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人種差別、世界難民の日、そして日本の「今」を知るために観たい映画・ドラマ・漫画など

▼「BlackLivesMatter」に向き合う

アメリカ、ミネソタ州ミネアポリスで、黒人男性のジョージ・フロイドさんが警察官に膝で首を抑え付けられ、その後亡くなりました。この事件を発端に、抗議デモ「Black Lives Matter」が各地に広がり、日本でも連帯した抗議活動が行われました。これまでも繰り返されてきた差別に、私たちはどう向き合うべきなのでしょうか。

①ドラマ:「ボクらを見る目」(Netflix)

1989年、当時14〜16才の黒人とラティーノの少年5人が性暴力事件の冤罪で起訴され、6~13年の刑期が言い渡されます。真犯人が自白したのは2002年になってからでした。当時「死刑復活」の新聞広告まで出し、彼らの罪がいかに重いかを煽っていたのが、トランプ氏です。その時と大きく違うのは、彼が今、大統領だということ。

ドラマシリーズに加え、実際に冤罪で実刑判決を受けた5人がインタビューを受ける番組も収録されており、こちらも必見。

②ドキュメンタリー:「13th -憲法修正第13条-」(Netflix)

「僕らを見る目」を制作したエヴァ・デュヴァネイ氏が監督。アメリカ合衆国憲法修正第13条は、奴隷制を廃止し、禁止するとしているものの、「奴隷的拘束は禁止」は犯罪者には適用されない、という抜け穴があります。そうした構造的暴力を、歴史をたどりながら伝えるドキュメンタリーです。「麻薬戦争」の名目で、差別構造を利用してきた歴代大統領たちの存在や、収監される人が増えるほど儲かっていく刑務所管理会社との癒着、そんな生々しい現実が浮き彫りになります。

現在、全編がYouTubeで公開されています。

③映画:「ヘイト・ユー・ギブ」

黒人の女子高生、スターは、白人が圧倒的に多い高校で、「本当の自分」を隠し、「もう一人の自分」を演じながら日々を過ごしていました。けれどもある時、幼なじみを目の前で警官に射殺されてしまいます。映画では、高校生たちの何気ない会話の中にも、社会の矛盾と偏見が見え隠れすることがうかがえます。勇気をもってデモで声を張り上げても、パトカーのサイレンと喧騒の中でかき消されそうになり、無力感に押しつぶされそうになるスターですが、最後に少し、希望も見えてきます。そんなシーンが、絶望するのはまだ早い、と思わせてくれました。この映画に関しては後日、もっと長い原稿を書こうと思っています。

▼「世界難民の日」と、安全を求める人々

迫害や紛争、命の危険から逃れ、難民となった人々は、どんな道のりをたどってきたのか、そしてどのような支援が必要とされているのか、理解を深めるために制定されたのが6月20日、「世界難民の日」です。昨年発表された、世界の中で避難生活を続ける人々の人数は7000万人をこえ、過去最多となっています。

①映画:「娘は戦場で生まれた」(日本でも劇場公開中)

シリアが「戦場」と呼ばれるようになった2011年から9年。今も市民を犠牲にし続ける無差別攻撃は続き、内戦前の人口の半数以上が避難生活へと追いやられています。

これまで数々のシリアの映画を観させてもらい、どれも強く訴えかけるものばかりでした。ただ、最後まで女性たちの声が聴こえてこない、姿さえ見えないものも少なくなかったように思います。この映画は監督であるワアド氏が、一人の女性として、母として自身の生活と目まぐるしく変わる街の様子を撮り続けたものです。

容赦のない爆弾の雨にさらされ、昨日までの生活の場が一瞬で瓦礫と化す中、それでも彼女はささやかな喜びを積み重ね、記録してきました。プロポーズの言葉、妊娠が分かった日、変化していく体、そして、母になった瞬間…。子守唄を歌いながら、母子は爆撃のとどろく夜を越えていきます。

②ショートムービー:「Bawka」(パパ)

15分ほどの短い映像ではあるものの、初めて観たときの衝撃は忘れません。描かれているのはクルド人と思われる親子二人が、安全を求めてヨーロッパへと逃れていく道のりです。「パパ」の最後の決断は、何度繰り返し観ても、心の底から引き裂かれる思いになります。

映画の中ではフランスのサッカー選手、ジダンの写真が象徴的な存在として登場します。ジダン選手はアルジェリアの少数民族出身の両親を持つため、「北アフリカ移民の星」とも称されていました。「お前もきっと、こうなれる」。異国出身であっても、いつかはその国で活躍するまでになれるかもしれない、という父の願いはその後、届いたのでしょうか。

