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【短編活劇小説】『社会人1年目の無責任若大将』

【社会人1年目の私へ/コンテスト投稿作品】

《 新東京映画シネマスコープ作品 》

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《《《 社会人1年目の無責任若大将 》》》

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ここは、東京都エトウ区の一角にある
(株)ダイコク商事のオフィス。
日々、100名近い社員がここで働いている。

その男は、突然、オフィスに現れた!
そして、デスクに座ってパソコンのキーボードを叩いている新入社員【加沼雄一】の背中を『バシッ』と掌で叩いた!
「痛っ!」
加沼は振り向いて、男を睨んだ。
「おい!お前が加沼か。ほう、噂通りのイケメンだな..まあ、せいぜい頑張るんだな!すぐに追い出してやるからな!」
そして、男はニヤケ顔になり、加沼の隣に座る【真中隅子】に声を掛けた。
「隅子ちゃ~ん!今日も綺麗だね!今夜デートしない?ヒッヒッヒッヒッ」
隅子は男に鋭い眼差しを向け、毅然とした態度で答えた。
「やめてください。仕事中ですから」
「じゃあ、仕事終わる頃に来るよ!ヒッヒッヒッヒッ」
そう言い残して、男は立ち去った。
似合いもしないブランド物のスーツを着た、ぶよぶよに太った醜い男だった。
「隅子さん、なんですか?あの男」
加沼の問いに隅子は溜息をつく様に答えた。
「...あの人、ここの社長の息子で寅男さんっていうの」
「寅男...頭、悪そうでしたねぇ」
隅子は口に指をあて、周りをそっと見回して言った。
「しっ、加沼君、ダメよ、そんな事言ったら。あの人に睨まれたら、会社にいられなくなっちゃうわよ」
「へえ、そりゃあ大変だ」

加沼は腕組みをしながら考えた ..

ふ~ん..社長の息子か...
金は持ってる訳だな..
で、どうみても隅子さんに気があるときてる..
奴の魔の手が伸びる前に先手を打たないと..よし!

「隅子さん!今日、デートしましょう!」

加沼の言葉に、隅子は眉間に皺を寄せ、怒った表情を見せた。
「何を言ってるの、加沼君!まだ仕事中よ」
「まあまあ、そう硬いこと言わないで。大丈夫、大丈夫、大した事無いですよ」

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その日の午後7時45分
ダイコク商事近くのレストラン。
ほぼ満席状態の店内の端のテーブルに、加沼と隅子が向かい合って座っている。
ワインの入ったグラスを片手に持った隅子は少し困った顔で加沼に言った。
「...もう、ホントに強引ねえ、加沼君は」
「いやいや、そんな事ないですよ。ところで僕と結婚しませんか?」
突然の加沼の言葉に、隅子は慌ててグラスのワインをこぼしそうになった。
「ちょ、ちょっと、いきなり何を言ってるのよ、君は!」
「まあまあ、そんなに深刻に考えないで気楽にいきましょうよ。どうですか?」
「もう!私、アナタにはついていけないわ」
加沼は困惑する隅子を見ながら、笑顔で店内を見回して言った。
「おっ、バンドがスタンバってるんだ。じゃあ、僕も一曲...」

加沼は立ち上がり、バンドの所へ歩いて行き、メンバーと何やら話し始めた。

そして、マイクスタンドの前に立ち、バンドに合図を送り歌い始めた。

『ぼ~くは~、む~せきにん~
しょくじは~、スーパーのししょくコーナーをじゅうおうふくして、すませるのさ~
ひとのうちの~、トイレを~かりても~、ぜったいに~、ながさないぜ~
ぜったいに~、ながさないぜ~

ぼくは、ぜったいにながさないぞ!いいだろ?

ぼくの~およめになろうよ~
きみを~しあわせにするよ~

どうも有り難う!』

歌い終わった加沼に、客達から大きな拍手が巻き起こった!

