだ、おめえが謝ることはねえだと許してくれた。それから田吾作はまた話始めたが、今度は仕事や買い物など日常的な話だった。そしてひとしきり話を終えると田吾作はペリーに向かって明日テレビに出ねえか?と聞いてきた。出るんだったら早速明日テレビ局に電話するだと言ったが、ペリーはこのあまりに突飛な話に動揺してそれはまた明日考えさせてくれと言って回答を保留した。宇宙ステーションの面々は異星人が怒ってなくててよかったと安心し、地球の人々はペリーさっさとテレビ出演決めればいいのにと思い、自分だったら仕事よりテレビ出演だと思い、学校よりテレビ出演だと思い、争い事よりテレビ出演だと思い、泥棒よりもテレビ出演だと思い、自殺志願者は自殺よりもテレビ出演だと思い、死にかけの病人の魂はあの世よりテレビ出演だと思い、地球の人々は皆ペリーが明日テレビ出演してくれる事をひたすら願ったのだった。
 そうこう話しているうちにすっかり夜も更けてきたので田吾作がそろそろ寝るべさと声をかけてきた。ペリーも実は先程から、時差ボケやここに来るまでの疲労のせいで、度々睡魔に襲われていたのですんなり従うことにした。男は立ち上がると、じゃあ客室へ案内するべといい、ペリーを連れ立って寝室へと向かったが、そのとき、この家は防音設備がしっかりしてるからなにしても大丈夫だべと言ってきた。たとえ屁をこいてもオラのところには聞こえねえから安心してこけ!とも言った。男の言葉に、生まれつき肛門がゆるく、屁をこきやすい体質のペリーは思わず顔を赤らめた。そして部屋の前につき異星人は彼にここだべといい、ドアをタップして開けたのだが、その時「おい」とペリーを呼び止めた。そして彼が振り向くと異様に真剣な表情でこう問いただした。
「そういえばおめえ村にいたときやたらチロチロあたり見廻すてたな。あれはなんだったんだべさ?」
 ペリーはこの突然の問いにまさか若い女性を探していたと正直に言うわけにもいかず、顔を赤らめなにも言えずにいると田吾作はなんだか寒気のする作り笑いを浮かべながら、いいべ、いいべ、なにも言わなくていいべと言ってペリーにお休みの挨拶をし、そして去り際に「こりゃ、セパレイト・ウェイズだな」とつぶやいていた。

疑惑

 ペリーは部屋に入ってから男の先程の言動について考えはじめた。この惑星では異星人である自分が首を伸ばして若い女性を探したことが彼の気に触ったのか、いや、そうではなく自分がこの星の調査をしている事自体が異星人にとって不審な行動のように思われたのか。しかし話している間、あの男は自分をずっとただの旅行者のように思っていたはずだ。それに調査だとわかってもこの星の連中だってとっくの昔に地球を調査しまくっており、それどころか地球に住んで地球をディスる番組まで作っているのだ。こちらが調査に来たところで文句を言われる筋合いなどないではないか。こんなあからさまな矛盾も、いかにも偏差な田舎の住民の考えそうなことといえばそれまでだが、しかしそうだとしても男の態度はあまりに自分に対して終始非常に好意的なものであったのだ。だけどなぜ最後に突然自分を疑わしい目で見たのか。やはりさっきの移住の話をしたとき、田吾作は地球人に対して危険を察知したのか。だいたいセパレイト・ウェイズという聞き慣れない単語は何なのだ。なにかの暗号みたいなものなのだろうか?そういえば明日ニュース番組に電話するとか言っていた。まさかさっきまでの好意的な態度は自分を拘束するための演技なのか。そして拘束した自分をこの惑星ボストンの当局でも売り渡すつもりか。ペリーは今すぐここから逃げだす事を考えたが、異星人である彼は扉の開け方を知らず、この家から脱出するにも脱出するすべがない。結局家を叩き壊すより脱出するすべはない事に気づいた彼はおとなしく最悪の事態を待つしかなかった。絶望的な気分になった彼は気分転換に部屋を見回したが、この部屋は綺麗に片付けられていて、中央にテレビらしきものと、左側には透明なベッドがあることに気づいた。しかし彼にはテレビの操作方法はわからず、こんな透明の怪しいベッドに寝たら最後、ベッドの脇からなんか出てきて自分はぐるぐる巻にされてしまうだろう。部屋は異様に静かだった。急に寂しさがこみ上げてきた彼は「ロザーナ……」と我知らず宇宙ステーションの同僚の名を呟いていた。

