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惑星探索 前編

ジャーニー・フロンティア号

 2121年6月30日。この日は人類にとって新たなる記念日になるだろう。宇宙船『ジャーニー・フロンティア』は長い航海を経て、ついにスーパーアース、いわゆる地球型惑星ボストンに着陸しようとしていたのである。その航海の模様は宇宙船中に取り付けてあるカメラでリアルタイムで中継され、宇宙飛行士スティーブ・ペリーの屁をこいてる姿まで撮られていた。そして惑星ボストンへの着陸予定日である6月30日になると、世界各国のメディアは一斉に特別番組を組み、一日中惑星着陸の模様を生中継した。全世界の人々はもはやこの歴史的な瞬間を見るために学校を休み、仕事を休み、犯罪を休み、争いごとを休み、自殺を休み、余命いくばくもない病人ですら死ぬのを休んでテレビやネットにおしりかじり虫のごとく齧りついた。皆初めてスーパーアースに着陸するジャーニー・フロンティア号と、それを操縦するペリー飛行士を固唾を飲んで見守っていた。
 ペリーは地球からの映像を見て体が震えた。一心不乱に自分を見ている人々を見ていると、彼らの自分にかける期待の重さを感じて、それがプレッシャーとなって押し寄せてきたのだ。彼は緊張をほぐそうと重力装置をONにして船内を歩き回った。そして惑星ボストンの事を考えた。惑星には我々と同じような知的生命体はいるのだろうか。いるとしたら自分の命はどうなるのだろうか。いや、と彼はかぶりを振って自らの迷いを打ち消した。例え自分が犠牲になろうとこれは人類の新たなる発展への一歩なのだ。この着陸が成功し自分が惑星ボストンの地上に降り立ったその時から、人類は産業革命など問題にならぬほど発展するだろう。すでに疲弊した人類は新天地を求めこの惑星ボストンに産業の転がる岩をもたらすのだ。人類の進歩は自分の双肩にかかっている。もはやエスケイプは不可能だ。ペリーはしばらく歩き回っていると、船内に大気圏に近づいた事を知らせるサイレンが響き渡ったので、ペリーは早足で操縦席に戻り着陸の準備を開始した。

