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株主総会
日本を代表する企業〇〇商事は今必死で来月の株主総会の作成していた。今回の株主総会は取締役の連中にとっては絶対に乗り越えねばならない山場であった。去年に引き続いての赤字。去年代表取締役をはじめとした株主は揃ってどげさをして来年は必ず黒字にすると誓った。しかし業績は取締役の連中の思った通りにならず、それどころか不祥事が頻発して起こり、もはや取締役の一斉退陣は避けられない事態だった。だが、この命ある限り自分の地位にしがみつきたい蝉のような取締役の連中は絶対に辞める気はなかった。とはいえ総会で株主たちは絶対に自分たちの退陣を訴えるだろう。そうなったらどうすれば良いのか。彼らは考えに考えた。とはいえ彼らには蝉程度の頭しかなかったから考えても首にならぬ方法など思いつく訳がない。彼らは各々の部下に向かってどうやったら株主を黙らせられるか考えろと怒鳴りつけた。だが、部下は部下で蝉の蛹みたいな奴らばかりだったのでやっぱり何も思いつかなかった。
このままだと自分たちは確実に首になる。自分たちに引退なんてあり得ない。やっと掴んだ利権を絶対に手放したりしない。そんな強い思いを抱えた取締役たちは迫り来る現実に怯え切った。もう少しで株主総会が来る。そんなある日彼らの部下の一人が社内に演劇の台本を書いている男がいることを教えたのだ。部下の話によるとその男は群像劇をよく書いていて特に討論の場面が上手いという。さらにこの男はある芝居の台本が評論家に評価されて賞まで貰っているらしい。それを聞いた取締役の連中はこの男に今度の株主総会の台本を書いてもらおうと思うよりも早く決意し、早速その脚本家の男を呼び出したのであった。それからしばらくして長髪の男がノックもせずにカジュアルな格好にポケットに手を突っ込んだまま取締役室に入ってきた。取締役の連中はこの無作法ぶりに呆れ果てた。脚本家の男は長髪を振り乱してなんのようですか?と気だるそうな顔で聞いた。
「何がなんのようだ!ようがあるから君は今ここにきてるんだろうが!」
「あっ、俺にクビを通告するってことですか?いいっすよ。もうコロナも終わったしこれからは演劇一本でやれそうだから。後ドラマの脚本の話ももらっているからね。紙とペン下さいよ。今から退職届書きますから」
脚本家はこういうとサッと踵を返して部屋を立ち去ろうとした。その脚本家の立ち去る背中をを見て取締役の連中は一斉に彼に縋りついた。取締役の連中は泣きながら脚本家に訴えた。
「このままじゃ六月の株主総会で自分たちはクビだ。そうならないために君に私たちを救ってくれる株主総会の台本を書いて欲しいんだ!」
これを聞いて脚本家は鼻で笑った。
「そんなの俺には知ったこっちゃない話だ。じゃあ退職届書きに家に帰りますよ」
だが取締役の連中は脚本家に縋りついたままこう言った。
「君の好きなように書いていいから!僕たちは君の思うがままに演じるから!お願いだから書いてくれよ!全ての株主に会社が赤字だってことを忘れさせる素敵な台本を!」
脚本家は君の好きな通りに書いていいという言葉を聞いて取締役を見た。
「本当にいいんですね。俺の好きなように台本を書いて」
その通りだと取締役の連中は答えた。
「だから株主の連中に会社が赤字で大変だって事を忘れさせるぐらいの素敵な株主総会の台本書いてくれよ」
「俺やりますよ。俺の台本で株主なんて株にしか目がない連中を泣かせてやりますよ」
さて六月の第四週に株主総会は開かれた。次回がパワーポイントを開くといきなり女性のナレーションが取締役を詰った。
「このろくでなし!あなたたちがしっかりしないから会社は赤字なんじゃない!あなたたちの力はそんなものなの?もっと本気になって赤字から抜け出すことを考えてよ!」
取締役は連中はナレーションの声に激しく泣き「だけど僕たちにはそんな力はない!」とか喚き出した。するとまた司会がパワーポイントのスライドをめくりそれと同時にナレーションが今度は取締役に激しい一喝を浴びせた。
「バカ!みんなあなたたちが赤字を解消してくれるって信じているのよ!そのあなたたちがみんなを裏切っていいと思うの?どうして黒字にするまで取締役を辞めないって言ってくれないのよ!ねぇみんなに誓って!僕たちは黒字になるまで取締役を辞めないって!」
「誓うよ!僕たちは黒字になるまで絶対に取締役を辞めない!」
株主たちはこのあり得ないぐらいの三文芝居をあくびをしながら観ていた。最後に取締役の信任投票が行われたが、勿論全員落選であった。
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