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【ショートストーリー】『ザ・人生/セツナ系SSで人生逆転を目論む男の話』

日曜日の朝、起きた瞬間、書き物で人生と戦っている俺に啓示が降りてきた!

『『 若い女性に受ける、切ないショートショートを書けば、すぐにブレイク間違いなしじゃないか!!!!』』

こんな簡単な事に何故、今まで気づかなかったのだろう?

今まで何十本も無駄なものを書いてしまった。
俺は、今まで書いた自分の作品を見直してみた。
【茨城の人】って、何なんだこれは。こんなもん、若い娘が喜ぶ訳ないだろうが!
【イートイン!朝!】ってのも酷いな!ダジャレとか、若い娘が一番嫌がりそうじゃないか!
【今夜はニート・イット】って、古すぎてダジャレなのも判らなそうだもんなぁ。
俺はこんなものを書いて、一体、どれだけの時間を無駄にしたんだろうか?
よくスピリチュアルな人が
『世の中に、無駄な事は何もないんですよ。全てに意味があるんです』などと言っているが【茨城の人】のどこに意味があると言うのか?
今すぐ教えてほしい!

これ以上、時間を無駄に出来ないと悟った俺は、早速、切ないショートショートの参考になる物を求めて、全力で自転車を漕いでブックオンへと向かった!

俺は自転車を漕ぎながら考えた。
流行に疎い俺でも知ってる、話題になったセツナ系のベストセラーといえば、何と言っても映画化された
【君なんとかを食べる】という作品だな。
何を食べるんだったっけ?

まあいいや。

相当、売れたみたいだから、多分、平積になっている事だろう。
しかし、若い女性達はあのタイトルで、本当に切なくなっているのだろうか?
いや、そのギャップが堪らないのかもしれないな..

ブックオンに到着した俺は、時間の節約の為、レジへと駆け込んだ!
「あの、すいません!ちょっと前に話題になった本を探しています!タイトルは.…」
い、いかん。全力で自転車を漕ぎすぎて、タイトルが頭からすっ飛んでしまった。
レジにいた若い女性店員は、少し驚いた様子で聞いてきた。
「は、はい。タイトルは?」
「えっと、何だったっけな.…ちょっと待ってもらえますか?」
「あ、はい」
「あ、あの、すいません。少し前に流行った、切ないベストセラーと言えば?!なんか食べるんですよ!」
俺の言葉を聞いた店員の女性は、不安そうな顔つきでレジを出て行った。
そして、2冊の本を手に戻ってきて、それを俺に差し出した。
「あの、このどちらかですか?」

【小林みつよのズボラ料理万歳!】

これじゃない!

【君と膵臓を食べたい】 

そうそう、これこれっ!流石プロ!
俺は、礼を言って会計を済ませ、自転車に飛び乗り、自宅へと向かった!

いや、ちょっと待て!まだ【セツナ系】アイテムが足りないんじゃないか?
俺は後方を確認し、90度ぴったりに方向転換して、図書館へと自転車を走らせた!

図書館に到着した俺は、CDコーナーへと走った!

「あの、図書館内は走らないでください!」

司書の方に注意された俺は、頭を下げながら答えた!

「あ、すみません!セツナ系アイテムを手にいれて、早くブレイクしたいんです!」

J-POPの.…これこれっ!カナ西野!
俺は、カナ西野のCDを3枚借りて自宅へと急いだ!

これで万全だ!もらったな!

自宅に着いた俺は、早速、カナ西野の切ないCDをかけて、時間を節約するために【君と膵臓を食べたい】をラストから読み始めた!

なるへそ。これは切ない。途中は読んでいないからよく解らないが、ラストだけでもこれだけ切なくなるというのは、流石ベストセラーだけはあるな!

【君食べ】とカナ西野からインスピレーションを受けた俺は、早速、パソコンへと向かった!
タイトルは…そうだな…

『君と僕の残された時間を食べてみたい』

もらったな!

俺は、激しくキーボードを叩き始めた!
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今日こそ、彼女に僕の気持ちを伝えたい。

この気持ちを隠し通すのは、もう限界だった。
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「カ、カナさん、お、お話があります!」

信夫は自転車で走るカナの前に立ちふさがった!