ロザーナ

 ロザーナはペリーと同じ年に宇宙ステーションに入職した女性で、ペリーとずっと同じプロジェクトに関わってきた仲間であり、宇宙飛行士の座を争ってきたライバルでもあった。彼女は際立って優秀でペリーに先んじて宇宙飛行士の座を射止め、冥王星の調査をはじめ太陽系外のいくつかの惑星の調査を成功させた。本来だったらこの惑星ボストンの調査ははペリーではなく彼女が選ばれるはずだったという噂さえある。しかし宇宙ステーションの幹部は、知的生命体の存在する可能性のある惑星へ女性を向かわせるのは非常に危険だという理由で、男性のみで選考することに変更したのだ。ロザーナはこの突然の決定に涙を飲んだが、選考の結果同僚のペリーが飛行士に選ばれると彼女は喜んで彼を祝福した。ペリーはロザーナがずっと好きだった。ロッザーナ♪ロッザーナ♪ロッザーナ♪と口ずさむほど好きだった。ペリーはこの惑星ボストンへの長い航海中ずっとロザーナのことを考え、たびたびあらぬことを想像し、思わず宇宙服を脱ぎすててこの場でいたそうかと何度も考えたが、その度に宇宙船が生中継されていることを思いだし自らを自制したのである。本当だったらこの惑星ボストンの調査を終えて地球に帰ってきたら真っ先にロザーナに告白するつもりだった。ロッザーナ♪ロッザーナ♪ロッザーナ♪と彼女に愛を告白するつもりだった。しかしもうその彼女には会えなくなるかもしれない。ペリーはもうこれが最後と、彼女のあらぬあんな姿やこんな姿を勝手に想像し、再び彼女の名前を呼ぶのだった。「ロザーナ……」

