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脳内会議

 一人の人間の中には無数の性格があり、人格とはその統合体である。それが今の精神分析の常識となっている。と今書いているが、これは私のたった今閃いた思いつきでしかないので真面目に捉えて、ねぇ、人間って沢山性格があってそれが集まったのが人格なんだよってドア顔で吹聴しないでほしい。後で出鱈目だらけと批判されても困る。だがこの思いつきは以下の物語では重要とある。さぁ始めようか。

 赤みがかった濡れて皺だらけのカーテンが開き、全脳から選ばれし性格議員たちが一斉に自席から立ち上がった。長年怠惰を貪っていたこの性格議員たちは久しぶりの脳内議会の開催にあくびをしたり、背を伸ばしたり、隣の性格とくっちゃべっていたりした。その性格議員たちに向かって性格議長の性格が脳髄のトンカチで机を叩き「静粛に!」と注意した。だが議場の性格議員は性格議長に向かって一斉にヤジを浴びせた。

「なんで今回はお前が議長なんだよ!前のやる気のあった議長はどうなったんだよ!」

「お前なんかに脳内議会がまとめられるわけねぇだろさっさと辞職しろ!」

 この無責任なヤジに議長は怒った。

やる気のある性格議員がみんな死んだからに決まっているじゃねえか!俺だって議長なんかやりたくないよ!でもお前らがあまりにもやる気がなさすぎるから俺が議長にならなきゃいけないハメになったんだよ!しかもこんな緊急事態に!」

 確かに緊急事態だった。彼らが動かし支える人間は先日めでたく無職になり、親に世話されて自堕落な毎日を送っていたが、とうとう金入れない奴は出ていけと通告されたのだ。これは人間の危機であり、当然人間を支える脳の危機であった。この数年間怠惰を貪っているうちにやる気のある性格はことごとく死に、まともなのは見せかけのやる気や、とりあえずのやる気を持つものだけとなった。その他は怠惰も怠惰、怠惰マシーンと言ってふざけてる奴しか居なくなった。その中でも議長はとりあえずのやる気の中でも一番やる気のある性格で普段から明るくやる気を出そうぜと振る舞っていた。

「とりあえず俺は脳から脳髄を託されたんだ。議会をぶち壊したら全員カニ味噌にしてやるぞ!」

 だからといって性格議長に脳内議会の決定権はなかった。彼には脳内議会を運営する権利しか与えられていなかったのである。彼は新人性格議長として懸命に頑張った。この非常事態を人間にどう乗り越えさせるか必死に議員に問うた。だがしかし性格議員たちは議長の要求自体、馬鹿げたものとして突っぱねた。どうせダメになるんならダメでいいじゃん。ある議員はこのまま生活保護に入りましょと提案した。議長はこのあまりにバカげた性格議員の提案に大激怒した。

「テメエ、生活保護の審査がどんだけ厳しいかわかってんのか?他人から見たらこの俺たちの人間が生活保護に入れるぐらい追い詰められるか考えろよ!全然追い詰められていねえじゃねえか。働けって言われて終わりだよ!」

 別の性格議員はじゃあ宝くじ買うかと言い出した。百枚買えばそこそこ当たるんじないかと。このあまりにお花畑満載の提案を聞いてさっき以上に怒った。

「お前ら夢見てんじゃねえ〜!」

 この小田原評定を思わせるような悲劇的で痛ましい脳内会議は一日続いたが、議員たちの動かし支える人間が眠りたいとあくびしてきたので結局何も決められぬまま議会は閉会した。

 さてその翌日である。脳たちの動かし支える人間はお昼過ぎに目覚めた。

「ふわぁ〜。昨日はボクちんいやな夢見たなぁ。パパとママホントにボクちん追い出すのかなぁ。まぁ今日になったら忘れてるだろうしもう一回寝よ」



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