キキキーーッ
カナは、急ブレーキをかけて止まった!
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カナの目からは、切ない一粒の涙がこぼれ落ちた。

【終わり】



一気に【セツナ系ショートショート】を書き上げた俺は、心地良い疲れを感じていた。

「ふーっ、終わったな。いや、これからが始まりか。フフフッ、もらったな」

そして、【投稿】をクリックした俺は、確かな手応えと共に、来たるべき明るい未来を感じながら深い眠りに落ちていった…


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【君と僕の残された時間を食べてみたい】  
○ミックジャギー

今日こそ、彼女に僕の気持ちを伝えたい。

この気持ちを隠し通すのは、もう限界だった。

金田信夫(36)無職、は苦悩していた。
信夫の頭の中は憧れの人の事で一杯だった。

そして、気が付くと信夫は、彼女が通う学校の前に立っていた。

「神様!どうか彼女に逢わせてください!
あっ、あれは!」

その人の姿が視界に入った瞬間、信夫は雷に打たれた様に直立不動で立ち尽くした!
前から友達と談笑しながら歩いてくるのは、信夫の憧れの人、セイント女学院のマドンナ『西野田カナ』その人だった!

い、いきなり、カナさんに逢えるなんて..

信夫の身体は震える体を抱きしめた。

い、一体、な、何を話しているのだろうか?
き、聞きたい。ぐふぐふ。

信夫はカナ達に気づかれないよう、後ろに回り込み、5メートル程後ろから、秋葉原で買った高性能小型マイクをカナ達に向けた。

*******

「なんか、最近、膵臓が痛いんだよね」
「え~、カナ、大丈夫?」
カナの親友、aiikoは心配そうな顔で、のぞき込む様にカナの顔を見た。
「う~ん、大丈夫じゃない。もう死んじゃうかも」
「ちょっと~、なんで、そんなに弱気なのよ?」
カナは、泣きそうな顔を作って答えた。
「だって、膵臓の病気になったら、他の人の膵臓を食べないと治らないらしいのよ」
aiikoは思わず顔をしかめた。
「え~、うそ~」

******

そ、そんな、カナさんの命が…

ショックを受けた信夫は、思わず自宅に向かって走り出した!

******

「ウッソ~、そんな訳ないじゃん!あっはっはっは」

「も~う!ひどいなあ、カナは!あっはっはっは」

******

翌日、信夫はカナを待ち伏せする為、セイント女学院の近くの側溝に隠れていた。
信夫は覚悟を決めていた。

『僕の命と引き換えにしてでも、カナさんに生きていて欲しい!
カナさんの命を救うため、僕の膵臓を食べてもらうんだ!ぐふぐふ 』

そして、下校時間を告げるチャイムと共に、信夫は側溝から這い出した。

信夫はセイント女学院の近くの道で、祈りながら待ち続けた。
カナさんはこの道を通るはずだ。

そして、待つこと1時間、遂にカナが現れた!

あっ、あれは!
今日は自転車なんだ。これは想定外だな。
でも、行くしかない!
神様、僕に勇気を下さい!

信夫はカナに向かって走り出し、自転車で走るカナの前に立ち塞がった!

「カ、カナさん、お、お話があります!!」

キキキーーッ!
カナは急ブレーキをかけて止まった。
「ちょ、ちょっと、危ないでしょう!」
驚いているカナには構わず、信夫はカナのすぐ横に歩み寄り、突然、土下座した!
カナは驚いた顔で信夫に言った。
「な、なんなのよ、一体!」
信夫は、頭を地面に擦り付けながら、カナに訴えた!
「カ、カナさん!あなたに、是非、食べてもらいたい物があるんです!」
「いきなり、なんなの!あなた、何者なのよ?!」
信夫は、顔を上げて、手を顔の前でブンブンと振りながら答えた。
「いや、名乗る程の者じゃないですよ」
「名乗りなさいよ!」
「嫌ですよ!」

カナは、フーッと、大きく息を吐いてから聞いた。
「じゃあ、一体、何を食べさせるつもりなのよ」
信夫は、カナの瞳をじっと見つめながら答えた。

「はい!是非、僕の膵臓を食べて下さい!」

カナは、怯えた表情で叫んだ!
「キャーーーーーー」
そして、思いっ切り自転車を漕ぎ、その場から逃げだした!

信夫は、逃げるカナに向かって叫んだ!
「カナさ~~ん!なんで僕の膵臓を食べてくれないんですか~~!早く食べてくださいよ~~!ぐふぐふ」
カナは、全力で自転車を漕ぎながら叫んだ!
「キャーー!変態!お前、来るんじゃねーよ、この豚野郎が!あっち行けよ!」

逃げるカナの目から、切ない一粒の涙がこぼれ落ちた。

【終わり】

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《君と僕の残された時間を食べてみたい》
♡0▭0  

ん?
♡0▭0
え?
♡0▭0

おかしい.…朝、起きたら、人生が変わっていくのを感じるはずだったのに。
『スキ』が1つも入っていないじゃないか!
少なくとも10、いや、20、いや、30は入っていいはずなのに!
俺は、もう一度、タイトル下の数字を確認した。
♡0▭0 
そんなはず無いだろう..カウンターに不具合があるのか?
再び、数字を見てみる。
♡0▭0 
何故なんだ!おかしいじゃないか!

