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note独占!Rain drops照山衝撃の告白「あの事件の真相をすべてお話します!」

 先日ニ度(正確に言えば三度だが)にわたる大事件を起こして、今現在活動停止中の人気ロックバンドRain dropsのリーダー照山氏にインタビューしてきた。Rain dropsの照山氏が起こした事件は今更ここで語るまでもないほど有名だが、一応Rain dropsを知らない読者に事件を説明すると、Rain dropsは熱狂的なファンに支持されるカリスマロックバンドで、東京ドームでライブを行ったが、そのアンコール中ハプニングでボーカルの照山氏のカツラが飛んでしまった。しばらく経って照山氏はその事件の釈明会見を開いたがそこでもカツラが取れてしまい、そして禊は済んだと二年後に同じ東京ドームで復活ライブをしたが、そのアンコール中にまたしてもカツラが飛んでしまったという事件である。

 正直に言って照山氏が私の取材を受けてくれるとは思わなかった。なぜなら私は照山氏の二度にわたる釈明会見で、明らかに禿げなのに、円形脱毛症だと嘘をついて逃げようとする氏を最も禿げしく糺弾した人間だからだ。SNSなどの媒体でもRain dropsファンの私への罵倒が飛び交っていたのを記憶している。そんな人間の取材を受けるなんてどういう心境の変化があったのだろうか。私は照山氏が現在住んでいるという地方都市へと向かった。

 取材場所の照山氏の自宅に着くと氏が出迎えてくれた。現在照山氏はこの家で両親と一緒に住んでいるという。あの事件以降マスコミが大挙して氏の住居を囲んだせいで精神的に追い詰められて東京を脱出したそうだ。なんでもあの二度にわたる事件の後15キロ以上痩せたらしい。その照山氏を見てやはりあの事件は氏にとって絶え間ない苦痛を与えたのだと察せられた。照山氏は室内なのに帽子を目深に被っていた。こうして頭の上半分をすっぽり覆った照山氏を見るとまだあどけない少年っぽさが感じられ、あの二度にわたるステージでの恥晒しのハゲ晒しをして、それにも関わらず円形脱毛症だと言い張った人間とは別人に見える。しかしよく考えてみれば照山氏はまだ二十代だ。その若い照山氏がなぜあんなにハゲ散らかすようになったのか。私はそれらの疑問を全て氏にぶつけるためにレコーダーのスィッチを押した。

「こんな遠くまでわざわざ来てくれてありがとうございます。今日はもう全てを話すつもりです。なんでも聞いてください」

 と開口一番照山氏はこう言った。私はその殊勝な態度に今まで氏を責めていた事を少し反省した。しかし私はためらいを振り切ってズバリ本題から入った。

「照山さん、なんであなたは今までハゲだって隠してたんですか?」

「隠してたわけじゃありません。言えなかっただけです」

「言えなかっただけ?でもあなたカツラでずっと隠してたじゃないですか。ステージで二回、記者会見で一回、合計三回もカツラバレしてるんですよ。それでも隠してないなんて言えるんですか?」

 私が記者会見の席のように少しキツく問いただすと照山氏は口籠もり俯いてしまった。それから氏はしばらく黙って考えていたようだが、しばらくすると顔を上げて口を開いた。

「たしかに世間には僕が悲しい病を隠していたように写るでしょう。だけど僕はあの病はいずれ治癒されるものだと思っていました。いずれ緑は蘇り再び太陽を浴びながら街を闊歩できると信じていました。だからその日が来るまで髪を労っていただけです。街路樹だって冬になれば葉が傷まないように藁で覆うじゃないですか。僕も同じようにカツラで自らの髪を守っていただけです」

