ガラスの小瓶
それはいつのころだっただろうか。
何気なくガラスの小瓶を手でいじっているうちにそんなことを思う。いや、そんなことを思い出すのは何度もあったけれど「いつ」であったかは、さっぱりと抜けてしまっている。
ただ、そのときの気持ちだけは、ありありと覚えている。そのきっかけも鮮明に、残っている。そう、あれは、
その子のガラスの小瓶を見てからーー
きらきらと光るガラスの小瓶を見ているうちに、どうしても欲しくなって手を伸ばす。
「あー、どろぼう」
すぐにその子が気づいて言うと、びっくりして落としてしまい、壊してしまった。
粉々に砕けたガラスは元に戻るはずもなく、私はびっくりしたまま硬直し、気持ちまでもそのまま貼りついたように残ってしまう。
その後の出来事は正直、覚えていなかった。
覚えているのはただ、きらきらと光るガラスの小瓶とその瞬間、そして横たわるような言い知れない気持ちだけだーー
「何してるの?」
ふいに、その子がやってきて、私の手からガラスの小瓶を取ると、くるくる回して全体を見回す。
その子とは、あれから友達になった。過ごす時間も楽しく、何でも気軽に話せる。けれど、幼いあのときのことはもう覚えてないに違いない。
そう、私がどんな気持ちだったかも、わからないに
「ねぇ、あのときのこと覚えてる?」
「えっ」
ふいの言葉に動揺し、彼女を見る。にやり、と笑みを浮かべると、ガラスの小瓶を私の手に戻した。
「ま、そうだよね」
ほら行こう といつものその子の声に動けないまま、私はガラスの小瓶に吸いこまれてしまった。突然宙に放りこまれた小瓶は無常にも落ちていき、地面に到着するやいなや粉々に砕けてしまう。そうして、落ちた小瓶ごと砕けた私がいかに傲慢であったかに気づかされた。
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