とても納得出来なかったが、出勤時間が迫ってきた為、俺は準備に取り掛かり、部屋を出た。

アパートを出てから職場までの通勤中、電車の中で俺は必死に考えた。
あの作品の何処に問題があると言うんだ。
書き終えた瞬間、確かな手ごたえを感じたのだが..
くそっ、何故だ!

職場に着いた俺は、近くにいた先輩の山下さんを捕まえて聞いた!
「あの、山下さん!【note】に投稿しているショートショートを色んな人に見てもらって【スキ】を増やすには、どうすればいいんですか?!」
山下さんは、眠たそうに目をこすりながら答えた。
「は?知らねえけど、公衆トイレに、サイトのURL貼っとけばいいんじゃねえの?『読んでください』って書いてよ。よく分かんねえけど」

なるほど。そういう手もあるのか…

いや、公衆トイレを使う人なんて、たかが知れてるじゃないか。
「いや、あの、もっと大勢の人にアピールできる方法はないですか?」
山下さんは、面倒くさそうに頭をかきむしりながら答えた。
「あ?じゃあ、もう【しでかす】しかねえんじゃねえの?」
「えっ?【しでかす】って何ですか?」
山下さんは、又、面倒くさそうに答えた。
「だから、例えば、『首⚫官邸にスプレーでサイトと自分の名前を…』とか『プ⚫野球の生中継中にバックネットに登って…』とか『URLの書いた紙1枚で隠しながら渋谷スクランブル交差点を…』とかだよ。そしたら、ネットとかで話題になるんじゃねえの?知らねえけど」

な、なるほど!それは凄い宣伝効果じゃないか!一番、注目されそうなのは、首⚫官邸だな!

「有難うございます!」

俺は、山下さんに深く頭を下げ、早速、早退してホームセンターへと走った!

ホームセンターでスプレーを入手した俺は、それを鞄に忍ばせて地下鉄で、国会議事堂前駅に向かった!

駅に到着した俺は、最寄りの出口から首相⚫邸へと走った!
よし、これでブレイク間違いなし!もらったな!
だがそこで、俺の目に写ったのは…

こ、これは!
この厳重な警備..

そこは、とても素人が入り込める場所では無かった。

俺は、とりあえず、近くにいた警察官に爽やかに挨拶をした。

「どうも、お疲れ様です!」

警察官は、明らかに怪しむ目で俺を睨んでいる。
俺は、その視線から逃げるようにその場を立ち去った。

翌日、職場に出勤した俺は、山下さんを捕まえて言った。
「山下さん!昨日、首相官⚫に行ってきたんですけど、とても素人が入り込める所じゃなかったですよ!」
山下さんは、今日も眠そうに目をこすりながら答えた。
「ん?あったりめえだろう、冗談で言ってるに決まってんだろ。そんな事、小学生でも解るだろうが。お前、メンバーって呼ばれちゃうよ」
「そ、そんな…俺は、一匹狼ですよ!ただ、必死で.…」
山下さんは頭をボリボリと掻きながら続けた。
「結局よお、何事も続けなきゃ、成果は出ねえんだよ、楽してちゃダメなんだよ。よく知らねえけどよ」

「継続、する事ですか」

「そうそうそう、継続だよ。継続はなんとかなりだよ。何なりだっけ?よく分かんねえけどよ。ふあ~あ」

山下さんは、大きな欠伸をしてその場を離れていった。

なるほど。何事にも近道は無いという事か…

深い…

深いな。

今日、俺は、とても大切な人生の教訓を得た!

様な気がした。

多分…

よく分からないけど…

【劇終】

出演.ミックジャギー、山下幸三、ブックオンの店員の鈴木さん

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《よいこのみんなへ》

『さくちゅうにでてくる、《トイレにURLはる》とか、《しゅしょうかんていにスプレー》うんぬんは、ぜんぶネタなので、よいこのみなさんはマネしないでね!やったら、おまわりさんに、つかまってしまいますよ!!あと、「こんなこと、かいてるひとがいる」って、おとうさん、おかあさんにいわないでね!』

みっくじゃぎーより



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