マガジンのカバー画像

新解釈 竹簡孫子の兵法

62
世界最古の兵法書「孫子の兵法」。その孫子の兵法の中でも最も古い「竹簡孫子」を研究しているマガジンです。孫子の兵法理論である「正奇」や「虚実」「形勢」などの追概念は「陰陽理論」が適…
運営しているクリエイター

#孫子兵法

(49)「天」の一節の解読-竹簡孫子 地形篇第十

(49)「天」の一節の解読-竹簡孫子 地形篇第十

私の「孫子の兵法」研究の一つの成果は、地形篇の結文が「天」の解説であることを解明し、全体の内容の中で整合性のある説明ができる事です。

解読方法について説明したいと思います。
まず本文を見てみましょう。

【書き下し文】
吾が卒の以て撃つ可(べ)きを知るも、而も敵の撃つ可からざるを知らざるは、勝の半(なか)ばなり。敵の撃つ可きを知るも、而も吾が卒の以て撃つ可からざるを知らざるは、勝の半ばなり。

もっとみる
(47)国宝級の将軍-竹簡孫子 地形篇第十

(47)国宝級の将軍-竹簡孫子 地形篇第十

複数の将軍を束ねる「上将軍」、つまり現場の最高責任者はどうあるべきか。最上段の視点から行うべき仕事を「孫子」では次のように教えてくれます。

【書き下し文】
夫れ地形は兵の助けなり。敵を料(はか)って勝を制し、険易遠近を計るは、上将の道なり。此れを知りて戦いを用うる者は必ず勝ち、此れを知らずして戦いを用うる者は必ず敗る。
故に戦道必ず勝たば、主は戦う無かれと曰うとも必ず戦いて可(か)なり。戦道勝た

もっとみる
(42)敵軍の洞察法-竹簡孫子 行軍篇第九

(42)敵軍の洞察法-竹簡孫子 行軍篇第九

行軍篇の三つの解説は、敵軍を洞察する方法です。

ここまできて初めて、戦場で敵軍と遭遇して、敵の状況を理解する方法になります。敵軍は常に動き、状態も変化していることが特徴です。

戦力が充実しいる場合もあれば、飢えて病気になっているかもしれない。敵は敵の主体的な動きの中で、プラスの状況にもマイナスの状況にもなっています。その状況を見極めることができなければ、自軍のコンディションが良い状態であっても

もっとみる
(40)基本地形の進み方-竹簡孫子 行軍篇第九

(40)基本地形の進み方-竹簡孫子 行軍篇第九

行軍篇第九は、現代人が読むと非常に面白くない。古代の戦争の具体的なノウハウ、行軍方法についての知識を学んでも活用できることがほとんどないからです。

この篇は、九変篇とセットで読んではじめてわかります。敵軍の情勢を変化させるための具体的な方法や駆け引きとして読むと味わいが出てくるし、現代においても応用する方法が見えてきます。

九変篇では、「九変」という九つの項目と利と害の両方に変会する五つの地形

もっとみる
(39)将軍の五つの欠格事項-竹簡孫子 九変篇第八

(39)将軍の五つの欠格事項-竹簡孫子 九変篇第八

それでは九変篇の末尾の文章の解説です。ここは将の「五危」と言われるものです。

「九変の利」に通じて、地の利を得るかどうかは将軍によるからです。孫子は緻密に一つ一つ論理を積み上げていきます。ここまで述べてきた兵法理論の内容、積み上げてきた優位性は、将軍の性格によって台無しになってしまう、軍事において非常に重要な要素なのです。

「五危」とは、「必死」「必生」「忿速」「廉潔」「愛民」の五つです。

もっとみる
(35)集団を動かす時の注意点-竹簡孫子 軍争篇第七

(35)集団を動かす時の注意点-竹簡孫子 軍争篇第七

軍争篇の篇末は、昔から多くの研究者の間で議論されています。軍争篇にあるのは間違いで、九変篇の冒頭にあるべきではないかと。事実、現行孫子では九変篇に組み入れられている。

この件に関して、私の見解を述べると、「竹簡孫子」の構成である軍争篇の篇末にある方が、意味が通じるので、軍争篇に入れる方が正しいという立場に立ちたいと思います。

なぜそう言えるのかというと、軍争篇は、主導権争いに勝ための軍隊の動か

もっとみる
(34)人間の性質を使う-竹簡孫子 軍争篇第七

(34)人間の性質を使う-竹簡孫子 軍争篇第七

孫子は、陰陽という自然の摂理に則っているため、その主張に一つの無理もありません。ましては根性論など持っても他です。

軍争篇は、非常に緻密な洞察をします。主導権争いに勝つための方法、軍隊の適切な動かし方について述べましたが、一つ問題が残ります。

それは兵士が計算通りに動くのかという問題です。軍争篇の後半は、人間の性質に言及していきます。人間の性質に則れば、自然に軍隊を動かすことができるという訳で

もっとみる
(33)軍隊の動かし方-竹簡孫子 軍争篇第七

(33)軍隊の動かし方-竹簡孫子 軍争篇第七

本項は、孫子の兵法で最も有名な言葉の一つ「風林火山」が出てくる回です。風林火山は戦国武将の武田信玄が孫子の兵法の言葉を旗に記したもので、敵はこの旗を見ただけで恐れたようですね。

