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保護者から見た子どものeスポーツ活動

こんにちは、NASEF(North America Scholastic Federation/北米教育eスポーツ連盟、以下NASEF)日本本部です。初めましての方はこちらをご覧ください。

直近の記事数回は教員または学生の方の視点で意見を述べることが多かったのですが、スポーツやその他の部活動と同じく、保護者がどれだけ応援してくれるかは、特に学生の皆さんにとっては(ゲームできる環境が学校にあると仮定すると)最大の環境要因であろうと思います。

そこで今回はNASEFで活動する子どもたちの保護者に意見を聞いたNASEF内部レポート(英語、対象は北米の保護者)を引用しつつ、生の声を紹介しながら日本との類似点・相違点を考察してみたいと思います。

なお本レポートは調査中にパンデミックが始まったため、当初よりもサンプル数が著しく制限されました。このため結果的に定性的(Qualitative、少ないデータに時間を欠けて深く読み解く)アプローチを採用することになった点をご了承ください。

レポートを作成した経緯

まずはレポート作成に至った理由を探ってみましょう。
2020年、NASEFは活動に参加する学生の保護者の気持ちを理解することを目標のひとつとしていました。

現在まで、米国におけるビデオゲームの評価は相反する意見が存在し続けています(賛否両論)。賛否両論という表現は比率が偏っていればミスリードになりえるものですが、この点は実際に拮抗しています。
たとえばレポートで引用されている米国の成人を対象としたPEW Internetの調査(Duggan, 2015))では:

ビデオゲームは時間の無駄だと思う:26%
大半のゲームは時間の無駄ではない:24%
大半のゲームは問題解決・戦略スキルを成長させる思う17%
大半のゲームは問題解決・戦略スキルを成長させなかったと考える:16%

という結果が出ているほどです。

そして「ゲームx子どもたちの懸念点」を取り上げた研究は数あれど、成長を促すか?という問いを取り上げた研究は非常に少ない。それならば自分たちでやろう、ということで調査が行われることになりました。

(質問事項はp.1末尾、調査手法はp.2の「Methods」にまとめられていますが、今回は割愛しますので興味のある方はぜひリンク先をご覧ください)

サンプル数

NASEFの活動に参加しているお子さんを持つ保護者13組です。

選出にあたっては家庭環境、参加する保護者の性別、子どもの数、テクノロジーとの親和性、州、保護者の学歴、子どもの学年などが偏らないよう注意しています。

ジェネレーションギャップ

大半の保護者が、インタラクティブメディアのあり方が自分の子ども時代から大きく様変わりしたと回答しているのは当然といえるかもしれません。ありきたりな言い方になりますが、現代の子どもたちにとっての最大の社交の場はオンラインにあり、近所の公園ではなくなったと。

また、当時の自分たちよりも子どもたちのほうがずっと社交的だと感じている保護者も半数にのぼりました。
特にマルチプレイヤーゲームは共同作業や会話の機会を創出しており、これについては(おそらく日本と同様に)「時代が違うことは理解しているが、諸手を挙げて大賛成というわけでもない」という意見もありました。

インタビューに応じた保護者の85%は子ども時代によくゲームを遊んでいたと回答していますが、当時からゲーム業界が大きな変貌を遂げた、ゲームが複雑化した、いつでも遊べるようになった(ゲームセンターに行かなくてもよい)、没入感が上がったなどの理由から「自分の頃とは別物」と考える傾向が強かったそうです(7/10)。

では子ども時代にゲームを遊ばなかった保護者が保守的かというとそうでもないらしく、サンプル数は4人と少ないものの、全員がゲームを「子どもたちが友達と繋がり、協力して遊ぶ場所」と認識していました。

このサンプル数から結論を導き出すのは難しいですが、「親がゲーマーだったかどうかは実はそれほど大きな要因ではなく、どちらかといえば世論やイメージのほうが影響力が大きいのではないか」という仮説は考えられそうです。

スポーツとeスポーツの比較

とはいえ、どんなことにも懸念点は存在するもの。保護者からは以下のような懸念が挙げられました(回答が多かった順)。

キャプチャ

(NASEF Internal Report: NASEF Parents, 2020,  Constance Steinkuehler & Minerva Wu, Connected Learning Lab)

ゲーム中毒(62%)
活動時間が長くなりすぎる(54%)
非社交性の助長(46%)
過剰なスクリーンタイム(46%)
オンラインの暴言(38%)
見知らぬ人と接触する危険(31%)
運営企業のがめつさ(15%)
認知機能への悪影響(15%)

懸念を挙げなかった保護者はゼロ。全員が何らかの(殆どの場合複数の)懸念を抱えていました。「止めなさいと言ってもやめたがらない」という回答が最多(7/13)でしたが、2位の「活動時間が長すぎる」も実質的にはほぼ同じことを言っている上、スクリーンタイムが過剰というのも重複しているところがあります。

また良質な睡眠時間の不足、身体的運動量の不足、視力低下、非社交的な面の助長(対面せずオンラインで競技に身を置くことの弊害とも)、といった点も根本的には「プレイ時間が長すぎる」ことの弊害であり、合算すれば半分以上が「うちの子は毎日あんなに画面ばっかり見て大丈夫かな?」という懸念を別の方法で言語化したものになっています。