衝撃だったのは、この映画が作られたのは2005年ということです。15年の月日が経ち、世界はそれから、変わったのでしょうか。

③児童書:「明日をさがす旅 故郷を追われた子どもたち」

ナチスの手を逃れドイツからキューバへと渡ろうとしたヨーゼフ、自由を求めキューバからアメリカへ海を越えようとしたイザベル、内戦で国を追われシリアからドイツへと旅を続けるマフムード。違う時代に生きる子どもたちの人生が、「明日」をキーワードにして交わっていきます。3人は本来、学校に通い、親しい友人たちとふざけ合い、好きな音楽を楽しんでいた世代でしょう。

主人公たちが歩んだ道のりは、私たちが期待するような“ハッピーエンド”ばかりではありません。美談でもありません。それでも、時には自らを犠牲にして、誰かの明日を守った人々の姿がそこにはありました。

▼日本に生きる、様々なルーツの人々

「BlackLivesMatter」を掲げ、連日米国で抗議活動が続いていますが、日本でも連帯するデモが行われています。一方、「日本はそこまで酷い差別はないのでは」という声を耳にすることがあります。大切なのは「私の周りで差別を見たことがない」=「他の人のところにも存在しない」ではなく、気が付いていないだけで私の周りにもあるかもしれないし、他の場所でもあるかもしれない、という想像力ではないでしょうか。そのヒントをくれる作品を紹介します。

①ショートムービー:「私たちの知らない日本の入管の現実」

日本では、外国人の方々が無期限に入管施設に収容されてしまう現状があり、こうしたことが拷問にあたるとして、国連などから再三勧告を受けてきました。自身も収容された経験がある、ナイジェリア出身のエリザベス・アルオリオ・オブエザさんは、入管収容施設に17年間通い、収容者と面会して勇気づける活動を続けています。昨年6月、3年7カ月収容されていたナイジェリア人男性が長崎・大村の入管で亡くなりました。彼はなぜ、亡くなったのか…エリザベスさんの視点から見えてくる、入管や収容を巡る現実。10分の映像の中に、大切な投げかけがぎゅっと凝縮されています。

②漫画:「バクちゃん」

主人公は「バクの星」から移り住んできたバクちゃん。読み進めていくと、日本に暮らす移民や難民の方々のことを伝えているのだと分かります。柔らかく、時にはユーモラスにそれぞれのキャラクターを描きながらも、「まず身分を証明するものは?」「住所はどうやて得る?」「携帯電話はどう契約する?」「仕事は見つけられるの?」と「異国」で生きる人々の前にどんな壁が立ちはだかるのかもしっかり描いています。「二世」として日本に育つ若い世代の葛藤や、難民と思われるおばあちゃんの言葉には、思わずぎゅっと胸が締めつけられました。中高生にもおすすめです。

③音楽:ジャグラーちゃんへん.さんのラップ

ジャグラーのちゃんへん.さんの半生は、記事でも書かせてもらいました。「朝鮮人」であることで小学校で受けた壮絶ないじめ、「韓国籍を取りたい」というちゃんへん.さんに祖母が涙目で叫んだ言葉、そこから見えてきた戦争の理不尽さ、「結局、何人なの?」というカテゴライズに耐え兼ね飛び出したルーツを探る旅…。印象的だったのは、旭日旗を片手にヘイトデモに参加しようとする青年たちに声をかけたときの話です。「俺、朝鮮人なんやけど」と声をかけ、飲みに行き、「韓国料理、美味しい」という共通点が生まれたそう。その後その青年は、朝鮮半島を旅し、なんと一人は韓国に移住したのだといいます。

YouTubeにアップしているラップの中でも、祖父のことを歌った「Ghost Blues」は印象深い一曲です。10代で戦争に巻き込まれ、日本で生き抜いてきた祖父の言葉、その一つひとつが突き刺さります。

ちゃんへん.さんは『僕は挑戦人』(ホーム社)を8月に刊行する予定です。

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一部の切取られた言葉と数字だけでは、人の感情の揺れ動きまでは中々伝わりません。そこに想像力を及ばせてくれるのが、カルチャーの力なのだと思います。

新型コロナウイルスの影響で、その「カルチャー」が様々な危機に直面しています。こうして紹介してきたように、これまで映画、音楽、演劇などから得てきた学びや気づきの深さは計り知れません。さらなる公的支援を求めると同時に、文化芸術を共に支えたいと思います。


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