軍争篇は、敵と味方の主導権争いについた解説する篇ですから、「風林火山」も主導権争いで勝つための一つの方策として書かれたもので、その言葉だけでは学びは多くありません。その前後の文脈から内容を追っていきます。

ここから軍隊

もっとみる
(32)主導権争いとリスク-竹簡孫子 軍争篇第七

(32)主導権争いとリスク-竹簡孫子 軍争篇第七

「軍争は利為り、軍争は危為り」という。軍争は利益でもあるがリスクであるという意味です。

現代人に生きる私たちは、利益である、リスクであると言われても詳細なイメージがしにくい。そこで図で考えたいと思う。

まず古代の軍隊は縦列になって従軍する。前と後とではかなりの距離になる。

そういう訳ですから、戦場に早く到達できるということは、まず第一に戦力を集中・充実させられる。次に戦場の中で有利な場所を先

もっとみる
(29)「無形」の性質-竹簡孫子 虚実篇第六

(29)「無形」の性質-竹簡孫子 虚実篇第六

それでは「無形」の性質、「無形」による勝利の特徴について説明していきたいと思います。

「無形」というものがどういう性質のもであるか、虚実篇では四つを挙げています。それでは本文を見てみましょう。

【書き下し文】
兵を形(あらわ)す極みは、無形(むけい)に至る。無形ならば、即ち深間(しんかん)も窺(うかが)うこと能ず、智者も謀ること能わず。形に因りて勝を衆に錯(お)くも、衆は知ること能わず。人は皆

もっとみる
(30)「兵」は「水」の性質-竹簡孫子 虚実篇第六

(30)「兵」は「水」の性質-竹簡孫子 虚実篇第六

虚実篇は、4段論法で理論が展開します。
一つ目が、人を致して致されず、つまり「佚」と「労」の関係 
二つ目が、「無形」の説明
三つ目が、「無形」を使った戦い方

四つ目は、勢篇の理論に戻り、「正奇」の戦法の組み合わせによって「虚実」を作り出すこと、つまりそれは、無限の組み合わせがあり、掴みどころがなく、また再現性がないということを述べます。

【書き下し文】
夫(そ)れ兵の形は水に象(かたど)る。

もっとみる
(28)多勢の敵を無力化する-竹簡孫子 虚実篇第六

(28)多勢の敵を無力化する-竹簡孫子 虚実篇第六

虚実篇の真骨頂は、多勢の敵を相手に、奇正の兵法を使い分け、敵軍に自軍を秘匿する「無形」によって、局所的に優位性を作り出す方法について述べました。そのポイントはいつどこで戦うのかという情報でした。

次からは、実際の強敵を想定して、どうするかについて詳細に説明していきます。孫武が仕えた「呉」の強力なライバルである「越」とどうやって戦うかであります。

【書き下し文】
以て吾れ之を度(はか)るに、越人

もっとみる
(27)「無形」-竹簡孫子 虚実篇第六

(27)「無形」-竹簡孫子 虚実篇第六

ここからは孫子の兵法の奥義中の奥義「無形」について解説します。

「無形」を理解するためには「形」が何なのかを知らなければなりません。「形」を単なる軍の態勢、形としての形と解釈していると「無形」の本質を理解することはできません。

「形」は戦力充実、戦力集中の状態であり、攻撃力も防御力もあるが、敵からは状況を把握されてしまう体勢です。
「無形」はその反対で、戦力が拡散し、秘匿されるが、その時は攻撃

もっとみる
(26)人を致して致されず一瞬-竹簡孫子 虚実篇第六

(26)人を致して致されず一瞬-竹簡孫子 虚実篇第六

虚実篇は、いわゆる形篇と勢篇の発展系であり、応用であり、彼我の間で戦力差を作り、戦わないで決着をつける方法にまで理論が展開していきます。

形篇と勢篇は、勢いを作るための一般的な理論でした。
虚実篇は敵軍との駆け引き方法であり、変幻自在に変化する「」奇の兵法理論の神髄であり、多くの研究者が絶賛している箇所です。

虚実篇は、彼我の間に勢いを作り出すために、戦力の差(虚実)を作り出す方法を述べていま

もっとみる