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ふるさと

懐かしい土地を訪れた。離れておよそ二十年。
育った場所ではあったが、
家族も親しい友もそこにはおらず、あえて訪れる理由はなかった。

不意に仕事で訪れることとなった。

歩く先の記憶の欠片を辿る。巧妙なパズルだ。
このパズルは決して答え合わせをすることができない。

明るい光が差し込む大好きな場所、いつもの遊び場である神社は主が不在となっていた。開放されているのにも関わらず、空気が滞り少し埃っぽさを感じる。

いつも通っていた竹やぶ。鬱蒼とした秘密の抜け道は、開発され明るい住宅路となっていた。

古い屋敷が並ぶ情緒的な坂道。
子供ながらにこの風情を感じるために、わざわざ急な坂道を上っていた。
飲んではいけませんと書かれた湧き水は、当時は飲めていたのか思い出せない。
好奇心旺盛な私なら、飲めればおそらく飲んでいたであろう。味は思い出せない。

家が窮屈でいつも外へ飛び出していた。行き先の河原であの頃のように寝そべる。景色は覚えていても川の流れの速さまでは覚えていないものだ。この速さだけが私を今に留めている。この流れを当時の私は感じていたのだろうか。人目は全く気にならない。

あの頃の私は、寝そべることでさえも人目を気にしてた。こんなに広い空、人もまばらで私は何を気にしていたのだろうか。


ふるさとは遠きにありて思ふもの
そして悲しくうたふもの
よしや
うらぶれて異土いどの乞食かたゐとなるとても

帰るところにあるまじや
ひとり都のゆふぐれに
ふるさとおもひ涙ぐむ
そのこころもて
遠きみやこにかへらばや
遠きみやこにかへらばや

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