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父と僕とカムアウト 「BGMはGOING UNDER GROUNDからMr.Childrenへ。」

トキです。

年始に父親に、僕と嫁さんのことをカムアウトしました。
今回はその時のお話です。

 

2019年、僕は30歳になります。
一般的には結婚適齢期〜で、実際親戚から「結婚しないの?彼氏は?」なんて言われることもあります。
勿論父親からも何度か言われています。
30になるこの年が、カムアウトするにはいいきっかけになるかもしれないと考えたのです。
(因みに母親には嫁さんとのフォトウェディングを挙げる際にカムアウト済み。)

カムアウトすると決めたものの、どう切り出そうかいくら考えても答えが出ず。最悪のケースも考えていたので、年末の帰省が近づくにつれ気分が落ち込むことが多くなりました。
ライブ多めに入れておいて良かったとつくづく思った。やっぱり音楽って良いね。

そして年末。

 

 

12月30日。帰省。

「おかえり」
と迎えに来た父がにこやかに言った。
「ただいま」
と応えながら、この笑顔を失わせてしまうかもしれないという思いがこみ上げてきた。

…やっぱり、言うのやめようかな。

でも言わないままずっと居るのはお互いに良くない気がした。
一人で居ることではなく、嫁さんとちゃんと生きていくことを伝えたかった。

「…そういえば、最近CD買った?」


これは帰省の度に父と決まって交わす会話。
父とはお互いに最近聴いている音楽を、定期的にシェアしている。「持ってきたよ。良かったら聴いてみて」
この日僕が持参したのは、

GOING UNDER GROUND「ALL TIME BEST 〜20th STORY+LOVE+SONG〜」

布教の為に。

父からはMr.Childrenの「重力と呼吸」

持ってきた楽曲を父親のPCを経由して、曲を車で聴くために使っているSDカードに落としていく。
僕もミスチルをスマホに落としていく。

いつもの作業をしながら、頭の中はやっぱり「どうやって話そう」ということばかり。
嫁さんの地元も近いため、翌日の大晦日(父は別件で用事がある)は、嫁さんの実家で過ごす予定になっていたし、2日には離婚した母の家に行く予定なのでチャンスはこの30日か元旦の夜。
父との晩酌の時間に話すしか無いと思った。

 

そして。
父との晩酌の時が来た。
祖父母との食事も楽しんだものの、僕はこの時のことを考えて気もそぞろ。
夕飯からおでんやツマミになりそうなものをいくつか持って、父の部屋で晩酌。
テレビをかけながら飲んだはずなのに、なんの番組を見たのか、全く思い出せない。どれだけ頭に入っていなかったのかがよくわかる。

そうこうしているうちに、父が眠たそうにしてしまいこの日は断念。
カムアウトは元旦に決行しようと誓った。

 

 

翌12月31日。大晦日。


父の車に乗せられて嫁さんの実家へ。

車内では、前日に楽曲を入れたSDを父がセットしたので、ゴーイングのアルバムをシャッフルでかけた。

「このバンドいいよ」
「なんてバンド?」
「GOING UNDER GROUND」

知ってるかな、と「トワイライト」をかける。
スマホで嫁さんとやりとりをしつつ、父の様子を伺う内に曲が終わり、今度は「南十字」がかかった。
年末の冷たい空気と、田舎の夜の景色が楽曲によく似合っていた。

「この曲はいいね。」

そう言った横顔を僕は見ることが出来なかった。
いや、カムアウトしようと帰ってきてからまともに顔が見れなかった。

「私も、この曲好きだよ」

こうして、僕と父の2018年は夜の帳の中でゆっくり幕を下ろした。

 

 

1月1日。元旦。

「あけましておめでとうございます。今年も宜しくお願いします!」
「いえいえこちらこそ、今年も宜しくお願いします!」

父と嫁さんのお母さんが年始の挨拶を交わして、僕は嫁さんと父の三人で福袋を買いに行ったり、嫁さんを送り届けた後はこの後集まる予定の親戚の為に食事の準備と忙しく過ごした。

久しぶりに集まる親戚と過ごしている間も、やっぱりその後のカムアウトのことで頭がいっぱいだった。
食事会が終わり皆が帰ると、またいそいそと片付けをする。
片付けをしたら、お疲れ様ということで晩酌をするのが恒例。いよいよだ。

 

しかし思いもよらない事が起きてしまった。

 

飲みすぎたのか、父が潰れてしまった。

いつもよりは量も少なかったように思ったし、片付けをしている時もそこまで酔っているように思えなかったので油断していた。
おそらく年末進行の仕事で忙しくしていたところから、僕が帰省してしまって疲れていたんだろう。
思えば30日もいつもより早く寝てしまっていた。

もうカムアウトは今回の帰省では諦めるしかないかな。
最後のチャンスがあるとしたら、翌日。ふたりで初詣に行く予定だったのでその道中の車内だ。その後は母の家に向かう。今回の帰省でカムアウトするとしたら、あとはこの時しかない。

