子どもたちが夢中になるマインクラフトを知ろう
こんにちは、NASEF(North America Scholastic Federation/北米教育eスポーツ連盟、以下NASEF)日本本部です。初めましての方はこちらをご覧ください。
NASEFでは北米で継続的に「マインクラフト」というゲームを用いた取り組みを実施しています。「マインクラフト」自体は教育ニュースなどでも度々話題にのぼりますが、こういった取組の趣旨、あるいは本作の概要などはゲーム自体に馴染みがない人にとっては分かりにくい側面があるように思います。
そこで今回は普段ゲームを遊ばない人に向けてマインクラフトを紹介し、子どもたちが夢中になる理由や学べることを紹介してみます。
なお、北米教育”eスポーツ”連盟であるNASEFがマインクラフトを用いた活動…?じゃあマインクラフトもeスポーツなの?と思われるかもしれませんが、本作は「eスポーツ」ではありません。これは彫刻や設計がスポーツでないのと同じです。しかしPC/モバイル機器/ゲーム機などでプレイできるという点、そして若者が強い興味を寄せるゲームを用いて学びを提供する点は共通しています。競技に打ち込むよりも創作活動に取り組みたい人にとっては願ってもないツールとなるわけです。また、ご存じの方も多いかとは思いますが「マインクラフト」はプログラミング教材として既に一部の学校で用いられています。
マインクラフトとは?
利便性を優先し、概要を箇条書きでまとめてみます。
■デジタル積み木/レゴブロックと呼ばれることが多い
■ゲーム世界は3D空間で、さまざまな「ブロック」で構成される
ブロックの種類は水や溶岩、動植物などから多種多様
■ブロックを加工して別のブロックを作れる
ジャガイモ→ベイクドポテト
鉄塊→鉄インゴット→トロッコ
■プレイヤーは広い空間に様々な素材を配置して建物や環境を作っていく
■動力、回路、装置などを組み合わせて物を動かす/自動化も可能
ON/OFFスイッチやレバー、感圧板などを動力と組み合わせられる
ゲームを拡張することでプログラミングによる高度な処理も可能
■基本的に「ゲームクリア」はなく、プレイヤーは好きなように活動する
■ゲームモードによって遊び方が大きく異なる
ものづくりは素材を無制限に使える「クリエイティブ」モード
他のモードでは体力などに気を配り自ら集めた素材だけを使う
→こちらは生存のための問題解決能力が求められる
■2016年には教育向け「Minecraft: Education Edition」もリリース
教師が教室で運用するための機能が揃う
■累計販売2億本を超える、世界で一番売れたゲーム
見た目のシンプルさとは裏腹に、本作が広大で奥深い「箱庭」であることが少しでも伝わったでしょうか?
「マインクラフト」のイベントは小学生向けのものが多いイメージがありますが、大人プレイヤーも非常に多く、「Minecraftカップ」というコンテストでも高校生部門(リンク先YouTube動画)があります。年長プレイヤーにとっては「一定の制限のなかで自らの想像を具現化する能力」を押し拡げる側面もあるでしょう。
※2020年高校生部門の優秀賞作品。製作者なおぴえさん本人が紹介
マインクラフト活用事例
教育活用された例は多数あります。以下にいくつかオススメの記事を記載します。
参考リンク
■マイクロソフト認定教育イノベーターによる特別支援学級におけるコミュニケーション能力及び 協働能力向上支援のためのMinecraft:EducationEdition マルチプレイワールドを使用した実践
■マインクラフト(マイクラ)を使った驚きの学校授業例 (コエテコ)
■マインクラフトで楽しみながらプログラミングを学んでほしい――CA Tech Kids上野社長インタビュー:CodeZine(コードジン)
■「日本初マイクラのプロ」が語る驚きの教育効果 | 東洋経済education×ICT
コンテスト
本作は大枠の「テーマ」を設定したコンテストが開催されることが多く、NASEFでも以下のようなコンテストを実施しています。
■Minecraft COVID-19 Challenges
テーマ:新型コロナの理解、自宅での自粛生活
■2020 NASEF Minecraft Masters Global Competition
テーマ:スーパーヒーロー、eスポーツアリーナなど(国際コンテスト)
■NASEF Farmcraft™ 2021
テーマ:最高の農園
■2021 Digital Rube Goldberg Machine Minecraft Contest
テーマ:いわゆる「ピタゴラスイッチ」
※Firmcraftコンテスト(最高の農場テーマ)の概要紹介動画
また、国内でも規模・テーマの異なるコンテストが多数開催されています。
Minecraftカップ2020全国大会
テーマ:未来の学校
※大賞を獲得した浦添 昴さんのプレゼンテーション
コンテストはいずれもテーマというきっかけのみを提示し、実際に作る内容は子どもたちが決めている点です。だからこそ子どもたちは想像力を振るい、試行錯誤や「他者に相談する」方法を学び、完成させる難しさを知り、問題解決に挑むことができるようになっています。
