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吐瀉物を奪い合ってる鳥の群れ いのちをつなぐ いのちをつなぐ

とある繁華街に住んでいた時期がありまして。
(誰がなんと言ってもあんなに治安の良い街はないと思っている)(何しろ通報からお巡りさんの到着までが尋常でなく速い)(だって通報される前から日常的に巡回しているから)

それでね、早朝家から出て歩くと、時期によっては吐瀉物なんか当たり前のようにある。忘年会帰り。28時の寒空の路上に放り出されたサラリーマンが吐いた。それを大小様々な鳥が、必要な食糧として奪い合ってる。
そうだね、それは確かにただのタンパク源かもしれないね。
それは数時間前までは、食材として提供されていたものであり、金銭と交換する価値のあるものだったはずであり。それがどうして、赤の他人が一度体内に入れて、体液と混ざって中途半端に分解されたそれをまた外界に戻した場合、耐え難く醜いものに見えるのだろう。

汚いと断じる判断材料を鳥は有さない。
だから彼らは吐瀉物を食べる。冬毛を膨らませて、食べることで命を繋ぐ。

何かを穢俗と見るのは見る側の目だなということの極地を見る。


あ、だからって他人の吐瀉物を食べろという話ではないです。

短歌初出:「かばん」2021.2月号

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