セパレイト・ウェイズ

 ヘルメットのバッテリーの残量が気になったペリーは、さっそくメンテナンスボタンを押して残量を確認した。電池がもう半分ぐらいになっている。光の調整だとかで急激に減ってしまったのだろう。彼は食事のときに異星人が言ったことを思い出しゾッとし、そして着陸のとき光反転装置を使う前の状況を思い出した。あのときしばらく目の前が見えなかったが、あれは何分ぐらいだっただろう。多分5分ぐらいか。しかしあのまま光反転装置の存在に気づかなかったら自分はどうなっていたのだろうか。あの異星人の話の被験者のように二時間か、それとも一時間か。ペリーは盲目になった自分の姿を想像して再びゾッとした。あいにくバッテリーは宇宙船の中に置いたままだった。明日取りにいけば電気を補充できるだろう。しかしこの監禁状況ではバッテリーを取りに行くどころではない。彼は再び部屋を見回した。先ほどと特に様子は変わっておらず、そして先ほどと同じように異様に静かだった。
 彼はそのまま怪しいものが現れないかと聞き耳を立てて警戒していたが、とうとう眠気に負けウトウトしはじめた。彼はウトウトする度にヘルメットを叩いてどうにか眠気を追い出したがもう限界だった。いつの間にか意識がなくなり彼は暗闇の世界にいた。暗闇の世界で彼は手探りをしてなにかにふれる、なにかを握る、そしてなにかが彼の口に触れる……。ペリーはハッと意識を取り戻し、とうとう連中が俺を拘束しに来たんだと暴れて抵抗した。ふざけるな!俺はお前らなんかに捕まってたまるか!地球にはロザーナが待ってるんだぞ!「ウワー!!」とペリーは声の限り大絶叫した。
「ちょっとぉ、なに騒いてるのよぉ~!キスしたぐらいでぇ~!あなたチェリーなのぉ~?」
 聞いたこともない女の声が聞こえたのでペリーは驚いて目を開けた。いつの間にか彼はベッドに乗せられていた。体はどうやら拘束されていないようだ。そして恐る恐る周りを見渡すとそこに女がひとり立っていた。しかし影ではっきりとした姿は見えない。彼は女に向かって「お前は誰だ!」と叫んだ。
「ちょっとぉ、こんなとこまで人呼んどいてその言いぐさはなんなの~!それが床で寝ていたあんたをベッドに寝かしつけてやった人に対する言いかた?せっかくセパレイト・ウェイズからわざわざこんなど田舎まできてやったのにぃ~!」
 セパレイト・ウェイズ?その言葉を聞いたペリーはあらためて女を見た。しかし相変わらず影で女は見えない。彼はヘルメットの光反転装置を操作しながら女に向かって聞いた。
「セパレイト・ウェイズってなんなんだ?」
「いやだ!あなたセパレイト・ウェイズ知らないの?あの……田吾作さんからなにも聞かなかった?あのね、セパレイト・ウェイズって言うのはボストン最大の風俗チェーン店なの。電話一本でボストンの果てまで女の子をデリバリーするお店なのよ。さっきママのとこに田吾作さんから電話がかかってきて、あんたが田吾作さんの村に入るなり女の子を探してキョロキョロあたりを見回したりなんかしてたから、田吾作さん、あいつ地球じゃもてねえからこんなとこまで出会いを求めてきたんだなって、あんたを気の毒がってセパレイト・ウェイズNo.1の人気嬢の私をあんたんとこに呼んだのよ!なのにこの態度はなによ!ホントに田吾作さんからなにも聞いてないの?」
 それを聞いたペリーは、先程の田吾作とこの部屋の前でかわした会話を思い出してハッとした。やたら真剣な表情で自分の村での挙動について聞いてくるから何事かと思ったら、俺のために女をデリバリーするつもりだったのか!なんて余計なことを!俺はそんなにモテないと思われていたのか!

 光反転装置の調整のおかげで女の姿がはっきりと見えてきた。そして、その女の全身を見た瞬間、ペリーは思わず息を飲み込んだ。何という女であろうか。彼をアンニュイな表情で見つめる、その藍色に輝く黒髪に包まれた彫りの深い顔は、まるでクレオパトラのようだ。女は肩を完全に露出させた極彩色のボディコンスーツみたいなものを着ていたが、下はパンティラインギリギリで、パンティなるものをこの惑星の女性が履いてるのだとしたら、ちょっとかがんだだけで丸見えだ。履いてなかったら大事なところまですべて丸見えだ。そしてその肌だ。肩からのぞく白とも黒とも黄色ともつかぬその輝く肌は地球ではまずお目にかからない。しかも部屋の温度が暑いのかその肌から珠のような輝く汗が浮き出ている。その服で隠された部分はどうなっているのだろうか。そう想像するとペリーの下半身は自然と熱くなり、理性など吹き飛んでしまいそうになる。彼はそのまま女を見つめ、ただ一言つぶやいた。
「美しい……」

落ちた天使(センターフォールド)

