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ロキノン系 vs ヴィジュアル系

 今まで何度か話しているがRain dropsは文系でよわっちそうに見えるが実はとても強いバンドだ。前にも話したように彼らは脅してきたヒップホップグループや腕っ節を自慢するバカアイドルを悉く叩きのめした。だけど身の程知らずの連中は相変わらずRain dropsを文系のもやしバンドとバカにして雑誌のインタビューや実際にライブですれ違った時などやたらに挑発する連中は後を経たなかった。流石のRain dropsもそんなバカどもをいちいち相手にしていられず、またその連中もRain dropsをバカにしているうちにいつのまにか業界から消えてしまっていた。

 しかし1グループだけとんでもなく執念深いバンドがいた。そのバンドはなんと三年にわたってRain dropsをディスり続けていたのだ。そのバンドはrain bloodとかいういわゆるビジュアル系でRain dropsとほぼ同時期にデビューしたバンドだけど、所詮ビジュアル系だからRain dropsのようにロキノンには載れず、それが悔しかったのかここぞとばかりにRain dropsをディスっていた。ビジュアル系の雑誌のインタビューでもRain dropsを童貞が聴くものとバカにし、さらにフェスでもトリを務めるRain dropsを思いっきりディスった。

「皆さぁ〜ん。僕たちあなたたちの大嫌いなビジュアル系のrain bloodで〜す!皆さんはRain dropsみたいな童貞バンドが好きなんですか?ごめんなさいねぇお邪魔しちゃって。まぁ、ハッキリ言ってあれですよ。ロックはテメエらみてえなロキノン系のクソみてえな連中のためにあるんじゃねえんだよ!じゃあ歌います。『死刑台のマリー!』」

 偶然彼らのステージを見ていた照山はこの発言に大激怒した。自分たちの悪口を言うのは別に構わない。ただそれを神聖なロキノンアーチストが集まるフェスで言うのは何事かと思ったのだ。彼にとってフェスは聖地に等しいものだ。それをこのビジュアル系のバカは冒涜したのだ。Rain dropsはそのあとのライブでファンに向かってフェスの崇高さを語り、その少年性に満ちた演奏でフェスとはなんたるかを知らしめた。そして感動のライブが終わると真っ直ぐrain bloodの楽屋に駆け込んだ。

 rain bloodの面々はRain dropsがノックもせずいきなり入ってきたのにびっくりして一番前にいる照山を見た。照山はためらうことなくまっすぐrain bloodのボーカル響に近寄っていきなり怒鳴った。知っての通り我らがRain dropsはめったやたらに人を殴るようなバンドではない。怒ったからと言って平気で人を殴ったりしない。だから今日は徹底的に説教してこの腐った化粧をしたビジュアル系バンドを更生させるためにきたのだ。

 照山は熱い眼差しでrain bloodの連中に向かって説教をした。髪を振り乱しいかに彼らの人間性が腐っているかを指摘した。君たちはまともな人間だろ?なのになぜそんなバカバカしい化粧をするんだ。君たちは女の子に持てるとかいうくだらない理由で化粧なんてしているんだろうが、世界にはジェンダーの悩みで苦しんでいる人がたくさんいるんだ。君たちのやっていることはそういう人たちを意図せずともばかにしているんだ。rain bloodの連中は最初のうちはこの照山の説教を嘲笑していたが、そのうちに照山が熱い目を光らせ、机をどんどん叩きながら激しく責める言葉に打たれとうとう泣き出してしまった。そして彼らは照山に向かって正直に自分たちがRain dropsに嫉妬していたこと。それから自分たちの素顔がブサイクすぎて化粧しなければとても見せられるようなものではないこと。最後にボーカルの響がウィッグを外し実はカツラだということを告白して泣いた。本当の俺たちがブサイクでしかもハゲだなんてとてもファンには言えない。そんなことしたらファンは裏切られたと言って俺達から離れていってしまうと。響の話を最後まで聞いていた照山はそんな彼らを笑わずこう言って励ました。

「君たちはいつもそうやって自分から逃げてきたんだね。安心しろよ。君たちのファンはそんなことで離れたりしない。逆に正直に話してくれてありがとうって言ってくれるさ。さあ、恥ずかしいとこも。みっともないことも全部見せちゃえよ。そんなくだらない化粧で隠さないでさ」

 この言葉がきっかけでビジュアル系バンドrain bloodは生まれ変わった。もうは化粧なんてやめた。俺たちは恥ずかしいところも全て晒してやるぜ!と言ってハゲを晒したロキノン系に路線変更した。彼らは念願のロキノンに初登場したが、それからどうなったかは知らない。


 さてフェスから半年後である。少し長いオフをとったRain dropsの面々は新曲のために久しぶりにスタジオに集合することになった。照山はメンバーを見て変わってないなと口にしようとしたが、見るとドラマーの家山がすっかりデブっているではないか。照山は家山にどういうことなんだと聞いのだが、家山はその照山に笑いながらいうではないか。

「いやぁ~、ハワイでステーキ山程食ってたら肥えちまってさあ~。空港でもみんなRain dropsのドラマーだって信じてくれねえんだもん。まいったよぉ~!」

 この豚の家山を見て照山は烈火のごとく怒った。

「バカヤロー!僕たちはRain dropsだぞ!いつまでも少年の心でロックするバンドじゃないか!それがデブだって!そんなみっともない中年体型のやつがいたらファンはみんな裏切られたって泣いちゃうじゃないか!もうリハは終わりだ!家山!今からダイエットしてこい!」

「おまえ、半年前みっともないとこも全部晒してしまえってあのビジュアル系のバンドに言ってたよな……」

「うるさい!それとこれとは別だ!僕たちはあんなカスみたいなバンドとは違う本物のロックバンドなんだ!いつまでも少年のままでいなくちゃならないんだ!デブは断食、ハゲたら即首だ!他のメンバーも覚悟しろ!僕は本気で言ってるんだからな!」


 照山はメンバーにこう説教したが、この時、後にこの言葉がブーメランのように自分に向かって突き刺さってくるとは思わなかった。



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