見出し画像

月の導きが幸せにつながることを祈る

 その話しを聞いたとき、初めは冗談かと思った。というより、聞きたくなかった。

 けれど、冗談のままにもできなくて、聞こえない聞こえない、なんて戯けて言ってみたけれど、何が変わるわけでもなかった。

 それは、あまりの衝撃だった。

 ただ、その場ではすぐに話しもできず、追及することもできなかった。機会を、待つことにした。ゆっくり話しを聞きたかったし、向こうもそのつもりで伝えてくれていた。

 そうして、それは叶った。

 私としては理不尽な何かがあるのではないか、と勘繰っていたが、どうもそうではないらしい。

 わたくしごと、とも初めに言っていたのを思い出す。

 それはたしかにーーいくつかの不可解な点は見られるもののーー本人に関して言えば紛れもなく自分のための行動であった。

 話しを聞く中で、どうしてそうなったのか納得することができたし、夢に向かって歩んでいく背中を応援したい、という気持ちも湧いてきた。それは本当に、心の底からそう感じた。

 少しの間ではあったけれど、ゆっくり話すことができた。ことの経緯を知り、話しを終えた後、別れた。

 ひとりになりーー家路に向かう間に、何度も、何度も、反芻してはショックを受けた。純粋に、単純に、本当に、正直に、ショックだった。

 私の、心の支えだった。
 本当に本当に、ショックだった。

 応援したい気持ちも、幸せを願う気持ちも、それも本当の気持ち。けれど、それと反して「行かないで!」という抑えがたい衝動が心に穴を開け、すべて流れ出していくようにからっぽになってしまう。心が渇いて、どうしようもないくらい。延々とめぐりゆく。

 そんな、気持ちが、あった。

 しかし、ふと見えた月が、私の心とは対照的に、あまりに満ち満ちて、大きく、くっきりと空に浮かぶ姿を見て、何とも言えない気持ちになった。

 それはあまりに美しく、今の心地とは似つかわしくなかった。まるで私の心を埋め尽くそうとでもするように、悠然と佇んでいる。

 ちょうど話しを終えて、衝撃を受けている最中に見えたものだから、とても鮮烈にうつった。

 それは何を伝えているのだろう。

 それはきっと、相反しつつも心を満たして送り出そうとする、決意の表れ、なのか。
 それはきっと、私の衝撃を受けてからっぽになった心に安心を与えようとする、あの人の優しさ、なのか。

 あまりに印象的で、意味深な、暗示性を見出し、縁を感じる。

 空は何も語らず。それは何も語らず。

 偶然が支配する現象に、意図を作り出すのは愚かなことかもしれない。それでも、何かの言葉がそこに隠されており、未来へつながるものなのではなかろうか、と考えざるを得ない。

 まだ、この気持ちは整理できていない。整理よりも、衝撃のほうが大きい。

 それでも、言葉にすることで何か生まれるかもしれない。この出来事を糧として、よい表現につながるかもしれない。

 それに何より、言葉に残したかった。伝えたかった。

 少なくとも、この、今の、気持ち。

 この気持ちだけは忘れずに、大切に、残しておきたい、と思う。

 未来へ。その先へ。

 歩いていくために。

いつも、ありがとうございます。 何か少しでも、感じるものがありましたら幸いです。