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(39)将軍の五つの欠格事項-竹簡孫子 九変篇第八

それでは九変篇の末尾の文章の解説です。ここは将の「五危」と言われるものです。

「九変の利」に通じて、地の利を得るかどうかは将軍によるからです。孫子は緻密に一つ一つ論理を積み上げていきます。ここまで述べてきた兵法理論の内容、積み上げてきた優位性は、将軍の性格によって台無しになってしまう、軍事において非常に重要な要素なのです。

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「五危」とは、「必死」「必生」「忿速」「廉潔」「愛民」の五つです。
一つ一つは、重要な能力です。

しかしこの「五危」の中の一つに偏っていて、全体のバランスが崩れていると、それが弱点になる訳です。

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「五危」があると、これまでの築いてきた我が軍の優位性が、危険な状況・体勢などに転落してしまう訳です。

孫子の兵法の戦い方は、自軍と敵軍は双方ともが、自軍の優位性を築こうとする主導権争いであり、将軍の判断ミスで優位性を失った方が負けるのです。

敵軍を「陽」から「陰」への変化させるのが「正の兵法」です。敵軍の「陽」と自軍の「陰を、敵軍を「陰」に自軍を「陽」に変えるのが「奇の兵法」です。


「変」とは、自軍の優位性を失わないという視点と、敵の優位性をひっくり返すとうの二つの視点があると覚えると良いでしょう。

【書き下し文】
故に将に五危あり。必死は殺され、必生は虜にされ忿速(ふんそく)は侮られ、廉潔は辱しめられ、愛民は煩(わずらわ)さる。凡そ此(こ)の五つの者は将の過ちなり、用兵の災いなり。軍を覆(くつがえ)し将を殺すは、必ず五危を以てす。察せざる可からざるなり。

【現代訳】
将軍には五つの欠格事項(五危)があります。決死の覚悟や勇敢さが強すぎれば、戦闘で死んでしまい、全軍を生き延びさせることばかり考えていれば、勝機を逸して敗れて捕虜になり、意気盛んで判断を下すのに素早ければ、侮られて罠にかかり、清廉潔白であることを信条にすれば、侮辱されて罠にかかり、兵士達に愛情を持ちすぎれば、部下の世話に手を焼いてしまいます。

この五つの欠格事項は、(将軍の良いとされる性質の一面の裏側にある過ちであり)用兵における大きな災いとなるものです。軍隊の有利な状況をひっくり返して将軍を敗死させてしまうのは、必ずこの五つの欠格事項(五危)が原因になります。それ故に詳細に考察しなければならないのです。

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