 私はこの手の文学的修辞に騙される人間ではない。さっさと本題に帰ろうと私は単刀直入に照山氏がいつ頃からハゲ出したのか聞いた。

「多分、アルバムの『少年B』の全国ツアーが終わったあたりだと思います。あの頃はシングルの『少年だった』が大ヒットしてバンドの環境も目まぐるしく変わっていました。バンドがあまりに急激にブレイクして、僕らはテレビとか雑誌に引っ張りだこになって休息時間が全く取れなかったのです。さらにレコード会社からのプレッシャーもありました。会社は早く新曲かけとやたらに僕にせっついてきたのです。そのせいで当時付き合っていた女優のMRとも別れざるを得ませんでした。彼女は別れるときLINEで僕に別れのメッセージを送ってくれました。『あなただけはいつまでも清らかな少年でいて。結局あなたとは手さえ握らなかったけど、全てはいい思い出よ』その彼女のLINEを読んで僕は思いっきり泣きました。泣きながら全ての悲しみが抜ける事を願いました。そうしたら悲しみじゃなくて髪が抜けてしまったんです」

 照山氏はここで一旦話を止めて苦痛に満ちた表情でこちらを見た。その顔からはもはや少年の面影は感じられない。ただ実年齢より老け過ぎた男の顔があるだけだ。

「それから僕とこの不治の病との激しい戦いが始まりました。あらゆる育毛剤を試したり、外国に行って専門の医者を探したり、いろんな事をして治療法を模索しましたが、結局全て無駄に終わりました。その葛藤は全て曲に書いていますからここであえていわなくてもいいと思います」

 照山氏は私の問いに驚くほど誠実に語ってくれた。話に出てきた女優MRは誰でも知っている有名女優で、氏の口から彼女の名前が出た瞬間私は驚いて思わず照山氏の帽子を被った頭の上半分を凝視したものだ。しかし彼とMRにはどうやら肉体関係はなかったらしい。私は彼に向かってとある噂の真偽を確かめたかったが、それは取材とは別の話になるのでやめた。さてプレッシャーや失恋によって禿げ上がってしまった照山氏はどうやって世間を欺いたのだろうか。私は照山氏に向かってカツラのことを聞いた。

「結局僕の髪は戻る事はありませんでした。僕は朝起きて毎日自分の病に犯された額を見ていましたが、自分の額を照らす日射が日を経るごとに広がっているのを見て絶望的な気分になりました。そんな事に耐えられなくなった僕は海外のAmazonからメチャクチャ評判のいいカツラを買う事にしたのです。そのカツラはボンドでつけても空気の通りが良いと評判のカツラでした。僕はカツラをつけてそのフィット感にびっくりしました。まるで髪が蘇った。そんな気さえしました。だけどなんであんな事に!」

 そこで照山氏は言葉を断ち切った。目の前の照山氏は苦痛のあまりもう話すことすら出来ないようだ。東京ドームのバンド結成十周年記念ライブのアンコールでのハゲ晒し。そのドームのライブのハゲ晒しの謝罪会見での二度目のハゲ晒し。そして止めはまたまた東京ドームで起こした復活ライブでの三度目のハゲ晒し。流石に私は世間周知のこれらの出来事をあらためて照山氏に聞く勇気はなかった。

 私は最後に照山氏に今どういう活動しているのかと聞いた。

「音楽はやってないですね。この一年ギターも触っていない。今は薄毛の専門医を紹介してもらって本格的な治療を受けています。それと僕はバンド時代からアマゾンの森林の保護活動をしてまして、時折大学教授の父が私費で発行している冊子に環境に関する文章書いたりしてます。アマゾンを放っておいたら大地は油まみれの草も生えない大地になってしまう。もう大地をほぐしても緑すら生えなくなってしまうという内容です。興味があったら読んでください」

 そう言うと照山氏は一冊の薄い冊子を私に私に渡してくれた。私は貰った冊子を眺めて、そこに細かく細い毛が何本かついているのが気になって氏にバレないように手で払った。取材が終わって照山氏は玄関まで私を見送ってくれた。私は別れ際に照山氏に向かってバンド活動を再開させる予定はあるのかと聞いた。照山氏は深く考え込んでから口を開いた。

「勿論ありますよ。この円形脱毛症が治れば!」

 照山氏はそう言うと顔を上げて何故か自信満々の表情で私を見た。私はこのハゲはまだ自分は円形脱毛症だと言い張っているのかと呆れ、思わず氏を指差して怒鳴りつけた。

「お前いい加減にしろよ!いつまで円形脱毛症とか言ってんだよ!いいか?お前は正真正銘のハゲなの!わかった?」


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