 都合のいいことに地球も就寝時間だったため、地球の人々も、ペリーが部屋に入るとと同時に、何かあったときのためにテレビやPCやスマホをつけたまま布団に入ったが、ペリーが大声で叫んだと同時に飛び起きて、何事かとそれぞれのテレビやPCやスマホににかじりついた。そして女の姿がはっきりと見えたとき地球の男たちは一斉に驚嘆の叫びを上げた。彼らもこんな極上の女を地球では見たことはなかったのだ。彼らは仕事よりも異星人の女と思い、また学校よりも異星人の女と思い、また争いごとより異星人の女と思い、また泥棒より異星人の女と思い、自殺志願者は自殺より異星人の女と思い、なんとか地上に留まっていた魂はあの世より異星人の女と思い、彼らは映像に映る女を一斉に崇め始めたのである。対して地球の女達はこの娼婦を心のそこから憎み、仕事よりペリーを守ると義憤に駆られ、学校よりもペリーを守ると義憤に駆られ、争う事よりペリーを守ると義憤に駆られ、泥棒よりペリーを守ると義憤に駆られ、自殺者は女からペリーを守れなかったら自殺すると喚き、なんとか地上に留まっていた魂はペリーが女の誘惑にかかったらおとなしくあの世に行きますと言い、これまた一斉にペリー、女の誘惑に屈しちゃダメ!と祈り始めたのである。そして地球の一般人に比べて冷静でなくてはいけない宇宙ステーションの面々も地球の一般人とほとんど同じ反応であった。男の職員は「やめろペリー!ふしだらだ!」と喚きながらもモニターにへばりついて女を舐め回すように見つめ、女はギャー!ペリーこんな売女といたしたら地球に帰ってきたとき衛星ミサイルでロケットごとぶっ飛ばしてやるんだからと喚き散らした。そんな中、モニターを一心に見つめる一人の女性がいた。ロザーナである。彼女は祈っていた。同期であり、仲間であり、ライバルであるペリーが今回の惑星ボストンの調査を無事成功させる事を。そしてペリーが彼女に恋をしていたように、ロザーナもまたペリーに恋していた。自分のペリーに対する想いをフーリッシュ・ハートと何度も打ち消そうとしたが、それでも彼を諦める事はできなかった。そんな彼女の目の前で、今愛しのペリーが誘惑されようとしている!彼女は思わず立ち上がり、モニターの向こうのペリーに向かって叫んだ。
「ペリー!あなたには私がいるじゃない!そんな汚れた女の誘惑に屈しちゃダメ!」