 宇宙船ジャーニー・フロンティア号は惑星ボストンへの着陸を開始した。惑星の周りを旋回すると目標をさだめてゆっくりと大気圏に突入していった。宇宙船が惑星の重力に引き込まれていく。ペリーはいよいよこのときがきたかと全身に力を込めて歯を食いしばった。だが、惑星ボストンの厚い雲に入った途端、突然ペリーの目の前が真っ暗になってしまったのである。それを中継で観ていた地球の全世界の人々は一斉に絶望の叫びをあげた。やっぱり失敗であったか!早すぎたのだ!これでもう地球の未来は終わりだ!自殺志願のものは私やっぱり自殺する!と叫び、余命二日の末期患者のほとんどは絶望のあまりみんなあの世に旅立ってしまった!
 それは宇宙ステーションでも同じだった。ペリーの同僚は、あの若くて勇気のあるペリーが犠牲になってしまうなんて!と泣き叫び、しかしペリーが生きているかもしれぬと思った一部の同僚は、わずかな希望を信じてマイクで必死に彼に呼びかけたのだ。しかしなんの反応もない。もう終わりだと皆が思った瞬間、フォーリナー博士が立ち上がって叫んだ。
「いや、スティーブは生きている!見たまえ、宇宙船からはかすかにだが信号がある。これはまだ宇宙船が活動している証拠だ。それと真っ暗なのは多分……」
 その時だった。突然スピーカーからノイズ混じりでペリーのか細く喋る声が聞こえてきたのだ。
「ハロー、ハロー、こちらスティーブ・ペリー。今……惑星ボストンに……到着完了……しかし目の前が真っ暗でなにも見えない」
 それを聞いた宇宙ステーションと、そして世界の人々は一斉に歓声を上げた。ついに人類は新たな一歩を踏み出したのだ。フォーリナー博士ペリーの話を聞いてやはり自分の考え方が正しい事を確信した。この惑星は恒星の光の成分が地球の太陽とは真逆のため、いわばポジネガのように、地球では見えているものが、惑星ボストンでは一切見えなくなるのである。博士はその事をペリーに伝えるためにマイクに近づき言った。
「ハロー、ハローこちら宇宙ステーションのフォーリナーだ。惑星ボストンへの着陸おめでとう!これは我が地球にとって偉大なる進歩だ。君の名は地球史と宇宙史に永遠に残るだろう。今の君の状況は把握した。今の君の問題はすぐに解決できる。宇宙に旅立つ前に私が話したことは覚えているかね?もしものためにつけておいた機能が奴に立つ時が来たんだ。君、頭のヘルメットの左側にあるスイッチを押したまえ」
 ペリー飛行士はフォーリナー博士の言ったことを思い出した。もし惑星で突如暗闇に襲われたらヘルメットに仕込んだ光反転装置を使うが良い。それで視界は取り戻せると博士は言っていた。彼はフォーリナーの言うことを信じてヘルメットのスイッチを押した。すると突然周りが明るくなって宇宙船の中と、そして自分が今着陸した惑星ボストンの風景が隅々まで見えたのである。
「博士、見えました!自分が今惑星ボストンに着陸した事を確認しました!しかしこんなに遠く離れた離れた惑星なのに、見れば見るほど地球そっくりです!ああ!ここはやはり人類のフロンティアなのでしょうか!」
「スティーブ、今君が見ている光景を転送装置を起動させて地球の皆にも見せたまえ。早く!」
 ペリーはヘルメットの映像転送装置を起動させた。しばらくすると地球の全世界の人々の前に惑星ボストンの、新しき人類のフロンティアの風景が映し出されたのだ。それを観た瞬間、全世界の人々は一斉に歓喜の声をあげた。自殺志願者はやっぱり自殺をやめ、あの世に旅立った末期患者の魂はこんなときにあの世なんか行ってられるかとUターンして自分の体に戻ってきた。
 地球で歓喜の声が轟く中、ペリー飛行士はすでに興奮から覚め、惑星の調査の準備をし始めた。太陽とほぼ同じ大きさの恒星は燦々と輝き、緑も豊富にあった。しかし重力と酸素はどうなのだろうか。地球の酸素の成分と同じであろうか。彼はロボットを操作しサンプルを集め終わると、十字を切り、祈りながら計測結果を待った。おお神よ!人類の未来を照らしたまえ!すると計測完了を知らせる音が鳴り、計測データが画面に映し出されていく。惑星ボストンの重力と酸素成分は何から何まで地球の酸素と一致していた。人類の移住が可能であることがわかったペリーは歓喜の叫びを上げた。そして地球の人々も思わず地震が起きてしまうぐらい叫んだ。やっと我々は人類のフロンティアを見つけたのだ。人々は惑星ボストンにいるペリーを称え、ペリーペリーとペリーの彼の名を何度もコールした。重力と酸素は一致、ということは植物成分も地球と変わらないだろう。人類の栄養になる植物も豊富にあるに違いない。光のポジネガだけが問題だが、これも科学の力で解決可能な問題だ。ペリーはそう思考を巡らせながら目の前の惑星ボストンの風景を眺めていたが、そのうちに自ら惑星に降りてこの惑星を歩きたくなってきた。ロボットで調査して帰るだけでは飽きたらなくなってきたのだ。そう思ったペリーは早速宇宙ステーションに連絡し、自ら惑星に降りて調査したいと伝えた。それを聞いたフォーリナー博士は英雄ペリーの身の危険を察知して拒否しようとしたが、ペリーの真剣な眼差しに心を動かされたのと、博士自身のこの惑星の生態系について深く知りたいという願望から地上での調査を許可したのであった。