隅子は、歓声に手を上げて答えながら席に戻ってきた加沼を見て、少し頬を赤らめた。
「加沼君、歌、お上手なのね!見直したわ」
「いや~、それ程でもないですよ」
「でも加沼君!トイレは流さないと駄目よ。社会人なんだから!いや、社会人とか無責任とかの話じゃないと思うの」
「いや~、これは一本取られたなぁ。流石は隅子さんだ」

隅子との心の距離が縮まったと加沼が感じた、その瞬間!
入口から、寅男の怒鳴り声が聞こえた!
「おい!新入社員!」
店内の全ての客の視線が寅男に集まる。
寅男は背中に バズーカ砲を背負って、加沼を睨みつけている!
突然の事に驚いた隅子は、怯えながら加沼の後ろに身を隠した。
「お前!隅子さんを誘うなんて100年早いんだよ!」
それを聞いた加沼は、半笑いでニヤケながら答えた。
「はあ~、100年早いですか..そっちが100年遅いんですよ!もうプロポーズしちゃいましたから!」
「ちょ、ちょっと、加沼君!」
寅男の顔が一気に紅潮した!
「なに~!ふざけるな、お前!」
そして、寅男は背中からバズーカ砲を取り出して、加沼に向けた。

「キャー」
「キャーーー」
「ギャーー」

店内にいた、加沼と隅子以外の人間は、全員パニック状態で、叫びながら店の外に飛び出して行った!

加沼は、怒りの表情で自分にバズーカ砲を向ける寅男を見ながら考えた..

ここは、ゴマすり作戦でいくしかないな...

加沼は後ろの隅子を残し、揉み手をしながら寅男にすり寄った。
「な、なんだ、来るな!撃つぞ!」
「いやいやいやいや、寅男さん!これは素晴らしいバズーカ砲ですね、びっくらこいちゃいましたよ!実にお似合いですよ!」
「...え?」
いきなり褒められた寅男は戸惑いながら表情を崩し、満更でもない様子で加沼に言った。
「そ、そうか?似合ってるか?」
加沼はゴマすりを加速させる。
「いや~、最高ですよ!これは凄い!いや、凄すぎると言っても過言じゃございません!ナイスですねぇ、ゴージャスですねぇ!写真を撮っても宜しいでしょうか?」
「お、おう。いいぞ!」
加沼は、煽られて照れながらポーズを決めている寅男にスマホを向けながら残念そうに言った。
「いや~、せっかくのナイスなシャッターチャンスなのに、ちょっと背景が弱いんですよね~。後ろは夜景にしましょう!よし!じゃあ、この窓を開けて...」
加沼はビルの窓を全開にして寅男に言った。
「寅男さん、この窓枠に乗ってもらえませんか?この夜景!これはゴージャスですよ!」
「い、いや、ちょ、ちょっと...」
「まあ、いいから、いいから、遠慮しないで」
寅男は加沼に言われるがままに、バズーカ砲を持って窓枠に登らされている。

「おお、いいですねぇ、ナイスですねぇ、ゴージャスですねぇ」

「お、おい加沼、は、早くしろ」

「はい!撮りますよ~、あれ?」

「おい、加沼!早く!」

「はい、チーズ、あれっ、バッテリーが..」

「お、おい、バ、バランスが、あ、あ、あ~~~~~~~~~~~」

寅男は遠ざかる叫び声と共に闇の中に消えていった...

それを見ていた隅子が、加沼の傍に駆け寄って叫んだ! 
「ちょっと!ここ8階よ!」
加沼は落ち着いた様子で答えた。
「いや~、多分、大丈夫じゃないですか?あの人、体の肉がクッションになりそうだから」

そして、加沼は満面の笑みを見せた!

隅子は呆れ顔で答える。

「まったく、もう!あなたって人は...無責任なんだから!ふふふ」

【劇終】

《この作品を、その昔、自信の無い『社会人1年生』だった自分に、
そして、羽ばたいたばかりの『社会人1年生』の皆さんにエールを込めて送ります!》

えっ..いらないですか?
...いらないって...
いらないとか言うのか..
でも、せっかく書いたから、一応、送ります..


監督、脚本/ミックジャギー/出演、加沼雄一役.カロ山ヒトシ、隅子役.星野ユリコ、寅男役.出部位トラオ

挿入歌【君と無責任】作詞、作曲.青潮幸雄


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