 ペリーの感嘆ともため息ともつかぬ言葉を聞いた女は一転して蠱惑的な表情で、一心に自分を見つめている、ヘルメット姿のペリーに向かって顔を近づけると、彼に向かって「やっぱりするの……」と囁いた。
 彼女の甘い囁きを聞いた途端、顔が熱くなったペリーは思わず女から視線をそらしたが、その時、彼はヘルメットの耐久ガラスに口紅の跡らしきものを見つけたのだった。そういえばさっきこの女俺にキスしたとか言っていたな。これは女の口紅の跡なのだろうか。口紅の跡は、女だけが持つもう一つの唇のように半開きで淫らに開いている。再び視線を前方に戻すと、女はいつの間にかペリーの目の前まで顔を近づけていた。女の顔はもうヘルメットのガラスに顔がくっつきそうだ。
「私、J・ガイルズっていうの。よろしくね……」
 女はそう自己紹介するとおもむろに服を脱ぎはじめた。その極彩色のボディコンスーツがたくし上げられ、スーツに隠されていたものがむき出しになっていく。やがてガイルズのボディが現れた。あの白とも黒とも黄色ともつかぬ輝く肌が完全露出したのだ。汗を浮き立たせたその肌はやはりこの世のものとは思えないほど美しく、バストはおそらくG、もしかしたらHカップはあるであろう。くっきりとした谷間がむき出しになっている。さらに下の方にいくと、見事にしまったウェストだ。波打つような腰を見ているだけでもう沸騰しそうだ。そしてさらに下を目指すと……。しかし、残念ながらその先は下着で隠されていた。バストの中心も、股の間も、極彩色の下着によって絶妙なラインで隠されていたのだった。
 それを中継で見ていた地球の男たちはブラボー!と彼女の喝采を送った。俺だったら仕事よりガイルズと喝采し、学校よりガイルズと喝采し、争いごとよりガイルズと喝采し、泥棒よりガイルズと喝采し、自殺志願者は自殺よりガイルズと喝采し、未だ地上に留まっている死にかけの人間の魂はあの世よりガイルズと喝采し、全員モニターに向かって早く下着とって全部見せろ!と遠く離れたガイルズに向かって叫んだ。逆に地球の女は、この地球のどんな美ボディの持ち主をも辱める、この極上ボディの異星人に殺意を抱き、ペリーがこの女を抱いたら仕事よりもペリーの死刑、学校よりペリーの死刑、争いごとよりペリーの死刑、泥棒よりペリーの死刑、自殺者は自殺するんだったらペリーを道連れ、死にかけの病人の魂はあの世にペリーを道連れと、地球にペリーが帰ってき次第、ペリーの逮捕監禁そして即刻の死刑執行を望んだのである。
 そして宇宙ステーションの面々もペリーと異星人の女を巡って大混乱になっていた。異星人の極上ボディを見てしまった男連中は、もう宇宙ステーションの職員としての体面などかなぐり捨てて、「ペリー!早くその異星人の売女の下着を取って丸裸にしろ!」と喚き、女連中はこの極上ボディーの異星人への嫉妬を剥き出しにし、「ペリー!その異星人の売女とやったらホントにミサイルでアンタの宇宙船爆破してやるわよ!」喚き、さらに男連中に向かって、「お前ら全員セクハラで訴えてやる!いや、今すぐ素っ裸にして宇宙ステーションの玄関の前に晒し者にしてやる!」と怒鳴りつけた。もう収集がつかなくなっていた。その時あのフォーリナー博士が立ち上がったのである。博士は「静粛に!」と一喝するとあらゆるものを奮い立たせてこう言った。
「私はペリー飛行士がこの異星人と性交するのを許可する!いや、許可ではない!これはペリーに課せられた新しい任務なのだ!スティーブ!これは命令だ!今から異星人の極上ボディをくまなく調査せよ!いいかね、スティーブ、これはお遊びではないのだ!」
 フォーリナー博士の言葉に男どもは拍手喝采を浴びせ、女達はこの何もかもを立たせた博士の言葉に激怒し博士に向かってあらゆるものを投げつけた。そんな状況のなかロザーナは一人涙を流しながらモニターの向こうのペリーに向かって叫んだ。
「ペリー!お願いだから今すぐ私の所に戻ってきて!」