惑星ボストン

 宇宙船の扉を開けたペリーは惑星ボストンのハーモニックな風が幻想的な旅行を思わせる調べのように吹き付けてくるのを感じた。その風を生身で感じたくなった彼は思わず宇宙服を脱ぎ捨てようとしたが、自分が任務中であること、そして自分の一挙手一投足が地球で中継されていることを思い出し、目をきつく閉じて自分に喝を入れた。彼は始めは宇宙船の周りを調査していたが、やがて冒険心が目覚めてきて、だんだん宇宙船から離れた場所に移動しはじめた。このあたりには彼を襲う生命体はいなそうだ。あたりには地球では見たこともないような美しい花々が咲き誇っている。小さな虫などはいそうだがそれは彼の光反転装置の解像度が低いせいで見つけることはできなかった。彼はもっと遠くまで行こうとしあらためて宇宙船の周りを確認した。大丈夫だ。やはりこのあたりには自分と宇宙船を襲う生命体はいない。そう確信した彼は粉のマーカーを地面に撒いて目印にするとDon't Look Backと自分に言い聞かせ恒星の照りつける方へと歩き始めた。
 地球の人々はまずペリーが見せた惑星の景色と、その花々の美しさに見とれ、そしてペリーの行動を緊張感を持って見守った。もしかしたらペリーは知的生命体と接触するかもしれない。そしたら彼はどうなってしまうのか。恒星の指している方向に向かって歩いていたペリーは、花の間をぬって歩くたびに、分厚い宇宙服でも感じる植物の感触を感じた。彼はその感触に遠く離れた地球を思い出して胸が熱くなり、この自然の匂いをかごうと我知らずヘルメットを脱ごう頭を手に持って行ったとき、突然ペリーの目の前に黒い影が現れたのであった。影はおおきくなり、とうとうペリーの目と鼻の先まで、近寄ってきた。ペリーは予想もしなかった事態に動くどころか息をすることさえできない!その光景を中継で見た地球の人々は狂乱のあまり大絶叫しはじめた。ああ!偉大なる惑星の開拓者ペリーに危険が迫っている。しかし自分たちにはペリーを助けることはできない!彼らは宇宙ステーションにメールやら電話やらで次々とペリーを助けろとメッセージを送った。しかし宇宙ステーションの面々も遠く離れたペリーを救出することはできない。彼らにできるのはただ祈ることだけだった。おお!神よ!若き英雄にして宇宙時代の開拓者のペリーを救い給え!世界の人々はひたすらペリーの無事を願っていた。仕事を忘れ、学校を忘れ、争いを忘れ、泥棒を忘れ、自殺志願者は自殺を忘れ、魂の離れかけた死にかけの病人は死ぬのを忘れて今はただ一心にペリーの無事を祈っていた。

