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しゅわしゅわ

 杳として行方のわからなくなりそうな店内に、深い静寂が横たわっている。いつもの騒がしい様子も、今日は想像ができない。見える音もなく、ぐるり、と見渡していた視線を鎮め、彼の顔を見た。

 彼はそれに気がつくと、誰が見てもわかるような笑顔で応え、話しを始めた。彼の大きな口の動きに合わせて手も動く。それを受けて、こくり、と私は頷く。彼の口と手はなめらかな響きを持たせ、私はそれをひとつひとつ拾い集め、つなぎ合わせていきながら、言葉として飲みこんだ。

 話しに集中しているさなか、気がつけば店員が隣に立っていて、ワイングラスを目の前に置いた。おそらく彼が注文したのであろう。店員はていねいな動きで彼のほうにもグラスを置き終えると、ワインをーーいや、スパークリングワインを、注いだ。白に輝く細やかに浮かび上がる泡が、なみなみと注がれた水面まで辿りついては淡く溶けていく。いつまで見ていても飽きない、湯立つようにのぼっていく泡を眺めているうち、

 ふいに、あることを思い出した。この泡の音だ。

 彼が教えてくれた擬音の中でも、その伝え方と趣向の凝らしぶりが妙におかしくて、つい笑ってしまったものだ。私はそれを思い出して、思わず笑ってしまう。彼も思い出したのだろうか、グラスを持ち、私を見て微笑んでいる。

 グラスを合わせ、彼と一緒にスパークリングワインを飲む。彼の話しは一度途切れて見えなくなってしまったものの、喉を通る泡の音だけが言葉を持ち、静寂に響いていた。

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