 ペリーは目を剥いてガイルズのその極上ボディを凝視した。ああ!それを見た瞬間惑星ボストンの調査も、そしてロザーナのことも、すべてどこかに吹っ飛んでしまった。今の彼にとっては惑星ボストンの調査よりも、この女の下着の奥の調査のほうがずっと大事だった。見たい、いや見なければならぬ!そして味わはねばならぬ!宇宙の神秘を奥深くまで!ペリーはもはや自分でも理性のコントロールができなくなった。ペリーは知らず知らずのうちに、その両手でガイルズを抱きしめようと腕を上げていく。そしてガイルズを抱きしめようとした瞬間だった。女が突然ペリーを突き飛ばし、そして彼に向かってこう怒鳴ったのである。
「ちょっとぉ、あなたまさかヘルメットつけたままエッチするつもり?地球じゃどうか知らないけど、ここじゃヘルメットつけてエッチする人なんかいないんだからね!私とエッチしたいなら、さっさとヘルメット脱いでよ!」
 ガイルズのあまりに無情な言葉を聞いて、ペリーはいきなり崖から突き落されたような気分になった。ヘルメットを脱がないと、せっかく手に入れかけたこの極上天上ボディーを、触ることも突っ込むことも出来ぬまま、この星を去らねばならないのだ!そしてヘルメットを外して最後まで出来たとしてもその後に彼を待つのは一生の間ずっと真っ暗闇で生きる未来だ。どうしたらいいのか!彼はもう必死に、ガイルズに自分の事情を説明し、そして恥も外聞もなく懇願した。この星と地球とでは光の成分が違うから、自分はこの星ではヘルメットなしで君のその極上ボディを見ることは出来ないんだ。それに、この星でヘルメットなしでずっといると、僕は盲目になってしまうんだ!だからこのままヘルメットでやらせてくれ!お願いだ!
 しかしそんなペリーの必死の懇願をガイルズはロクに聞く耳を持たなかった。彼女は呆れたようにペリーを見て言った。
「あなた、なに訳のわからないこと言ってるの?そんなに自分の顔が見られるのが嫌なの?ガラス越しで見ると、ブサイクってわけじゃなさそうだし、むしろイケメンに見えるわよ!ねえ、見せてよ!私の前にそのセクシーな顔見せてよ!じゃないとエッチしてあげないんだから!」
 ペリーはこのままエッチをするには、ガイルズから突きつけられた最後通告にもはや従うしか道はないと思った。でなければこの抱き心地の良すぎる極上天上ボディの女は彼の目の前から永遠に去ってしまうのだ。『君をずっと離したくない……』そんな三流青春映画みたいな陳腐なセリフさえ浮かんでくる。ペリーもはや任務より、愛しいロザーナよりも、この異星人の女とのエッチの方が遥かに大事だった。極上ボディを見れなくてもいい、ただやれればいい。盲目になっても構わない!ただヤルことさえできれば!
 ヘルメットの中は、ペリーが大量に放出する汗のせいですっかり蒸れてしまった。おまけに彼の汗の匂いが充満し、これ以上被っていることが耐えられなくなってきた。ガイルズとヤりたいという思いと、ヘルメットの匂いと蒸れから逃れたいという思いが重なり、遂にペリーはヘルメットを脱ぐために両手でヘルメットを掴んだのだ!

 中継画面が大きく揺れ、ペリーがヘルメットを脱ぎ始めたことに感づいた地球の男たちは、バカやろー!ヘルメット脱ぐんじゃねえ!脱いだら女の極上ボディが見えねえじゃねえか!と叫び、女たちはペリーがこのままヘルメットを脱いで女とやったら確実にペリーを殺す!と喚いた。宇宙ステーションでもフォーリナー博士をはじめモニターのペリーに向かって、「ペリー!脱がずに性交できる方法を考えたまえ!」「ペリー!もうちょっと頭を使え!」と叫び、女達は、「そんなにまでしてこの売女とやりたいのか!」「あのペリーがこんなドスケベな奴だったなんて信じられない!」と喚き散らした。そんな中、ロザーナはモニターの中の、女の極上ボディに囚われ、盲目になるのもいとわず、女の言うがままにヘルメットを脱ごうとしている、同僚であり、ライバルであり、そして密かに恋心をいだいているペリーに向かって叫んだ。
「ペリー!あなたは今何もかもを失おうとしているのよ!お願いだから目覚めて!そして元のあなたに戻って!」

 モニターからペリーがヘルメットを脱いでいる音が聞こえてくる。地球の人々は一斉にモニターにべったりと張り付きペリーの行動を見守っていた。女の極上ボディと激しいエッチを見たいと願う者、女の極上ボディを激しく憎み、ペリーがその不埒な誘惑を撥ね退けることを願う者、そしてロザーナのようにペリーを心から思い、ペリーが誤った判断でで盲目にならぬよう必死に願う者。様々な人の様々な思いが交錯し、喧々諤々の大騒ぎの中、みんなたった一つのことを叫んでいた。

「ペリー!ヘルメットだけは絶対脱ぐな!」

《完》




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