謎の異星人

「おめえ、へんちくりんなカッコしてなにさ勝手にオラの花畑にはいりこんでるだ!」
 と先程ペリーの前に現れた黒い影はいきなりぺりーを怒鳴り散らしたのだった。ペリーは相手が黒い影であることには勿論びっくりしたが、それ以上にこの黒い影が地球の言葉を喋ってきたことにもっとびっくりした。この黒い影はちゃんとした生命体なのか?なんかの幻影を見ているだけじゃないかと思ったが、目を何度もパチクリさせても黒い影は消えず、相変わらず文句を言っているので、ペリーは大気圏に突入した博士の言葉を思い出し、もしかしたらネガポジのせいで自分の目がこの生命体を認識できないのかと思い、ヘルメットの光反転装置を調整してみたのである。すると黒い影は色彩を彩り始め、とうとうその正体を見せたのであった。
「おめえ、つんぼだべか?オラの言ってること聞こえねえだべか?」
 彼の目の前でまだ怒鳴っているこの生命体はオレゴン州あたりにでもいそうなただの農家のおっさんだった。
 ペリーはこの事態にびっくりし、確かに自分は宇宙船に乗って宇宙に行ったはずと、わざわざ記憶をたどって確認し、宇宙ステーションの面々もこれは何事かと一同呆然とした。そして地球の人々に至っては騙された!なにが宇宙だ!ただのハリウッド映画のセットじゃねえか!こいつは英雄どころかとんだ詐欺師だったと、とおのおのが見ているスクリーンの中のペリーに向かって唾を飛ばしだした。しかし、世界の人々がペリーに激怒し、仕事を休むのをやめ、学校を休むのをやめ、争いごとを休むのをやめ、泥棒を休むのをやめ、自殺者は自殺をやめることをやめ、戻りかけた魂はやっぱり戻ることをやめようとしたその時だった。ペリーの目の前にいるオレゴン州の農家のおっさんみたいな男があっと口をあんぐり開け、こう叫んだのである。
「さては、おめえ地球人だべな!地球人が来る来るってニュースさ流れてたけんどあれはおめえだったべか!」
 そう叫んだ男は耳からなにか見慣れぬ貝殻型の小さな電子機器のようなものを外すと、これまた見慣れぬ紙のように薄い電子機器を取り出して口に近づけるとなにか信号のような音を発したのだ。それから男は再び貝殻型の電子機械をつけると、さっきとは打って変わってにこやかな表情でペリーに向かって言ったのだ。
「おめえのことさ村のみんなにも教えてやっただべさ!すかし今日はとんでもねえ日だべな!まさか地球人がこんな辺鄙な村に落ちてくるなんてよ!今夜はオラのむらさ泊まれ!みんなで大歓迎してやるだべよ!」
 ペリーは事態が全く把握できず戸惑っていると男が立て続けに喋ってきた。
「おめえ、どすたんか?オラの家に泊まりたくねえべか?まさかオラ達がおめえを食っちまうんじゃねえかと心配でもすてるんか?」
 相変わらずにこやかに喋ってくる男を見てペリーは自分が間違いなく惑星ボストンにいることに安堵したのだった。そしてこの惑星にも知的生命体がおり、しかもまともに会話ができることに深く感動した。彼らは自分達を知っており、ありがたいことに非常に友好的だった。そしてペリーはこの異星人の姿形を見て、やはり知的生命体は結局ホモサピエンスに似るのだと嬉しくなった。できれば彼らの村に入り彼らの生活を調査したい。だが彼には調査任務があり、あと数時間のうちにこの星の調査を終わらせてこの星から引き上げねばならない。彼は男に向かって残念だがと誘いを断ろうとした瞬間であった。彼のヘルメットのスピーカーからフォーリナー博士の声が聞こえてきたのだ。
「スティーブ、彼らの村に泊まり給え!おそらく一週間程度のロスなら地球への帰艦に何ら影響はない。それよりもこの惑星の文明を知ることが遥かに重要だ!地球の人々もそれを望んでいるのだ!」
「ほれ、おめえのボスもこう言ってるだ。泊まれ、オラの家さ泊まれ。もすかすておめえ、花畑においた乗り物すんぱいすてねえか?すんぱいすな!オラ達がちゃんと盗まれねえよう見張ってやるべさ。それだけじゃなくてメンテナンスもすてやるだよ。あの乗り物古臭くて原始人の乗り物みてえだからマニュアルなんか見なくてもメンテナンスできるべさ!」
 この予想を遥かに超えた事態にスティーブは驚き、異星人の男とまともに会話することさえできなかったが、それは宇宙ステーションの職員も同じであり、彼ら以上に地球の人々も驚愕し、あたりかまわず発狂しまくっていたのだった。ペリーと異星人との会話を聞いた人々は仕事を再開するのをやめ、学校を再開するのをやめ、争い事を再開するのをやめ、泥棒を再開するのをやめ、自殺志願者は自殺を再開するのをやめ、再びあの世に向かおうとしていた魂はやっぱりUターンして再び中継にかじりついたのであった。

村へ

 さて、この異星人の男に誘われるがままに彼らの村に泊まることになったペリーだが、それでも一抹の不安は消えなかった。思わずうなずいてしまったものの彼らに宇宙船のメンテナンスなんかさせてよかったのだろうか。村に泊まるのはいい。しかし彼らの食事なんか口にしたこともない。腹でも下したら、いや、命に関わる事態になったらどうなると考え、結局ペリーは宇宙船に食料を取りに行くことにした。ペリーは口頭で男にそう伝えると男は相変わらずニッコリとしながら、「いいべさ、オラ達ここでおめえを待ってるべさ」と言った。
 ペリーはゴワゴワする宇宙服に足を取られ転びそうになりながらも、どうにか宇宙船までたどり着くと、早速中に入って当座の分の食料を持って男の元に戻った。男はいつの間にか透明な絨毯みたいな乗り物に乗っていて、ペリーを見つけるなり、手をなんども振り早く乗り物に乗るようせがんだ。ペリーはその乗り物の形状に驚いたが、男が早く早くと相変わらず急かしていたので慌てて乗り物に乗り込んだ。すると乗り物は耳鳴りのような妙な音を発して浮かび走り出した。
 乗り物が走り出すと異星人の男は乗り物を運転しながらペリーをチラチラと見、呆れたような表情を浮かべてこう言った。
「すかす、えらい動きにくそうな格好だべさ。地球人はみんなそんな格好すてるのか?」
 ペリーは男の自分を小馬鹿にした態度に少し頭に来て「そんなわけないでしょう!これは宇宙服ですよ!」と言ったが男は相変わらずの表情で「はぁ、地球人は宇宙に旅行するのにわざわざそんな暑っ苦しい格好するだべか!」と言って再び前を向いた。ペリーは村までつく間、今乗っているこの絨毯式の乗り物について考えながら、もしかしたらこの惑星の文明レベルは地球よりも遥かに進んでいるのではと考えた。この男に惑星ボストンについて聞きたいことは山程ある。しかしそれは村についてからじっくり聞けばよい。彼はそう考えて村までの到着を待った。
 しばらくすると前方に建物らしき影が見えてきた。あれが村なのだろうか。ペリーはさっきまで真上にあった恒星がいつのまにか遠くの山に隠れようとしていることに気づいた。彼はもう夕方なのかとびっくりし、急に視界が暗くなってきたのを感じたのでヘルメットの光反転装置を調整すると、研究者らしくこの惑星の回転について考えはじめた。そうしているうちに乗り物は建物らしき影に向かって進み、見るとその影がやはり建物であることが認識できた。そしてさらに進んでいくと前方に小さな集落が現れたのだ。

