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ばらとたんぽぽ #マンガ感想文

こんにちは、椎名です。
今回も最近読んで面白かったマンガのレビューをさせていただこうと思います。今回もBLです。


『ばらとたんぽぽ』作:遠浅 よるべ
※上下巻

主人公はアラサーゲイカップルの征士郎とトモちゃん。
征士郎は人気少女漫画家でありながら、ラジオのパーソナリティとしてもゲイを公表しあけすけ赤裸々で歯に衣着せぬトークが人気を博している“ハイスペ彼氏”。

この話の軸になっているのは「性行為に対するトラウマの克服」。なので性描写だったり、下ネタだったりはそこそこある作品なので苦手な方は注意を。僕は好きなので全然大丈夫ですが。あくまで僕は、ですので。

 

征士郎は自他ともに認める性欲の塊。行為に対しても大変ポジティブで、興味があるなんてものじゃない。それに対しトモ君は過去の性的な、虐待とも言えるトラウマを抱えていることが原因で、征士郎と交際して3年経った今でもプラトニックな関係で、彼と夜をともにすることは一度もありませんでした。

この部分まで読んだ僕は、もしやプレイボーイに見えるしそう公言しているのは虚言で、実はトモくん意外とは行為もせず健気にプラトニックを貫いている…?と思ってしまった。というのも、レスなどの原因として(今回はトラウマが原因だから正確にはレスではないけど)、したい側が100%我慢することだけがパートナーシップの正解ではないと考えていて。その着地点はふたりが納得さえしていればカップルによって異なって良いと思うので。「したい側が悪っぽく、もしくは負担偏ってないか~?」なんて懸念していた。
しかし『ばらとたんぽぽ』はそうではなかった。征士郎とトモくんはオープンリレーションシップをとっていたのです。オープンリレーションシップというのは、パートナーの完全な同意の上、パートナー意外と関係を持つことが許されているパートナーシップのこと。完全な同意の上なので、ふたりにとってのパートナー以外との行為は浮気にはならない。トモくんにとっても、トラウマが原因で行為に対しプレッシャーや負担を感じながら無理に征士郎の気持ちに応えなくて良いので、精神的にも楽なんだろうなと感じた。だからラジオで征士郎がセフレだ性感マッサージだと話しても、トモくんはやきもちは妬いても浮気だと問いただすことはしなかった。「征士郎だけが丸っと我慢しているパートナーシップをとっているのなら、あんまり好みの作品ではないかも…」と感じていたのでこれはちょっと嬉しかった。したい側が我慢する以外の選択肢が描かれてる作品って貴重――――― しかもセフレたちとはちゃんと割り切った関係だし「トモくんがシテくれるならセフレ全員切るよ」って心は一途。いいぞ征士郎そういうの僕は好きだ。

そのまま上手く暮らしては行けそうだけど、トモくんも征士郎との関係に進展が欲しいのか、あることがきっかけで「このままだと何も変わらない」と自分のトラウマを克服して征士郎との行為を出来るように(できれば楽しめるように)なりたいと思いたつ。それを征士郎も喜んでいて。なかなか思うように進展しそうでしなかったりする、性に対してふたりで向き合っていくこの感じ、すごくリアル。

何となくまだ日本って、パートナーとの行為の話題とかって触れちゃダメな感じあるじゃないですか。でも実際は多くのカップルの間で、本来大切にされるはずのコミュニケーションで。その行為に対するコンプレックスやトラウマを一緒に乗り越えていこうという二人の姿勢が、シリアス過ぎず、時折朗らかに、ある意味で淡々と描かれていきます。実際も、そういうパートナー間で何かを乗り越えていこうとするときって、必ず淡々とした日常の中に組み込まれていくと思うんです。だから僕はこの『ばらとたんぽぽ』はBLというより同性愛作品に近い気がします。そもそもでBLだって異性愛者のそれと同じく「恋愛もの」だと思っているので「同性愛作品」と表現するのも少し違うかもしれませんが。

BL漫画読むときって、「尊…ッッ」とか「かわええ…」とかもしくは「このふたりを応援したい」とかって目線で読むことが多いのですが、征士郎とトモくんはなんというか、「同年代の当事者ゲイの体験談読んでる」感じがしたので、そう思ったのかも。ほんと、それくらいリアルに感じる。僕と彼女は身体女性同士のカップルだから、正確にはゲイカップルの日常を体感したことはないし、ゲイカップルがみんなオープンリレーションシップをとっているわけではないので、所感でしかありませんが。交際中に行為をする相手はお互いだけってゲイもレズビアンもいますし、そうじゃないカップルもいます。どちらが多い・少ないはあっても、どちらが良いかなんて本人たちにしか決められない。少なくとも征士郎とトモくんはふたりのパートナーシップを大事に思っているし、ふたりで居ることを楽しんでいて。それでいいじゃないって気持ちにさせてくれました。

しかし少なからずエロを求めて本書を開く場合、特に下巻の表現は読み手を選ぶかもしれません……!
やっと挿入(コラ)を含むベッドシーンに!というところで、それまでと違ったコミカルな演出になります。正直初見は予想外すぎてそっと本を閉じました。しかし見届けたい一心で再度開き、読み進めると「ふふっ」と思わず笑ってしまうのです。笑っても大丈夫なやつかなこれ……
でもそれはおそらく、カップルにとっての「行為」がエロや官能以外のものでもあるってことなのかなと。「俺のパートナー、エロいぜ」みたいなことしか考えていないわけではないし、滑稽に見えることもありますよね。行為はドラマや映画、もしくはAVの中だけでの出来事ではなくもっと日常の中にあるものだから。

僕がふたりの表現をリアルに感じたのは、もしかしたらいい意味で書きすぎていないからかな。ふたりの背景や心理描写といった情報の書き込みが必要最低限な感じがするので、それで感情移入しすぎず他者のものとして読めるというか。征士郎くらい吹っ切れたエロキャラも最近読んでなかったからかある意味新鮮で、いっそすがすがしくて好き。

キラキラ系BLも好きだけど、こういうのもいいなと思ったので、紹介させていただきました。

いろんなタイプのBL読みたいとか、体験談系の作品(本作はフィクションです)が好きな方にはおすすめです。あとBLと筋肉の両方が好きな方。ふたりとも良い身体されてます。眼福。

良かったら手にとって見てください。その際は下巻の表現についてぜひ感想をお聞かせください。


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