オノ・ヨーコさんって、どういう人?

(2020/12/14:一部内容に誤りがあったため追記しました)


ソニーミュージック六本木ミュージアムで開催中の、「DOUBLE FANTASY -John & Yoko」展に行って参りました。



展覧会は、ビートルズのメンバーであったジョン・レノンと、コンセプチュアル・アーティストとして活動していたオノ・ヨーコが、1966年に初めてロンドンのギャラリーで出会うところから始まります。

(※コンセプチュアル・アート:現代アートのひとつ。概念のアート、という意味。物理的な作品そのものではなく、その作品の内容(コンセプト)を重視する。言い換えれば、作品を生み出す「アイデア」こそが、その作品の本質になるということ)

それまで前衛芸術に懐疑的であったジョンが感銘を受けたという、ヨーコさんの作品『天井の絵』が展示されていました(写真中央)。これは、来場者が梯子を登り、虫眼鏡を使って天井のキャンバスを見ると、とても小さな字で「YES」と書いてある、という作品です。

(※写真撮影可)


私も、その白い梯子の前に佇んで、ジョンが「YES」という言葉を見つけた瞬間を想像してみました――

(何があるんだろう?
梯子を一番上まで登って、虫眼鏡で覗いてみると……
するとそこには
「YES」
私を肯定してくれる言葉がある!)

コンセプチュアル・アートで、ポジティブなメッセージを発信するものって、少ないと思うのです。むしろ、既存の価値観に揺さ振りをかけるものだから、他人を不安にさせる。だからこそ、「YES」という言葉に、意外性とともに安心感を覚えるのは、わかる気がしました。

そう、ヨーコさんの作品は、どれもポジティブなメッセージを持っています。「あなたがここに存在していること」それ自体に意味がある、というコンセプトを掲げた作品もありました。

(小さく「You are here」と書かれています)

※12/14追記:「You Are Here」は、1968年にロンドンのロバート・フレイザー画廊で開かれたジョン・レノンの個展でした。大変失礼いたしました。なお、この作品は、71年にニューヨークのエバーソン美術館で開かれたオノ・ヨーコの個展「This Is Not Here」にも出品されたそうです。展覧会名の「This Is Not Here」とは、観客が求める展覧会は会場にはなく、観客ひとりひとりの頭の中にあるのだという意味で、「You Are Here」と似たメッセージです。(飯村隆彦『ヨーコ・オノ 人と作品』水声社、2001)




ジョンが歌う「イマジン」のもとになった、ヨーコさんの『グレープフルーツ』(アート・ブック)も展示されていました。


いくつかのページに、「Imagine」から始まる短い文章が記されています。このフレーズが、あの「イマジン」にアイデアをもたらしたことは想像に難くありません。そして近年、ジョンの希望通り、「イマジン」の共作者として正式にヨーコさんの名前がクレジットされました。

なぜ発表当時はジョンの名前しかクレジットされていなかったかということについては、ジョン自ら語っています。曰く、「当時の僕は少々身勝手で男性優位なところがあって、彼女の貢献を見て見ぬ振りをした。実のところ、『グレープフルーツ』からそのまま拝借したんだ」……と。

私は、ジョンが、ヨーコさんとの長い対話の中で、男性優位のマインドを変えていったところも尊敬しています。「対等の立場でなければ、誰かを愛することはできない」とヨーコさんは言い、「完全に対等の関係でなければ、僕たちの関係は成立しなかった」とジョンは言います。

最近、日本では「選択的夫婦別姓制度」(※結婚後も夫婦がそれぞれ結婚前の姓を名乗ることを認める制度)の導入について話題になっていますが、ジョンとヨーコさんは、それぞれが互いの姓を加えるかたちで、「ジョン・オノ・レノン」、「ヨーコ・オノ・レノン」としています。まさに、対等。





私のように、ビートルズの文脈で「オノ・ヨーコ」という人に出会うと、初めは戸惑いを覚える方も多いのではないでしょうか。ジョンを、ビートルズの世界からもっと別の世界へ連れて行ってしまった人のような感じがするのです。でも、物事はずっと多面的。

展示会場に流れる音楽に身を任せながら、ふたりの言葉や作品に触れていると、だんだん、温かい気持ちになってきます。少しずつ、オノ・ヨーコという人がわかってくる気がします。

そして、展示室も終わりに差しかかる頃、頭の中にパッと明かりが灯るように、直感的に理解しました。
ヨーコさんには常に、発信したいことがあって、伝えたいことがあって、人々を巻き込んでやりたいことがあって、皆で考えていきたいことがあるのだ、ということ。そして、平和的な方法で平和を実現させるために、人々が対等に愛し合えることに気づくために、ヨーコさんは「芸術家」であるということ。

ヨーコさんがどういう人なのか、ようやく、私なりにわかったのです。
彼女の作品には、全て、愛と誠実さが込められています。言葉には、温かさがあります。

「芸術家」が、「芸術家」でなく「職人」であった時代は、もう昔のこと。線を引いたり色を塗ったりしているだけの時代は終わりです。今は、「芸術家」自身の人間性や思想や信条、社会との関わりが問われます。創造力と発信力のある人間として、言動に責任が伴います。でもそれは、決して特別なものではありません。私たちの誰もが、社会に生きるひとりの人間として負う責任と同じことです。




オノ・ヨーコ、ジョン・レノン。
平和へのポジティブなメッセージを発信してくれてありがとう。
対等な愛を示してくれてありがとう。


そして、ふたりに感謝するとともに、私も考え続けなくては、と思います。

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