村の全貌

 それを見た瞬間ペリーは興奮のあまり思わずあっと声を上げ、そして宇宙ステーションの面々もガッツポーズを取り、マスクをとり思いっきりキスとハグを交わした。そして地球の人々も絶叫し、やっぱり仕事を休んで良かったと思い、やっぱり学校を休んで良かったと思い、やっぱり争い事を休んで良かったと思い、やっぱり泥棒を休んで良かったと思い、自殺志願者はやっぱり自殺を休んで良かったと思い、病人の体に戻った魂もやっぱりあの世に行かなくてよかったと思い、全世界中がこの出来事に大熱狂したのであった。
 村に着いた途端、宇宙服姿のペリーは村の住民から猛烈な大歓迎をうけた。みなペリーに近づいて先程の異星人と同じような電子機器を取り出して彼に向けていた。おそらくこれは地球でいうフューチャーフォンみたいなものだろう。カメラもメールもインターネットも出来る未来の携帯のようなものだろう。村人たちははペリーに気さくに近づき、何故か彼にヤリをもたせたり、彼に向かってウキー!と猿の真似事なんかをしていた。村の人々は皆彼が出会った異星人と同じような田舎の土百姓みたいな格好をしている。女もいたが彼女たちも同じような格好だった。皆地球の人間でいうなら40~45歳ぐらいで不思議なことに若者はいなかった。しかし村の住民はみなルックスがよく、彼らが若かった頃はさぞかし美形であったのだろうと思わせるものがあった。
 それから異星人は宇宙服姿のペリーを連れ立って彼の住む住居へと道案内をしたのだが、その道中ペリーは村の様子を隈なく見ることができた。この村は茶色いドーム型の建物が通りの両側に点々と建っているが、人工的な感じがまったくなく、周りの緑と自然と調和していた。八百屋なのだろうか、建物の前にテントを建てて、鮮やかな野菜や果物を置いてあるのが度々見受けられた。ペリーはヘルメット越しに見える、その新鮮そうな食物を見て思わずよだれを垂らしそうになったが、とはいえここは地球ではない、美味しそうだといって変なものを食べたら命が危ない、と厳しく自分に喝を入れ食物から目をそむけた。そうしてペリーは村を見物しながら歩いていたが、ここでも若者に出会うことはなかった。通りを歩いているのはみなこの異星人と同じ年頃の中年かもしくは老人ばかりだ。彼はもしかしたら奥にいるはずと首を伸ばして自分と同じ年頃の若者を、特に女性を探したが結局見つけることができなかった。ペリーは若者を探すのをやめ、正面に向こうとしたが、その時自分をまじまじと見つめていた異星人の視線とかち合った。異星人は彼の顔を見てニヤニヤ笑っているようにみえた。異星人は慌てたようにペリーから目を離すと先へと進み、やがて通りの先にある一軒の家を指して「オラの家はあそこだべ!」と言った。野原の上に家がポツンとある。本当にこの村はオレゴン州に似ているとペリーは思った。


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