これと比較すると、暴言や見知らぬ他者と接する危険、運営企業のがめつさ(マイクロトランザクションコンテンツへの過剰な入れ込み)などの懸念は少なめです。ここはeスポーツタイトルをプレイしている人からすると驚く結果かもしれませんが、認知していないことに懸念は抱けないので、今後もう少し大きく取り上げられるようになっていく可能性は充分にあります。むしろ現時点では、競技的にプレイしている当人たちのほうが攻撃的な言動に心を痛めている可能性すらあるでしょう。

保護者による制限

この調査の対象者はNASEFの活動に参加している子どもの保護者ですが、100%(13/13)が何らかの形で「子どものゲーミング活動に制限を設けている」と回答しています。
内容は「暴力的なものはプレイさせない」のように曖昧なものから、明確な定義に基づく契約に近いものまで様々です。しかし今回の調査結果では、制限の種類は「スクリーンタイム」、「プレイするタイトル」、「誰と遊ぶか」の3つに分けられました。

なお、またしても100%のケースで、制限は最初から明確に定義されていたわけではなく、徐々に形成されていったという結果が出ています。また制限には「宿題を済ませる」、「家の手伝いをする」、「睡眠をn時間以上取る」、「家のルールを守る」といった補足的ルールが付随する場合も多いことが分かっています。

保護者による「導き」

今回の調査対象となった13組では、同じく全員(13/13)が子どもたちをより良い方向へ導くための施策も取っていました。注意すべきは、彼らが「子どものeスポーツ活動についてインタビューさせてください」と言われて快諾してくれた人たちである、という点です。インタビューが強制的かつランダム選出であればこの結果は違ったものになるであろう点はご留意ください。

ここで特筆すべきは、調査に協力してくれたある母親が実践している「導き」の具体的内容と、その背景にある思想です。

→保護者側からゲームに関する質問をしたり、競技/プレイする様子を見たり、彼らの語る物語やびっくりした出来事に耳を傾ける
→子どもをゲームプレイという分野の専門家として扱い、保護者に教える機会を設ける
→ファミリーアクティビティ/家族の思い出づくりの一環として、子どもと一緒にゲームをプレイする
→子どもがゲームに寄せる関心を、ゲーム以外の重要な学びへと導く(人間としての強みづくりに活かす)

私たちは彼女に、この分野におけるアドバイスを求めました。著者はこの答えをとても美しいと感じます。正直に言って、翻訳していて感情がかなり揺さぶられました。

もし子どもが遊んでいるゲームに興味がなかったら?…それでどうやって意見の相違を扱うんです?どうやって安全に議論を進展させるんです?

思いやりが必要なんですよ。子どもにものを教わる、つまり保護者と子どもの立場が逆転することをしっかりと受け入れなくちゃいけない。子どもに何かを教わることを受け入れられないと、まずうまくいきません。

(息子が)0.5秒でできることを親に15分かけて粘り強く丁寧に説明するにはかなりの思いやりが必要です。人が打ち込んでいる事柄を認めてはじめて、他者を思いやれるようになるんですから

あらゆる保護者がこのように振る舞うことは難しいでしょう。しかし、このケースが数多ある「素晴らしい親子のかたち」のひとつであると筆者は信じます。

日本と比較して

以上ざっくりとレポートを追ってきましたが、こうして読んでみると共通点はかなり多いように感じます。
もちろん日本側に調査データがないので比較はできませんが、「親がゲーマーだったかどうかは実はそれほど大きな要因ではなく、どちらかといえば世論やイメージのほうが影響力が大きいのではないか」という仮説は私自身の体感でもピンとくるところがあります。
またスクリーンタイムが長すぎることに由来する懸念は、おそらく今後どの国においても注視していくべきポイントとなるでしょう。
どちらのポイントも学生eスポーツプレイヤーの日常における振る舞いの積み重ねが世論となるので、NASEF日本本部としても課題があれば課題と解決策を、成果があれば成果をしっかりと公開していきたいと考えています。

一方で今回のレポートで出てきた保護者による「導き」の部分は、地域や文化に関係なく響くところがあるのではないでしょうか。こちらについても日本国内の素晴らしい事例を見つけたらこちらで紹介していきたいと思います。

おわりに

筆者はかつてゲームのローカライズ(翻訳を含めた現地への最適化)を本職としていたのですが、ローカライゼーションという行為の根っこには「どうやって文化Aの伝わらない要素を文化Bの人に分かるようにするか」という点があります。そういった経歴を歩んできたこともあり、2021年の学生と保護者のように、異なる文化で生活する(かつこの場合は立場が対等ではない)者同士が相手の文化を理解する過程というものに強い興味があります。テクノロジーの発展著しい今だからこそ、世代間の文化差は大きくなっていますから。

反面、テクノロジーの発展のおかげで、私たちはこのように太平洋の向こう側の保護者が何を考えているのかを知ることができています。このレポートの示す知見が、この記事を通じて少しでも多くの人と共有され(こういった話題になった時「北米でもそう考える人は一定数いるみたいだよ」のような形で議論を広げ)、世代間文化差を埋める役に立ち、若者がより豊かな人間へと育っていく一助になれば幸いです。

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北米教育eスポーツ連盟(略称NASEF)は、教育を受け、想像力に富み共感力のある人材を育て、すべての生徒が社会におけるゲームチェンジャー(改革者)になるための知識やスキルを身に着けるために取り組む教育団体です。