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意外な人と意外なとこで再会した

 私は大学時代よく合コンに行っていた。その中で交際まで行った人もいるし、その場限りで終わった人もいた。なかには交際まで行きかけて結局付き合わなかったひともいる。その交際寸前で別れた人の中で何故か忘れられない人が一人いる。その人は他の男の人とちょっと変わってて文化的というか現代アートとか映画とかそんなものが好きな人だった。話もなんか抽象的で君の白いキャンパスには何も描かない方がいい結局は白こそ至高の美なんだからとかそんなような事を言っていた。

 合コンで彼と最初に見た時私はちょっと陰りのあるルックスに惹かれた。私はそれまでバカなやつとばかり付き合ってきたのでもう少しまともな人付き合いたいと思っていたから彼が声をかけてきた時積極的に応対した。まず二人の通っている大学を紹介したけど、私は彼がいわゆる国立の一流大学にいる事を知って驚くと同時にラッキーと喜んだ。だけど私の通っている女子大は三流中の三流で大学名聞いてちょっと引いたかなと彼の反応を伺ったら特に引いた様子はなく、笑顔でそこ地元の中学の同級生の子が通ってるよなんて教えてくれた。私はこの思わぬ反応に嬉しくなって思わず今住んでいる大学の寮の事を話した。

「あのボロい寮の付近に下着泥棒出るんだよねぇ。ルームメイトもみんなキモがってる。寮も管理人のお爺さんだけでセコムとか全然入れないんだよ。本当はあんなボロ寮出て行ってアパート借りたいんだけど実家がお金出してくれないからさぁ」

「それって目黒にある寮だよね。さっき話した中学の友達からも同じこと聞いたよ。管理人の爺さんがボケすぎて裏門どころか正門の鍵までかけ忘れるとかね。俺それ聞いて友達が心配になったよ。下着程度だったらまだマシだけど身に危害とかあったらやばいよね」

「あの、話の腰折って申し訳ないけど私結構下着盗まれまくってんのよ。この間買った高い下着なんか履いた翌日に盗まれちゃったし、田舎の両親は身の安全だとか言って私を寮に入れたんだけどこれじゃ身の安全に全くなってねえって!」

 私の話を聞いて彼は真面目な顔で謝って心配そうな顔でじゃあ乾燥機付きの洗濯機買ったらと言った。私は彼の真面目な顔を見て半分冗談でした話が思いがけなくまともにとられてしまった事と思って慌てて彼に気を遣わせちゃってごめん。あまり本気にしないでと安心させるために微笑みながら言った。彼はそれを聞いて安心したのか表情を崩すとでも乾燥機付きの洗濯機は必要だよなと言った。

「でも多分それ無理なんだよ。うちの寮は肝心なところはグダグダなのに変な決まり事だけはしっかりしてて、洗濯機は各部屋につけられているものを使うこと。私物の洗濯機を置くことは不可ってハッキリ規則に書いているからダメだよ」

 と彼に説明した。彼はそれを聞いて残念だなと私を心配そうな目で見た。私はその彼の表情に胸がキュンとするものを感じて自分から私と付き合わないかと告白した。

 だけどそれ以降がダメだった。二人の価値観があまりに違いすぎて話が合わなかった。彼は私みたいにテレビドラマもネットドラマも見ない人だし、アニメやお笑いにも全く興味がなかった。彼の好きなものはもっぱら映画や本で彼はデート中に本屋に寄ると目の前棚に入っている本から自分のおすすめの本を指差していろいろと本の読みどころを教えてくれたけどそれらの本は難しすぎるように思え、その中ね英語の本は私に読めるはずもなく、とても読む気になれなかった。

 彼とは映画に一度行ったことがある。ある日彼がこれはカンヌで銀獅子賞取った名作だと言って『白き心』というヒットラーに心酔した少女たちの悲劇を描いたドイツ映画が上映されているから観に行こうと観ようと勧めてきた。私はその映画も本と同じように全く興味が持てず、だけど彼を悲しませたらいけないと思ってたらから仕方なしに一緒に映画を観たけどやっぱり訳がわからずとにかくいかにもドイツ的な暗い映画だという印象しか残らなかった。彼は見終わった後その私に向かって映画がどれだけ素晴らしかったか私に語り倒した。

「あの白い心を持った少女はその心のままにヒットラーに殉じたんだ。あのヒットラーとともにベルリンで集団自決する少女達のラストシーンなんか涙無くして見られなかったね。少女たちがだんだん光で見えなくなってただの白い画面になるあのラストはさ、確実に映画史に残るんじゃないかな」


 結局私と彼の関係は続かずそれからしばらくして自然と合わなくなった。きっと彼も私と会わないと感じていたんだろう。しかし私は彼と意外な所で突然の再会をした。

 ある朝たまたまテレビを見たらそこにしょぼくれたスーツ姿の男の人が出ていた。男は両手に手錠をはめられて両腕を警官に掴まれながらパトカーに乗せられていた。私はこの男の顔を見た瞬間あっと思わず声を上げた。この男はあのインテリの彼ではないか。あんな真面目な人が何故警官に捕まっているのか。国立大だから官僚にでもなって背任か何かで捕まったのか。そう考えていたら下に罪状が載ったテロップが流れた。

『〇〇〇〇容疑者女性下着の窃盗の容疑で逮捕。どうやら容疑者は大学時代から目黒の某女子大の寮を中心に目黒区一帯で十年近くにわたって下着を盗んでいた模様』

 その後にキャスターが容疑者は特に白い下着を好んで盗んでいたと語っていた。私はあんまりの事態に頭が追いつかず、今私に何が起こっているのか解明しようと慌てて記憶の中から彼に下着泥棒の話をした事を思い出してあっとなった。私は怒りのあまりリモコンを投げつけてテレビに向かって叫んだ。

「お前あの時どの面下げて善人ぶっていたんだよ!全部お前がやったんじゃねえか!」

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