ハードルが低いと踏んでいた晩酌の時を逃したのは痛いと、正直思った。

 

 

1月2日。 初詣。

毎年参拝している大きな神社へは、車で30分程。

車内ではたしかback numberがかかっていた。

 


何度も何度も喉元まで出掛かった言葉はいつのまにかどうでもいい話題に差し替わり、本当に言いたいことは外に出ることなく勝手に飲み込まれていった。

幸か不幸か、いつもよりも道が空いている。
もうすぐ、神社に着いてしまう。
みんな初詣行けよ!と周辺住民に八つ当たりをするくらいしか出来なかった。

生まれてからずっと、初詣はこの神社だったけれどこんなに肩を落としながら、参拝をしたのは初めてだったと思う。

願い事はいつだって嫁さんとのことだし、お守りもいつもと同じものを同じように購入した。

あとはおみくじ。

結果は吉。僕は今まで引いたおみくじの中で、この日引いたものほど良い結果は無かったと思っている。
ここのおみくじは吉や大吉などの結果の下に、いつも結果についての一文とそれぞれの内訳が書かれている。

暗(やみ)に燈火(ともしび)を得たるが如し

是迄(これまで)諸事困難であったのが、灯火を得て万事良くなって来たのである。
但し、元の困難であった時の事を忘れてはならない。

思い立てること 着手して良い
願い事 叶う

 

たかがおみくじ、と思うだろうけど僕はこれを見てこの上なく背中を押されてしまった。

叶うのか。
万事良くなって来ているのか。

参拝を済ませ再び父の車に乗り込んだ。
これから母の家に向かう。

 

言おう。

 

僕は黙ったまま、楽曲を替えた。

父がぼそ、と「良いな」と言ったGOING UNDER GROUNDの「南十字」

手が冷たい。まるで氷のようだった。

また何度か喉元に言葉が来ては戻っていく。

すると父が手を伸ばした。

 

楽曲を替えたのである。
昨日僕がスマホにDLしたMr.Childrenのアルバムだ。

いや!今変えんでも!!!今ゴーイング聞いてたじゃん!!!

突然の行動に呆気にとられてしまった。

 

今聴かなくてもスマホに入れたからあとで聴くって!!!
なんで雰囲気ぶった切るかな!!!!???

もういいよ、言ってやるさ!!!

 

「あのさ、」

息が苦しい。

「今年、私30じゃない?
それで、言っておきたいんだけど…」
「ん?」

「多分私、一生結婚とかはしないと思う。」

かかっているハズのMr.Childrenは僕の耳に届かない。
まるで無音のような空気が車内を満たしていく。

「…まぁそれはお前の人生だからなぁ」

「もしかしたら、テレビとかで聞いたことあるかもだけど、私はLGBT当事者で、男の人と恋愛は出来ないから」

ああもう顔なんか見れない。
相変わらず氷のような手のひらは、感覚すら失ってしまいそうだった。

「だから男の人とは、結婚しない。」

「そうか…」

「ほんとは、昨夜とかその前とか、言いたかったんだけど、お父さん寝ちゃうし」

「でもこういうことは、飲んでない時の方がいいかもしれないよ。」

「ごめんなさい。」

 

「で、察したかもしれないけど、相手は●●(嫁さん)なのね。だから一緒に住んでて。」

「…」

「実は2年前にフォトウェディングもやってて。
本当はその時言いたかったんだけど、ずっと言えなくて。ごめんなさい。」

「…お母さんには?」
「このあと言う。」

「ま、それは無理に言わなくてもいいよ。」

「うん。」

「お前の人生だから。」

 

その言葉は僕に向けてだけでなく、父自身へ言い聞かせているように聞こえた。
小心者の僕は、やっぱりちゃんと顔を見れなかった。

いくら話そうとしても寝ちゃったり、
気持ちを作ろうと好きな曲をかけても換えられたり、
結局は父親のペースで。

その後、父からのLINEで
「フォトウェディングの写真、お父さんにも見せてください」
と来たので次に会う機会に見せようと思う。

一応、カムアウトは成功かな…?

 

父が「好き」と言ってくれた「南十字」は、
暗い闇の中で見えるものを頼りに一生懸命、新しい世界を目指してボートを漕ぐ曲。

父に本当のことを隠して、後ろ暗い思いをしてきた。
僕はその暗闇の中で、灯火を得てカムアウトをした。

今までも父は嫁さんや嫁さん実家に良くしてくれたけど、これからも、家族ぐるみで関われたら良いなとおもう。

 

暗闇の頃の気持ちも、忘れずに。

 

とりあえず僕もミスチル聴くので、お父さんもゴーイング聴いてください。

今度はなにを布教しようかな。

₍ᐢꙬᐢ₎サポートいただけたらめちゃくちゃモチベーションが上がります! 良ければ一緒になにか面白いこととか出来たらうれしいです。