入賞者は仕事並みのスケジュール作成をしていることもあり、ゲームが生み出す「Interest-driven learning」(直訳的には興味駆動学習、噛み砕くと関心分野だからこそ生じる能動的な姿勢が生み出す学び)の強力さが感じられます。
よくある懸念
このように人気のあるマインクラフトですが、保護者の間では「子どもが延々と遊んでいる」、「クリアや目標がないのに遊び続ける意味が分からない」、「時間の無駄に思える」といった懸念が聞かれることもあります。
個人的な見解ですが、これらの懸念の根底には「子どもが何をしているかわからない」、「ゲームは娯楽=暇つぶしである」という2点があるのではないかと考えます。
「子どもが何をしているかわからない」
この点は保護者側がプレイしていない限り画面を見て理解することはできないでしょう。しかし筆者は甥っ子(当時5歳)と対話した個人的な経験から、これは子どもに説明してもらうチャンスではないかと考えるようになりました。
「これは何を作っているの?」、「今何をしているのか教えて?」と、こちらから尋ねたところ、甥っ子が自分が作ったものを喜んで説明してくれたのです。また幼いプレイヤーは分からないことを言語化する力も足りないので、大人がそこを補ってあげると(代わりに調べる、疑問を整理してあげる)より良い学びになることも経験できました。現在は引っ越しのため甥と交流する機会がなくなってしまいましたが、継続していたら「Minecraftカップ2020全国大会」の入賞者の家族のように、計画の立て方で相談に乗りたかったところです。
先の「Minecraftカップ2020全国大会」で大賞を獲得した浦添 昴さんの場合も「分からないところがあると、兄や父に質問していた」と話しています。保護者が本作やプログラミングに詳しくない場合でも、「マインクラフト」はコミュニティが非常に大きいのが強みです。
「ゲームは娯楽=暇つぶしである」
これは大人側の認識の話であるため、「子どもたちの居場所で向き合う(NASEFの理念、原文:Meeting Kids where they are)」ためにこちらが歩み寄るしかないのではないかと思います。
子どもたちが挑戦を楽しんでいることを理解し、歩み続ける支援をする。「マインクラフト」をブロックを使った世界作りという創造的な作業や、プログラミング的な考え方を学ぶ機会だと捉えれば、向き合い方も変化してくるのではないかと思います。
その他の懸念:「スマホ/モニターばかり見ている」
これ以外の懸念としては、プレイ時間や関連動画視聴時間(=スクリーンタイム)がありますが、こちらは家庭内でのルールが必要です。これまでも本noteでは明確な目的を持って活動することの意義を強調してきましたが、マインクラフトも意識しなければ完全な暇つぶしとなってしまいます。ここでメリハリをつけるのは保護者や教員の役目となるでしょう。
宿題を終えてからプレイする、マインクラフトは○時まで、といったルールを敷くことが重要になりそうです。
マインクラフトも競技的eスポーツ活動と同じで、保護者や教員が理解し、協力し、環境を整えてあげることで学習効果が最大化する活動で、ただ遊ばせておけばOKではないことは意識する必要があります。
最後の疑問:「別にマインクラフトじゃなくても良いのでは?」
最後に触れておきたいのがこの点です。私見になりますが、まったくもってそのとおりだと思います。児童に嫌々マインクラフトを触らせることは有益どころか有害でしょう。保護者がプログラミングに明るければ最初からプログラミング言語を触ったほうがよいでしょうし、ゲーム以外に夢中になれる事があるならマインクラフトを強いる理由はありません。
一方で、ゲーム全般やマインクラフトに興味がある場合、本作はこの上なく素晴らしい教材になりえます。
よく引き合いに出されるレゴブロックには実際に触って作れるという大きな利点がありますが、マインクラフトには巨大/複雑なもの(複数の建築物からなる町や何らかの装置など)を経済的制約なく作れることをはじめ、プログラミング要素がある、複製が容易、物理的制限がないなどデジタル空間だからこその利点もあります。また繰り返しになりますが巨大なユーザーコミュニティが存在することも利点のひとつです。
結局は「マインクラフト」が多くの子どもにとって「居場所」となっているから、大人がそこに出向いて向き合う。それに尽きるのではないでしょうか。
以上、今回も長くなってしまいました…。本記事がどこかで皆さんのお役に立つことを願っております。
過去には以下のような記事も公開していますので、併せてご笑覧いただければ幸いです。
保護者から見た子どものeスポーツ活動
競技ゲーマーはゲームから何を学ぶ? <前編> / <後編>
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北米教育eスポーツ連盟(略称NASEF)は、教育を受け、想像力に富み共感力のある人材を育て、すべての生徒が社会におけるゲームチェンジャー(改革者)になるための知識やスキルを身に着けるために取り組む教育団体です。