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意識の高い女の一週間 木曜日

さて今日は木曜日なのである。昨日の記事で私はパートナーに向かって私とのセックスについて意見なり希望なりをまとめてレポートを今日までに書いてこいと書いたけれど、驚く事に期限日になっても書いてこない。LINEで早くレポートをあげるよう催促しても既読がつくけど返信もない有様だ。やはり彼は私を愛していないのだろうか。意識の高い私だったら愛する人間に一万文字以上の愛の言葉を捧げるのに。やっぱり彼の今までの男と同じなのだろうか。女を快楽の道具としてしか見ず、飽きたらすぐに捨ててしまう。不誠実極まりない男達。みんな意識の高い私がこうセックスに対して議論しようと提案すると、すぐに私の元から去ってしまう。彼だけは違うと思っていたのに。しかしこんな事でいつまでも悩んでいてはしょうがない。すべてはなるようにしかならないのだから。ここで昨日の話は終わりだ。今日には今日の風しか吹かないので今日の話しをしよう。

さっきはいつまでもクヨクヨ悩まないと書いたけど、正直に言って私はかなりメンタルをやられている。自分の意識の高さがパートナーにすら理解されないという事実を突きつけられ、私はやっぱり日本は意識の低さが跋扈する国なんだと思い知った。しかしこんなときだからこそ意識を高く持たなければならないのだ。意識の頂上で透き通るような空気を吸うために。というわけで私はこんな風に気分の落ち込んだ時は、すべてを発散するためにいつもよりもアクティブに動いている。私はお酒は程々に、タバコはノーセンキュー、食事は意識を高くお腹八分目だ。そのせいかお見せできないのが残念なくらいの美ボディだ。落ち込んだからといって決してアルコールに逃げず、タバコに手を出さず、やけ食いなどせず、意識の高さを決して下げない。そんな私がすべてを発散するためにアクティブにしていることは何か。それはマラソンだ。何だそんなことかと人は言うかも知れない。しかしマラソンこそ意識を高めるのにうってつけの方法なのだ。私は今日朝起きてシャワーを浴びてスーツをボストンバッグにしまい込むとランニングウェアで玄関から駆け出した。エレベーターに載っている間もランニングを欠かさない。そしマンションから飛び出すと隣を電車と壮絶なレースだ。多くの人々を乗せて走る電車はいわば世間だ。そして私はその世間に負けるものかと意識を高くして走る。しかし電車はその猛スピードで私を軽く追い越してしまった。だけど私は負けない。きっといつかはあの電車を追い越してみせる。電車に乗っていた乗客は私の勇姿を見てどう思っただろうか。意識の高さを靡かせて恥じる独りの意識の高い自立した女。拍手をしてくれとは言わないけど、心の中で讃えてほしい。私はそのまま走って会社に着いてスーツに着替えてオフィスに入ったのだが、そのときみんなが大声で何か話しているのを聞いた。

「あの、朝電車乗ってたらすげえものみてさ」

「ああ、俺も見た。なんかはちまきにゼッケンつけた女が電車の横を猛スピードで走ってるんだよ。あれなんだったんだ」

「私も見た。なんかヤバイよね」

意識の高さを人にわかって貰うのはとても大変なことだとよくわかった木曜日だった。


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